本大会の切符を逃した強豪国が集結? 夢の“裏W杯”

ワシントン・ポストやスポーツ・イラストレイテッドなど複数のメディアの報道によると、この大会はロシアW杯のプレ大会として行われ、主催国のアメリカ、イタリア、オランダ、チリ、ガーナら本大会に出場できなかった国々が参加して行われる計画だということです。開催時期が欧州のサッカーシーズン終了後になる予定であることから、W杯本大会出場国も調整として出場する可能性があると報じるメディアもあり、大会の実現性はともかく前代未聞の発想とそのスケールに驚きの声が挙がっています。

「イタリア対オランダ、見たくないですか? 今の時点で実現性はわかりませんが、僕はこれがスポーツエンターテイメントの本質だと思うんですよ。『見たいもの』を見せる。いろいろな事情があったとしても、お客さまが『本当はこれが見たかった』というものを見せていくのがスポーツであり、スポーツエンターテインメント、興行の肝だと思います」

横浜DeNAベイスターズ前社長の池田純氏はこの計画について、「単純に見てみたい」「面白い」と、しがらみ無視の前提でエールを送ります。

サッカー界に一石を投じる新しい発想の大会企画

「ワシントン・ポストやスポーツ・イラストレイテッド、ESPNなどのアメリカのメディアが報じたというだけなので、この大会が受け入れられるかどうかの“観測気球”的な意味合いのほうが強いのかもしれません。企画自体の実現度は正直わかりませんよね。でも、このニュースによっていろいろな議論が巻き起こっていることは事実です。僕はそこに意味があると思います」

スケジュールの問題、国際サッカー連盟(FIFA)との兼ね合いなど、“できない理由”を探したらそれこそ絶対実現不可能に思えるこの大会ですが、池田氏は「どんな大会もはじめはそういうところから始まったのでは?」と言葉を続けます。

「本当に実現すべきか? 課題は何なのか? そもそもW杯って今後どうあるべきか? これからさらに発展していくためにはどうすればいいのか? こうした一石を投じられることで、建設的な議論がどんどん行われるきっかけになると思います。常に、夢と理想を大切にすべきだと思います」

「出る杭は打たれる」がことわざになり、「忖度」が流行語になってしまう日本では、意見をすること、議論することが避けられる傾向がありますが、「みんなが見たいものを見せる」というエンターテインメントの原点に立てば、FIFAやこれまでのサッカー界の常識に忖度していては新しいものは生まれてきません。全ての国でとはいいませんが、欧米ではこうした議論を生む提言自体が否定されたり批判されたりすることは少ないようです。

「特にアメリカは、『発言することが善』という雰囲気がありますよね。FIFAに怒られるとかそういうことよりも、まず発言して、提案してみて議論の俎上に載せる。単なるアイデアではなく、現実味を考えたうえでのアイデアレベルで。日本だとその行為に、異常なまでの勇気と覚悟を強いられ、これらの企画自体が批判されたり黙殺されたりしますが、アメリカではそうじゃない」

この大会を企画したのは、アメリカサッカー連盟と、MLS(メジャーリーグサッカー)を成功に導いたといわれるサッカー・ユナイテッド・マーケティング(SUM)。これまで何度もプロリーグが根付くことができなかった“サッカー不毛の地”アメリカに、「サッカーを見る」文化を根付きつつある、その立役者だといわれる会社です。国内リーグの盛り上がりにもかかわらずロシア行きの切符を逃したアメリカでは、その逆境もチャンスに変えようと虎視眈々と機会をうかがうチャレンジャーがいるのです。

仕掛けたのは “サッカー不毛の地”のサッカー人気に火をつけたSUM

「SUMは新しいことにチャレンジして、成功を収めていますよね。すごいなと思ったのは、SUMは、放映権料がらみの交渉でスポンサーやメディアから昇降格制の導入を迫られたようです。サッカー界では欧州や南米、日本のJリーグのように、上位リーグと下位リーグとの入れ替えがあるのが当たり前ですよね。でも、アメリカの他のスポーツが入れ替え制でないように、SUMは多額の放映権料を断って昇降格制の導入を拒否したんです」

サッカーの流儀でいえば昇降格制を導入することは常識だったのかもしれませんが、池田氏は自らのビジネス哲学やそのときの状況判断でこれを拒否したSUMとMLSの姿勢に感銘を受けたと言います。

「昇降格制の是非については議論の余地があると思いますが、個人的にはないほうが経営も安定するし、良いと思っているんですよ。だからというわけではありませんが、彼らが目先のお金じゃなく『自分たちの領土を守った』ことに心を動かされました。人の心、人の気持ち、スポーツをすごくわかっているなあと共感したのをよく覚えています」

未来のスポーツイベントのあるべき姿とは?

価値観の多様化で、過去に通用した手法がどんどん通じなくなっていく時代に、世界最大のスポーツの祭典といわれるオリンピックでさえ、全会一致で開催都市に名乗りを挙げる都市が少なくなっているといいます。社会の構造が変化するなか、スポーツ、スポーツエンターテインメントは何を目指すべきなのか? 池田氏は、こうした「夢のある大会」「観客が見たいものを見せる企画」が、未来を切り拓いていくと言います。

「オリンピックも、サッカーのW杯ももしかしたら大胆な構造変化の検討がそろそろ必要なのかもしれませんよね。僕はこの大会を実現させて、最後にW杯の優勝国と戦ってほしいとも考えています。批判もあるかもしれませんが、予選で敗退した大会参加国の選手のモチベーションがないというなら、それくらいのことをしてみても面白い。『実現したら面白いよね』『夢があるよね』ということを実現するのがスポーツの楽しさ。“できない理由”はたくさんあるかもしれませんが、実現のための方法だってたくさんあるはずだと思います」

夢のある大会の企画をきっかけに議論が巻き起こる。その議論が発展的で建設的な意見を生んで、結果的にはW杯やサッカー界、スポーツ界全体にいい刺激を与える。サッカーをよく知る人には突拍子もないことに思えるニュースでも、こんな好循環が生まれる可能性があると池田氏は期待を込めます。

「大きな大会や成功を収めるイベントは、後になってみたら、みんなが『ああ確かに』『なんで今までなかっただろうね』って思うものが多いんですよ」

アメリカで生まれた “きっかけ”は今後どのように育っていくのでしょう。実現度は不透明ですが、サッカー界にどんな影響をもたらすのかに注目が集まります。

<了>

取材協力:文化放送

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