文=生島淳

スポーツの視聴環境の変化により広告収入が激減

 衝撃のニュースである。アメリカでスポーツ専門チャンネルといえば、「ESPN」だ。テレビでは数々のチャンネルを持ち、ラジオ、雑誌、ホームページも充実している。私もどれだけ情報を収集し、影響を受けたか分からない。

 そのESPNが4月26日、スタジオホスト、解説者、記者の大量解雇を発表した。かつての有名選手、私も長年、記事を読んできた記者がそのリストの中に入っていて、衝撃を受けた。

 2015年の時点で、ESPNのアメリカ内の契約者は9439万6千世帯にのぼり、これはアメリカの少なくともテレビを1台持っている世帯の81パーセントにあたる。アメリカの8割の世帯がESPNと契約し、しかも頻繁に見ることが多いのだ。

 ところが、状況が一気に悪化した。理由は明快。「サブスクライバー」と呼ばれる契約者が減り、広告収入も減少していたのだ。

 では、そんな状況に陥った原因は何か? スポーツの視聴環境の変化である。近年、メジャーリーグの「MLB.com」、NBAの「NBA.com」と契約すれば、金額次第で全試合をインターネットで見ることが出来るし、お気に入りのチームの試合だけを契約して見ることも可能になった。wi-fi環境さえあれば、いつでもどこでもスポーツの中継を楽しめる時代になったのである。

 つまり、メジャーリーグやNBAといった主催者側が、自分たちのコンテンツを「放映権」という形で放送局と売るのではなく、自分たちで「直接販売」するようになったことで、放送局の意義が相対的に低下したのである。

「5年後」の2022年に日本でも同じことが起きる!?

©Getty Images

 時代の流れは速く、激しい。もともと、スポーツの世界を変えたのはESPNだった。1979年に放送を開始したこのスポーツ専門チャンネルは、「ESPN Sports Center」というスポーツニュースが看板番組となった。試合のハイライト映像に合わせ、スタジオホストが軽快にナレーションを読み上げる。BGMもアップテンポで、とにかくエンターテインメント性が高いのが成功の要因だった。

 私はいまもアメリカに出張すると、夜に「ESPN Sports Center」を観るのが日課になっている。観ていて楽しいのだが、このニュースの特徴は、あくまで主人公は「試合の流れ」だということだ。

 現在の日本のスポーツニュースは、「人」に寄り過ぎで、ひとりの選手を中心に試合の展開を振り返る。これでは、試合の流れが分からない。しかし「ESPN Sports Center」は、試合の展開を中心に据え、そこに演出を加えていく。

 番組のクオリティは落ちていないし、冬から春にかけてのカレッジ・バスケットの中継は他を圧倒している。それでも経営的に苦戦を強いられているというのは、スポーツを視る形態が大きく変化しているとしか言いようがない。

 それにしても、スター記者が電話一本でレイオフ、解雇されてしまう現実に慄然としてしまう。俗説で「アメリカは日本の5年先を行く」とよく言われるが、ひょっとしたら、日本にも2022年に同じような問題が起きるのではないかと、私自身、戦々恐々とせざるを得ない。

 日本では「DAZN」(ダゾーン)が上陸し、スポーツの視聴形態を変えつつある。2019年のラグビー・ワールドカップ、そして2020年の東京オリンピックまではスポーツメディアもなんとか踏ん張るだろう。しかし、その先は……。

生島淳

著者プロフィール 生島淳

1967年、宮城県気仙沼生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務のかたわら、取材・執筆活動に携わる。1999年に独立。NBAやMLBなど海外ものから、国内のラグビー、駅伝、野球など、オールジャンルでスポーツを追う。小林信彦とD・ハルバースタムを愛する米国大統領マニアにして、カーリングが趣味。最近は歌舞伎と講談に夢中。