3年で12億円を受け取るも、1軍登板は1度のみ

松坂大輔、ソフトバンクを退団へ。

そのニュースが駆け巡ったのは、福岡ソフトバンクホークスが横浜DeNAベイスターズとの日本シリーズを戦っている最中、11月4日の朝であった。その後、各マスコミも続々と後に続いて「松坂退団」を報道した。その日は3勝2敗で迎え、最終的にはソフトバンクが勝利して日本一を決めた日本シリーズ第6戦の日。これから始まる激闘に水を差すかのような一報ではあったが、球界を揺るがせたのもまた事実だった。

ソフトバンクを退団するに至った経緯はこうだ。右肩の故障により、ソフトバンク加入後の3年間で1軍登板わずか1試合に終わっていた。復帰に意欲を持ちながらも、そのメドが立たない右腕に対してソフトバンク球団サイドは、かつて右肩故障に苦しんだ斉藤和巳氏のように一度支配下登録から外れ、3軍リハビリ担当コーチに就任することを打診した。そこで練習を続け、投げられるメドがついたところで支配下登録へ戻るというプランだ。だが、これを松坂は辞退。あくまで現役選手というのにこだわり、ソフトバンクを退団し、他球団での現役続行という道を選択したのだった。

日本一が決定し、福岡が歓喜に沸いた翌日の11月5日、正式に球団から退団が発表された。このプレスリリースの中で「福岡ソフトバンクホークスの関係者の皆様、ホークスファンの皆様、この3年間期待に応えられず申し訳ありませんでした。出来る事なら胸を張ってチームの歓喜の輪の中に入っていたかったです…。最後の瞬間までリハビリに付き添っていただいたスタッフの皆さん、いつも私に真剣に向き合ってくださった工藤監督、コーチ、選手の皆さん、何より温かい声援を送ってくれたファンの皆様の一つ一つの声に私は支えられてきました。いくら言葉にしても足りないくらいの感謝の想いを伝えるのは1軍のマウンドだと思っています。またいつかグラウンドでファンの皆様、チームメイトに再会できる事を信じて前を向き続けていきたいと思います」とコメントを出した。

松坂のキャリアは輝かしい。横浜高校からプロ入りした埼玉西武ライオンズで3度の最多勝を獲得するなどエースとして活躍。その後、移籍したレッドソックスでは1年目にワールドシリーズ制覇を果たし、2年目には18勝3敗という成績を残した。WBCでは2大会連続MVPにもなった。輝かしい実績を残してきたが、右肘のトミージョン手術を受けた2011年から成績は下降していった。2014年オフに米MLBのメッツから、ソフトバンクに3年12億円の大型契約で加入、9年ぶりに日本球界に復帰した。

2014年にはメッツで先発、中継ぎ双方で34試合に投げたが、先発投手へのこだわりが強く、日本球界復帰を決断。大きな注目を集める中で、2015年シーズンからソフトバンクへと入団した。入団後は3月のオープン戦中に右肩の異変を訴えて離脱。8月には右肩の手術を受けた。手術から1年超が経過した2016年10月2日の楽天戦で日本球界復帰後初の1軍登板を果たしたが、1回3安打4四死球5失点という散々な内容だった。

今季は3月25日のオープン戦・広島戦で7回を無安打無得点に封じる好投を見せ、3年目の今季こそはと期待を感じさせたのだったが……。分厚い選手層もあって開幕ローテから外れ、それでも4月15日のオリックス戦での先発登板が内定したのだが、その直前になって再び右肩の違和感を発症。先発登板は回避となり、そのまま治療、リハビリに専念することに。シーズン終了間際にようやく右肩の症状が改善に向かい、ブルペンでの投球練習を再開するまでになったが、今季も1軍登板無しで終わった。

松坂、球団の双方にメリットのあるDeNA入り

©共同通信

ソフトバンクでの3年間で1軍登板はわずか1試合だけ。それも1回5失点という内容だった。右肩の故障を抱え、どれだけ投げられるかも未知数な状態である。いくらこれまで打ち立ててきた実績が素晴らしいとはいえ、戦力になれるかどうか分からない選手を獲得する球団はあるのだろうか。現時点で獲得を公に表明している球団はない。国内球団への移籍を希望しているといわれるが、米球界、それも米独立リーグでのプレーも、可能性として浮上していると言われている。

果たして、日本国内、しかもNPBで手を挙げる球団はあるのだろうか。

可能性として浮上してくるのは、かつて高校時代を過ごした横浜に本拠地を構えるDeNAの存在だ。松坂は横浜高校で甲子園春夏連覇、夏の決勝戦でノーヒットノーランという偉業を成し遂げ、地元・横浜の英雄だった。しかも、今のDeNAには横浜高の同級生であった、後藤武敏が現役で、小池正晃が2軍打撃コーチで在籍しており、縁がある。

DeNAにとってもメリットはある。そもそもDeNAは、2014年オフに松坂が日本球界復帰を表明した際にもオファーを出しており、獲得に乗り出していた。このときはマネーゲームに発展し、資金力豊かなソフトバンクに獲得レースで敗れたが、意中の“恋人”であったのは確かだ。あれから3年が経った今でも、横浜に松坂が帰ってくるとなれば、大きな注目を集めることになるだろう。

松坂の知名度は今でも球界トップクラスにある。復活を心待ちにしているファンは多い。1軍でわずか1試合しか投げていないにもかかわらず、ソフトバンクでもかなりの松坂グッズが売れたという。高校時代から積み上げてきた実績による人気、知名度は、今でも根強く、批判を繰り返す“アンチ”の数も多い。それも有名選手の宿命だろう。新聞、テレビなど、マスコミは『松坂大輔』が大好きである。どれだけの成績を残せるかは正直予測できないが、露出効果と営業効果は間違いなく、そこいらの選手よりも高い。もし復活して勝利を挙げようものなら、大騒ぎになるだろう。

高校時代を過ごした地元であること、当時のチームメイトがいること、国内復帰時にオファーを受けていたこと、話題性があること、グッズ売り上げが見込めること。これら5つの理由から、DeNA入りが実現してもおかしくない。

かつて球界を席巻した“松坂世代”もベテランの域に達し、ユニホームを脱ぐ選手も増えてきた。その世代の中心だった松坂大輔もまた、いま、選手生活において最大の危機に立たされているといっても過言ではない。松坂のDeNA入りは実現するだろうか。それとも「平成の怪物」に救いの手を差し伸べるチームが他に現れるか。

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VictorySportsNews編集部