文=杉園昌之

ユニフォームの広告に規制なし

 今季は関東大学サッカーリーグを戦うチームのユニフォームを見ると、かつてないほど「胸の周り」が賑やかだ。

 筑波大の胸に「ジョイフル本田」が付いていることは知られていたが、昨季から明治大に「KIRIN」、そして今季から流通経済大には「ANA」のスポンサーロゴが入っている。これまで「胸の周り」には大学名をあしらうか、ワンポイントで校章を付けるのが主流だった。それだけに、大企業の名前が入ることに驚きを隠せない関係者も多い。

 関東大学サッカー連盟に聞くと、日本サッカー協会が定めるユニフォーム規定に沿っていると言う。広告を入れることに対し、連盟としては特別な規制を設けていないのだ。

 胸ロゴに「KIRIN」のスポンサーを付けている明治大は、計4社から支援を受けており、そこから得た資金は部活動に必要な物品購入などに充てている。栗田大輔監督は、金銭面以外の効果についても触れていた。 

「人(スポンサー)から見られている、支援してもらっているという思いを持ってプレーすることで、選手たちにより責任感が出てきた。社会との接点を持つことはいいこと。学生の意識は変わってきた」

 流通経済大の中野雄二監督は、実利の面もはっきりと口にする。同チームのユニフォームには肩や背中など、計5社のスポンサーが付く。J1クラブは胸ロゴだけで1億円から2億円という額のところもあるが、アマチュアチームではそうはいかない。ケタは大きく違う。それでも、大学サッカー部の活動を支える足しになっている。

「ウエアを提供してもらえば、選手は買わずに済む。強化合宿などで海外に行けば、遠征費の補てんもできる。例えば、35万円かかるところを10万円だけにするとか」

 中野監督は、教育費の増大が親の大きな負担になっているとしみじみと話す。

「うちの場合、(サッカー部の)学生の半分くらいが、何らかの奨学金を借りていると思う。大学に来るまでにも教育資金を多く使っている。例外はあるが、40、50代の親の経済的な体力は、そこまでない気がする。子どもにサッカーを続けさせるのも楽ではない」

練習環境はJクラブにも匹敵

©Getty Images

 流通経済大はユニフォーム以外にチームバスや練習着などにも広告を入れており、毎年、平均12、13社のスポンサーから支援を受けている。私立とはいえ、3面のサッカー専用グラウンドを持つなど、環境は一部のJ2クラブ以上と言ってもいい。なぜ、そこまでの練習環境を整えることができるのか。サッカー部の活動費を支えるのは、スポンサー料だけではない。

 流通経済大は毎年のように多くのプロ選手を輩出しており、そこから得る「トレーニング費用」も強化資金となる。日本サッカー協会(JFA)はJクラブが高校生や大学生を獲得する場合、その学校へ育成費用を支払う制度を設けている。在籍1年あたり30万円。大学4年間になると120万円になる。内々にトレーニング費用の免除願いを出してくるところもあるようだが、原則的にはJFAがJクラブから徴収し、学校へ支払われる仕組みとなっている。流通経済大ではこの資金も活動費に充てており、チームで所有するバスも選手の疲労を減らすため、快適な大型観光バスに。トレーニング費用を有効活用している。

 中野監督は、教育の一貫として大学スポーツがあるというスタンスを保ちながらも、「興行としての視点をもっと持ってもいい」と強調する。今回、胸ロゴを入れたのも「一石を投じたかった。大学サッカーに注目してもらいたい」という思いがある。多くの障壁を承知の上で、大胆な案を口にする。

「Jリーグが土日開催なら、大学サッカーは平日開催でもいいのではないか。全てのカテゴリーが週末に集中するので、スタジアムの確保も大変になる。もちろん、授業の問題があって、簡単ではないことは分かっている。ただ、平日にすれば、サッカーファンは大学サッカーに足を運びやすくなるはず。せっかくプレミアムフライデーもできたし(笑)。もし金曜日に試合が開催されれば、選手を含めた大学サッカー関係者も、週末開催のJリーグへ足を運べるから。現状ではなかなか行けない」

 昨今の大学サッカーのレベルは言わずもがな。現在の日本代表を見ると、明治大出身の長友佑都(現インテル=イタリア)をはじめ、拓殖大出身の小林悠(現川崎フロンターレ)がいる。ドイツ・ブンデスリーグ1部のマインツで活躍する武藤嘉紀(写真)は慶応大でプレーし、在学中にFC東京とプロ契約を結び、その後、日本代表キャップをマークしている。

 いまもサッカーファンを呼ぶだけのタレントはそろっている。Jクラブの下部組織出身でコアなサポーターに支持されてきた若き才能、全国高校サッカー選手権で活躍したヒーローなどなど。あとはプロモーション次第か。大企業の広告がユニフォームに入り、脚光を浴びつつある。大学サッカーというコンテンツを誰がどのように生かしていくのか。今後の展開に注目していきたい。

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杉園昌之

1977年生まれ。ベースボール・マガジン社の『週刊サッカーマガジン』『サッカークリニック』『ワールドサッカーマガジン』の編集記者として、幅広くサッカーを取材。その後、時事通信社の運動記者としてサッカー、野球、ラグビー、ボクシングなど、多くの競技を取材した。現在はフリーランス。