J1開幕戦勝利にも貢献したヤングキャプテン

今季、2年ぶりにJ1に復帰した湘南ベルマーレの曺貴裁監督は、チーム内に聞き慣れないポストを新設した。

ヤングキャプテン。

主将は29歳の高山薫が務め、副将は26歳の菊地俊介と31歳の梅崎司が担う。そして、若手の代表として、4人目の「キャプテン」に指名されたのは19歳の杉岡大暉。数多くの若手の才能を伸ばしてきた指揮官は、新たな試みの狙いを明かす。

「若い選手の意見をまとめて、年上の選手にうまく伝えてほしい。その逆もしかり。チームのことを若手選手たちに伝えてほしい。年上の選手に付いていくだけでなく、自分が引っ張るという気持ちを持ってほしい」

今季の湘南は10代の選手が6人、20代前半(20歳から24歳)の選手も10人在籍。若いチームをより躍動させるために重要な役割となる。監督からじきじきに責任あるポストを託された高卒2年目の杉岡本人も、自覚している。

「(監督から)信頼してもらえているのはうれしい。責任を持たないといけない。若いからといって、遠慮しないで言うことは言う。サッカーに年齢は関係ない。チームの主軸としてやっていきたい」

千葉・市立船橋高時代にはキャプテンを務めた経験があり、リーダーシップは備えている。常に全国制覇を目標に掲げる名門校で責任ある腕章を巻いていた男は、妥協を許さない。

「やるべきことをやらなかったときなどは、キャプテンとして厳しく言ってきた。仲良し集団ではいけないので」

昨季は高卒1年目で37試合(先発36試合)に出場し、3ゴールをマーク。湘南の主力としてJ2優勝に大きく貢献した。フルシーズンを戦いながらもフィジカルコンディションを極端に落とすことなく、ケガでの欠場もなし。湘南のハードなトレーニングに精を出し、試合を重ねるごとに成長を続けた。「スポンジのように吸収する。同じ失敗を繰り返さない」と育成に定評のある指揮官も目を細める。

ヤングキャプテンとして臨む今季。

「J1はテレビで見ていた選手ばかり。日本代表の選手と対戦してみたい。伊東純也さん(柏レイソル)、内田篤人さん(鹿島アントラーズ)などマッチアップするのも楽しみ。もちろん、負けるつもりはない。勝てると思ってやらないと絶対に勝てないので」と言葉に力を込める。

2月24日のホーム開幕戦は、先発メンバーに堂々と名を連ねた。V・ファーレン長崎の屈強なスペイン人FWフアンマと激しく接触しても、182センチ・75キロの頑強な体はびくともしない。左アウトサイドで上下動を繰り返し、鋭いクロスで相手ゴールも脅かした。終了の笛がなるまで走り続けると、J1初勝利の味を噛み締めていた。

「スタジアムの雰囲気、メディア、ファン・サポーターの数を見て、J1で戦っているんだと実感した。J2で1シーズン過ごし、J1で戦う下地をつくったと思う。自分とも向き合うことができたし、あらためて1年目はJ2でよかった。僕の選択は間違っていなかったと思う」

2年後の東京五輪に向けて、どれだけ力を付けられるか

©Getty Images

2年越しでたどり着いた舞台だ。

杉岡は市立船橋高時代から左利きのセンターバックとして高い評価を受け、当時J2の湘南以外からも誘われていた。その中にはJ1クラブを含まれていたものの、「自分が成長できる場所だと思った」と湘南入りを決断。この判断が正しかったことをいまプレーで証明している。試合中にアウトサイドからセンターバックにポジションが移っても、スムーズに対応、ドリブルで持ち運ぶ技術、ビルドアップの精度、アップダウンを繰り返す運動量、1対1の強さ、すべての面でレベルアップしている。体のサイズもひと回り大きくなり、球際でも負けることはほとんどない。継続的に筋力トレーニングを続けており、でん部と背中を強化。その成果は確実に出ている。

第2節は3月2日。J1王者の川崎フロンターレに悠然と立ち向かう。

「楽しみしかない。小林悠選手らはオフ・ザ・ボールの動きがいいので、ボールウオッチャーにならないようにしたい。まずは僕自身が試合に出ることを考えないと。このチームには厳しいレギュラー争いがあるので」

J1王者との手合わせは、一つの試金石となるはず。怖いものなしの19歳がチャンピオン相手にピッチで躍動すれば、チームにも勢いが生まれる。指揮官は「顔はヤングではないけど」と笑うが、プレーもヤングではない。飛び出すタイミング、相手アタッカーへの対応、ゲームの流れを読んだ判断、いずれも高卒2年目とは思えないほど老かいだ。

川崎FにはJリーグ指折りのパサー中村憲剛をはじめ、昨季得点王の小林悠、J1歴代最多得点者の大久保嘉人、曲者の家長昭博ら日本代表経験のあるアタッカーらがずらりとそろうが、迎え撃つ準備はできている。

「相手のほうが能力は高いかもしれないが、僕らは勝つつもりでいる。たとえ、相手にボールを長く持たれても、粘り強く戦える。昨季のJ2で鍛えられた。どこまで通用するのか、試すいい機会になる」

言葉には自信がにじむ。曺貴裁監督は東京五輪の日本代表に選ばれることも期待している。だからこそ、「ヤングキャプテン」の役割を与えたとも言う。杉岡も2年後への思いを隠そうとはしない。

「一生に一回あるかないかのチャンス。東京五輪に出たいという思いは強い。湘南で結果を出していれば、(評価は)付いてくると思う。いまは焦っていない」

昨年11月、12月に東京五輪代表を率いる森保一監督が招集したU-20、U-21代表のメンバーに杉岡の名前はなかったものの、主力候補となる可能性はある。2017年のU-20W杯では左サイドバックとして出場しており、年代別代表として世界大会での経験を積んだ。何よりも、森保監督が基盤とする3-4-2-1システムは、湘南が採用する形とほぼ同じ。左アウトサイド、3バックでの役割は変わらないと言っていい。本人もそのアドバンテージを理解している。

「(森保ジャパンの)試合は見ている。僕はあのシステムで複数のポジションをこなせるのも強み」

今季、J1で通用することを証明し、さらに評価を高めたとき、ワンランク上のステージが見えてくる。目標の東京五輪、そしてA代表へ。「ヤングキャプテン」のチャレンジは、始まったばかりだ。

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杉園昌之

1977年生まれ。ベースボール・マガジン社の『週刊サッカーマガジン』『サッカークリニック』『ワールドサッカーマガジン』の編集記者として、幅広くサッカーを取材。その後、時事通信社の運動記者としてサッカー、野球、ラグビー、ボクシングなど、多くの競技を取材した。現在はフリーランス。