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■オランダとフランスの融合

ベルギーの育成年代を指導したボブ・ブロウェイズは、「4-3-3は、育成年代の選手にとって最適な学習環境だ。選手たちにドリブルを奨励し、自由にプレーさせることが出来る」と断言する。様々なシステムを採用したチームが点在していたベルギー国内のクラブに働きかけ、システムの統一を目指したことは「目指すべきフットボールスタイルの共有」という意味で重要な役割を果たした。ドリブルによってボールを持ち運ぶスキルと意識はアタッカーだけでなく、ベルギーのCBにも浸透している。

しかし、一方で「オランダ的」な4-3-3への拘りだけでは十分ではない。近年のオランダが国際舞台で苦しむ理由の1つに、育成年代での質的優位への依存がある。ウイングにフィジカル面で相手を圧倒出来るカードを置くことで育成年代での結果を残すオランダだが、フィジカル的な優位差が狭まる世代では、力押しは通用しづらい。

たとえばジョディ・ルコキは、オランダのユース世代では規格外のフィジカルとスピードを武器にサイドを制圧。トゥーロン国際大会でも、日本代表の守備を苦しめた。しかし、結果的に彼はオランダ代表では機会を得ることが出来なかった。順調な成長を期待された怪物は、結果的に母国であるコンゴ代表を選択。現在は、ブルガリアリーグでプレーしている。

重要となるのは、オランダの一貫したシステムの共有をベースにしながら、個人の特性に着目したフランス的なアプローチを融合したことだ。アンソニー・マーシャルやキリアン・ムバッペを輩出した大国は、システムや戦術に縛られない育成によって選手の個性を引き出す。長所と短所を明確に見分け、個人をベースにアプローチすることが、様々な個性のアタッカーを生み出す1つの秘訣だ。

例えばアンデルレヒトでは、強烈なフィジカルを武器にしていた10代のルカクに徹底的に技術を教え込んだ。スピードとパワーだけでは通用しないレベルに彼が辿り着くことを見越し、苦手なプレーの改善に取り組ませていたのだ。だからこそ、現在のルカクは中央で止まってボールを待つだけでなく、手薄なサイドに流れながらボールを受けることも出来る。

ベルギーのユース代表時代、フィジカル面で通用していなかったデ・ブライネとクルトワを起用し続けたことも、指導者達の傑出した観察眼を示している。「正しい判断が出来る選手」として評価されていたデ・ブライネとクルトワは、フィジカルの成長が同年代に追い付いた時には「欧州屈指の素材」として仕上がっていた。

さらに「判断力という最も重要な資質を有する選手」は、プロになってからも飛躍的に成長する可能性が高い。デ・ブライネはチェルシーでジョゼ・モウリーニョの求める役割に適応出来なかったが、ドイツの地で覚醒。マンチェスター・シティに移籍すると、サイドでのプレーによって幅を広げ、ペップ・グアルディオラとの出会いによってセントラルハーフという境地を開拓。エリアを選ばずに自分の武器である判断能力を活かし、得点機を生み出すことが出来る欧州屈指のMFへと変ぼうしつつある。判断能力の重視は、ベルギーの育成における1つの特徴だろう。

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■協会主導での育成計画

サッカー協会がWEB上で公表している育成計画にも、様々な要素が盛り込まれている。研究者の調査をベースに、育成年代の試合でのボールタッチ数を割り出したことも重大な発見だった。選手が十分にボールタッチの回数を保てるように、育成年代では少人数でのゲーム形式を採用。

5~7歳では2 vs.2での練習によってドリブルとシュートの技術を磨き、7~9歳では5vs.5へとレベルアップ。狭いスペースでショートパスの技術を磨き、上のカテゴリーに進んでいくに従って実際の試合に近づいていく。また、年代を問わずにゾーンディフェンスを採用することも1つのポイントだ。それについても、「試合の流れを読む能力」「状況の判断力」「攻守両面で組織的に動く能力」「コミュニケーション能力」を高めることが出来るという明確な理由が示されている。

少人数制の試合や、ゾーンディフェンスの採用。実際に育成年代で行なわれている施策自体は、特に珍しいものではない。しかし、ベルギーのサッカー協会は全ての施策を明確な意図と共に統合することによって、「強豪国の育成論を融合すること」を可能にした。また、彼らの育成への拘りの根底には「限られた子どもたちから優秀な選手を見つけ出し、育てなければならない」という強い危機感がある。

ブラジルやフランスのような強豪国の「競争をベースとした育成スタイル」とは異なり、「普通では見逃されてしまう素材であっても磨き続けること」によって怪物を生み出すベルギーの育成には多くのヒントが隠れている。

<了>

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結城康平

著者プロフィール 結城康平

宮崎県生まれ、静岡県育ち。スコットランドで大学院を卒業後、各媒体に記事を寄稿する20代男子。違った角度から切り取り、 異なった分野を繋ぐことで、新たな視点を生み出したい。月刊フットボリスタで「Tactical Frontier」が連載中。