何度も説得試みるも、PSG移籍は秒読み

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連日大きな話題となっているFCバルセロナ、ブラジル代表FWネイマールの移籍騒動だが、どうやらPSGとネイマールの間ではかなり前から密約(=移籍合意)がなされており、8月に入ってから正式発表を行うとの取り決めがあったようだ。
 
7月23日にFCバルセロナのピケがTwitterでネイマールとの2ショット写真に「(彼は)残留する」という文字を載せて発信したように、南米3トップの「MSN」を形成するメッシ、スアレスも含めてUSAツアー中のバルサの主力はネイマールと何度も話し合いを持ち、引き止めを試みたようだ。
 
その時期にはバルセロナ寄りの地元メディアもネイマール残留に希望を持たせるような見出しや記事を並べたが、残留を楽観視する期間は数日と持たなかった。29日にマイアミで行われたエル・クラシコ(レアル・マドリード戦)前からスペイン国内ではネイマールに対する風向きが強くなり、地元メディアからは「移籍は決定的」という報道のみならず「沈黙を続けるくらいなら、契約解除金を残して早く去ってくれ」といった厳しい意見も出るようになった。
 
日本の報道を見ていると、スペインメディアを忠実に翻訳する記事が並び、肝心の移籍プロセスの分析が抜けている内容が多いと感じた。よって、ここからは現地の報道を横流しするのではなく、「サッカー史上最高額」のビッグディールが実現することになった経緯の背景やポイントを解説していきたい。

トップレベルの選手を「落とす」ポイントは?

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まず今回のネイマールのPSG移籍の主人公は間違いなく「ネイマール・シニア」ことネイマールの父親だ。ネイマールクラスの世界的スター選手になると、交渉の度に成功報酬なるコミッションが選手エージェントに入る。報道によれば、ネイマールの選手エージェントである父親に対してPSGは3600万ユーロ(約46.8億円)もの移籍コミッションを支払うことを約束しているという。ちなみに、2016年にバルセロナと契約更新した際にもネイマールの父親は成功報酬として2600万ユーロ(約33.8億円)ものコミッションを受け取り、その支払は7月31日までに完了する。
 
エル・クラシコ前に『ESPN』のインタビューに応じたピケが煮え切らないネイマールの対応に業を煮やして「優先順位を考えるべき。何が必要なのか?お金なのか? タイトルなのか?」と発言していたが、ネイマール本人はそこまで強欲にお金を欲してはいないはずだ。メッシもそうだが、彼ほどの選手になれば純粋に「サッカーが好き」、「レベルアップしたい」という考えでプレーに集中しているもの。
 
だからこそ、彼クラスの選手を口説く時に大切になるのが、本人以上に決定権を行使できる人物を素早く落とすこと。家族が選手エージェントを兼ねている場合には、間違いなくその家族がキーパーソンとなる。PSGは戦略的にネイマールの父親や取り巻きを囲い込むことでネイマールが首を触れない状況に持ち込み、仮契約のサインまで取り付けたと推測する。
 
皮肉にはなるが、ピケの発言になぞって、「PSGは交渉の優先順位をわかっていた」と言うことができる。昨年、バルセロナと契約延長交渉を締結した以上、息子がバルサでプレーし続ける限りは次なるコミッションは新たな契約延長交渉までやってこない。そう考えると、1年も経たないタイミングで新たなコミッション収入の機会は、ネイマールの取り巻きにとっては「ビッグビジネス」なのだ。

2億ユーロは「天文学的数字」だったはずだが……

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さて、具体的にPSGがネイマールの獲得に向けて動いているオペレーションの形式は、ネイマールがバルセロナと結んでいる契約における「契約解除金」2億2200万ユーロ(約286億円)を支払うことだ。
 
ラ・リーガのクラブは、選手との契約において「契約解除金」を設定しているケースが多い。ネイマールもバルセロナとの契約においては契約解除金を設定しており、昨年行なった契約更新において、その解除金が段階的に引き上がる契約を結んでいる。昨年2億ユーロだった契約解除金も、今夏は2億2200万ユーロにまで引き上がっている。
 
通常ネイマールのようなクラブにとって「欠かせない中心選手」の契約解除金は「法外な(=引き抜き不可能な)」金額に設定する。昨夏のポグバのマンチェスター・ユナイテッドへの移籍金が推定1億1000万ユーロで、それが現在の「史上最高額」となっていることからもわかる通り、これまで「2億ユーロ」は法外どころか「天文学的」数字と見られていた。

さらに、契約解除金の支払いでの移籍となる場合、PSGが用意すべき金額は2億2200万ユーロだけに留まらず、税金や仲介人、エージェントへの移籍コミッションも負担することになるので総額で3億ユーロ(約390億円)を超える金額が必要となる。PSGがUEFAファイナンシャルフェアプレーに抵触しない形で表向きとしてどのように用意するのかは不明だが、カタール資本のオーナーに潤沢な財源があるのは周知の事実だ。

実現すればバルサのモラル、イメージに大ダメージ

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今回の世紀の移籍が実現すればPSGはこれまで「1億ユーロ前後」が天井だった移籍市場における移籍金の相場を大きく変えてしまうことになる。それと同時に、バルサにとって「為す術なく“クラック"(世界的スター選手)を手放す」今回の事例はクラブのモラルとイメージに大きなダメージを与える。
 
これまでバルサというクラブは世界中の選手にとっての憧れ、最終目的地であり、キャリア絶頂期にある中心選手が他クラブからのオファーを受けて出ていくことなど考えられなかった。裏を返せば、ルイス・フィーゴのような特殊な移籍事例を除きラ・リーガのみならず欧州の「二強」たるバルセロナ、レアル・マドリードはこれまでスポーツ面でも経済面でも「世界最高レベル」の条件を選手に提示できていたということ。
 
しかし、ネイマールのPSG移籍が実現すれば少なくとも移籍市場と経済面におけるヒエラルキーに風穴が開く。新天地でのネイマールの年俸がバルセロナ時代の約2倍(1600万ユーロから3000万ユーロ)になる点を見れば、少なくともバルサにとっては厳しい時代の幕開けとなる。
 
実は、PSG側からすると契約解除金支払いの形式は前述の通り総額3億ユーロ超えとなることから、バルセロナに対して「2億2200万ユーロ以上の移籍金を用意するので、クラブ間交渉による移籍金の支払い」による移籍を提案している。しかし、プライドやモラルを著しく傷つけられたバルサはおそらく体裁的に「交渉には応じない」強気の姿勢を通すだろう。
 
最後に、バルセロナより前にラ・リーガのハビエル・テバス会長が強気の姿勢で「ネイマールを獲得しようがしまいが、PSGをファイナンシャルフェアプレー(FFP)違反としてUEFAに告発する」と発言している背景を説明しておこう。ラ・リーガとしても移籍市場におけるビッグ2(スペインクラブ)の影響力低下を避けたいというのがまず一つ。
 
もう一つはラ・リーガのクラブからのスター選手の放出を避ける狙いだ。慣習としてスペインは、中心選手に法外な契約解除金を設定して、その数字によって「君はうちのクラブにとって大切な選手だ」というメッセージを内外に伝えてきた。しかし、今回2億2200万ユーロもの契約解除金の支払いが行なわれてしまえば、メッシの「3億ユーロ」という契約解除金を支払うクラブまで出てくる危険性がある。
 
数日内に発表されるはずのネイマールのPSG移籍は、欧州移籍市場の相場やヒエラルキーを変容させるエポックメイキングなオペレーションなのだ。
 
<了>

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