■1試合平均入場者数(前年同時期比)
(1)阪神 4万1904人(+0.0%)
(2)巨人 3万9469人(+1.9%)
(3)ソフトバンク 3万7284人(-0.6%)
(4)中日 3万4338人(+6.2%)
(5)DeNA 3万3156人(+1.7%)
(6)日本ハム 3万389人(+11.2%)
(7)広島 2万7885人(-2.1%)
(8)オリックス 2万7762人(-6.9%)
(9)ヤクルト 2万7742人(+1.2%)
(10)ロッテ 2万6197人(-1.8%)
(11)楽天 2万3749人(+5.0%)
(12)西武 2万3433人(+14.1%)

セ・リーグ6球団計:898万9347人(1試合平均3万4180人、前年比1.4%増)
パ・リーグ6球団計:738万5875人(1試合平均2万8083人、前年比2.6%増)

 今回注目したいのが、比較的数字が安定傾向にあるセ・リーグの数字だ。唯一前年比減(-2.1%)となったのは広島東洋カープ。前半戦の入場者数は119万9041人で、1試合平均が2万7885人と、昨年(2万9376人)より1500人ほど減っている計算になる。最下位(8月25日現在)のヤクルトが+1.2%、僅差で5位の中日が+6.2%であることを考えると、あくまで前年との比較ではあるが、成績で下回るチームより苦戦しているのは意外なところ。確かに、広島の“ファン離れ”は昨年後半から話題になっており、7月2、3日のヤクルト戦では2万1000人台、同15、17日のDeNA戦でも2万3000人ほどと、3万人以上のキャパシティを考えると極端に入場者数が少ない試合が散見される。

 要因としてSNS、ネットニュースなどで挙げられているのがチーム成績の低迷で、「熱狂的な応援で知られる一方、チーム状況が動員に大きく影響するところがある」とマスコミ関係者も証言する。昨年は8月までセ・リーグ首位を走りながら、9月に5勝20敗と大失速。最終的に4位まで転落してクライマックスシリーズ(CS)進出を逃した。今年も5月には首位に立つなど序盤は好調だったが、7月に4勝16敗3分けと失速。首位の阪神に大差をつけられている。

 「カープ女子」というワードが「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップテン入りしたのが2014年。鈴木誠也外野手らスター選手を擁してリーグ3連覇を達成した2016〜18年前後に、その勢いは最高潮に達した。黄金期を迎えた中でチケットは争奪戦となり、マツダスタジアムに空席があることなど考えられない時期が続いた。チーム力が観客動員を左右するのは健全な姿にも思えるが、成績に関わらず増加している球団があるのも事実。2017、18年には年間で1試合平均3万人超の入場者数を記録し、社会現象にもなった当時の盛り上がりには及ばないのが現状だ。

 「三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルによる共同調査」による「2024年スポーツマーケティング基礎調査」では、スポーツ参加市場規模が約1.7兆円で前年比24.0%増を記録。特にスタジアム観戦市場が8151億円で同57.0%増と大幅に伸長。過去1年間にスタジアム・競技場でスポーツ観戦をしたと回答した人の割合は前年の15.8%から20.3%と増えており、新型コロナ禍以前の2019年の水準(21.8%)に近付いている。観戦者1人当たりの平均観戦回数は前年の3.5回から4.0回に増加。観戦に関わる年間の支出総額は5万1411円で前年比26.7%増だった。スポーツ全体を見ると、ライブでの観戦意欲は国民的にかなり高まっており、プロ野球全体の動員が過去最多ペースで推移している今年の数字にも、それは表れている。

 この波に乗っている球団には、どういった特徴があるのか。DeNAの初代球団社長を務めた池田純氏は「勝った、負けたの世界は本質的にコントロールできない。そこに興味を持たないようにしている」と経営者としての矜持を語っていたことがある。

 IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)は、「カープ女子」ブームが起こる少し前、2011年末に球団の経営権をTBSホールディングスから取得した。「スポーツがビジネスになると思っていた人なんて全然いなかった」(池田氏)という時代に、年間25億円あった赤字を横浜スタジアムの友好的買収(TOB)など革新的な取り組みを行って解消し、黒字経営へと転換した。閑古鳥が鳴いていたハマスタに人を呼ぶため、イニング間演出の充実や女性ファン向けのイベントなど斬新な企画を実施。球団オリジナル醸造ビールの開発では、米ポートランドやドイツにまで関係者が視察に出向き、本格派の味を追求する飲食改革も実行した。

 娯楽・エンタメが多様化する時代。連日のように95%超の動員率をたたき出しながら、コロナ禍の期間を除いて年間の動員数をいまだに増やし続けるのには、やはり理由がある。岡村信悟氏、木村洋太氏と球団トップが交代する中でも、その哲学は不変。最近では、リレーでチアグループと対戦するファン参加型の新たな企画「ハマスタバトル」が人気を博し、今年は「推せ推せ! YOKOHAMA☆IDOL SERIES 2025」と題したイベントを6月17~19日の西武戦で実施。「=LOVE」「CANDY TUNE」ら人気アイドルを招いて試合前後に本格的なライブを開催するなど、野球そのものに興味のなかった層を呼び込む新機軸を次から次へと打ち出している。結果、2005年に97万6004人だった年間動員数は2024年に235万8312人と2.4倍にまで増加。「選手のモチベーション向上に一番効くのは、満員にすること」という池田氏の持論通り、最下位が当たり前だったチーム成績もAクラスの常連になるまでに押し上げられている。

 今ではプロ野球にビジネス的成功を持ち込み、新たなファン層を開拓した先駆者という文脈で語られることが多くなったDeNAだが、そもそも球団運営に乗り出した当初、2009年に開場したマツダスタジアムのノウハウを学ぼうと、関係者を何度も視察に送り込んでいた経緯がある。メジャーリーグを思わせる左右非対称のフィールド、ウッドデッキなどさまざまな形が用意された応援席といった斬新な取り組みを一つの参考に、ハマスタは「ボールパーク化」を実現していった。

 ただ、互いの歩みは大きく異なる。例えば放映権の扱い。DeNAがDAZN、U-NEXT、FOD、ニコニコ生放送といった複数の配信サービスで横断的に試合中継を行い、多種多様な観戦環境を通してライト層への「接点」を増やすことで裾野を拡大してきたのと対照的に、広島は地元のテレビ局への配慮もありDAZNと12球団で唯一契約を結ばないなど独自の方針を貫いてきた。

 DeNAはBリーグやJリーグにも参入し、各所にライブエンターテインメント施設の建設を計画するように、親会社の主力事業となったスポーツ・エンタメの一つの柱に野球を据えている。一方、特定の親会社を持たない唯一の市民球団を源流とする広島が、比較的野球という競技そのものに特化してきたのは必然だろう。もちろん、どちらが良い悪いの話ではない。エンタメか、競技か。魅力の打ち出し方に違いがあれば、取り組みにも違いが生まれるのは当たり前だ。

 そもそも「カープ女子」も地元ではなく、赤いユニホームのおしゃれ度などから関東で始まったブームと言われる。当時のプロ野球では女性ファン自体が珍しく、そのワードに注目が集まったが、球場を訪れる女性の比率は年々高まっており、球団関係者によるとマツダスタジアムの観客の男女割合にも今や大きな偏りはないという。日常の光景となった女性ファンを一定の呼称で特別視する必要はない。一過性のブームが去って男女限らず熱い応援をするファンが残り、市民球団として支えてきた世代が高齢化する中、それらの要因が相まって広島はその分、チームの浮き沈みと入場者数の因果関係が強く出やすくなっているということだろう。

 例えば、ヤクルトは東京・青山にある本拠地(神宮球場)を置く立地の強みを生かし、連日打ち上げる花火による演出なども加えてチームの低迷とは無関係に観客動員を増やしている。パ・リーグでは、2023年に開場したエスコンフィールドHOKKAIDOを本拠地にする日本ハムの盛況ぶりが目立つ。今季前半戦の1試合平均入場者数は、前年比で12球団2位となる11.2%増の3万389人を記録。こちらは優勝争いを展開するチーム状況によるところも当然あるが、試合開催日以外のにぎわいまで創出している点は見逃せない。球場を含むFビレッジエリアにはレストラン、遊戯施設のほか、ホテルや温泉・サウナを備えた「TOWER11」を建設。2023年の来場者、年間346万人のうち約4割が野球観戦以外の目的で訪れており、非試合開催日の来場者は平日で4500人、休日は1万人との調査結果もある。もはや、「球場」が北海道屈指の人気観光スポットになっているのだ。

 もちろん、最大のファンサービスはチームの勝利であり、熱烈なファンにとってそれ以上の喜びはない。ただ、勝敗のあるスポーツで、誰もそこはコントロールできない。ならば、勝敗、チーム成績とはまた異なるファンサービスを用意するのも、また一つの在り方といえる。

 広島でも今年8月1~3日、同22~24日の中日との6試合で、実に4年ぶりの“復活”となる特別ユニホームを着用するイベントを実施。アメフトをイメージしたデザインが全国的に話題となり、特に同2日、23日の両日は今年の平均を大きく上回る3万1000人超の来場者でにぎわった。これは、昨年11月の契約更改時に栗林良吏投手が他球団の取り組みを例に「ファンの皆さんに喜んでもらえるのでは」と球団に“直訴”し、実現したもの。こうした取り組みの成果は着実に出ているようで、1試合平均観客動員は8月25日現在で2万8533人と、シーズン終盤を迎えて上昇トレンドに転じてきている。

「皆様の本拠地・マツダスタジアムは単なる野球場を超えて広島という街そのものの表情を映し出しています。その日の天気よりも、試合の勝ち負けが話題になる日常に私たちは何度も胸を打たれてきました。カープを通じて街がひとつになる。その姿はまさに『地域とチームの理想の姿』であり、私たちが目指す未来でもあります」

 日本生命セ・パ交流戦で、日本ハムは広島との3連戦を終えた6月15日、こんな球場スタッフからのメッセージをエスコンフィールドの大型ビジョンに映し出した。広島ファンのチームに対する熱量の高さは、多角経営を推進する他球団にとってもリスペクトの対象となっていることが、よく表れた光景だった。

 例えば、業績好調なDeNAといえど、1998年から遠ざかるリーグ優勝を成し遂げられないままでは、いつか新規ファンの気持ちが離れないとも限らない。熱烈な地元ファンに支えられる広島も、世代交代を見据えて新たな顧客も開拓していくことが、持続的な運営には欠かせない。勝利か、ビジネスか。どちらかが好調なら安泰という時代ではない。厳しい社会情勢の中、この両輪をまわしていくことこそが今の球団経営、スポーツ運営には求められている。


VictorySportsNews編集部

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