(C)荒川祐史

情熱を持ち、いろいろな情報を知っていることが大切

「人に言われてやることはたいしたことにならない。自分で進んでやってください。そこに情熱がない人がやっても、変わらない。情熱を持つことは最低条件ですよね」 

情熱があれば、もっと勉強して相手を説き伏せようと考えるようになる。行動しようとする姿勢が次につながる。川淵氏は講義中にこのように語った。

「情熱を持っているというのは最低限のレベルの話です。やはり、いろいろな情報を持っているということが大事です。教養とまでは言わないけれど、知識と経験。今は世界中のことを勉強できる時代ですから。もちろん海外に出て、実物を見て、触れて、学ぶのが一番いいことですが、日本にいても勉強できる機会はたくさんあります。最も大切なことは、集めた知識と経験を元に、物事を定量的に把握することです。現実的に、こういうふうにいくためには、こうした方がいい、ああした方がいいというアイデアを出さないといけない」

元サッカー選手の川淵氏がJリーグの発足に情熱を注いだのはわかる。しかし、トップリーグ連携機構の会長となり、バスケットボールやハンドボール、バレーボールのガバナンスにも積極的に関わり世直しを図る。その情熱はどこから来るのだろう。

「僕はいろいろなスポーツが好きなんですよ。サッカーは好きだけど、野球は嫌いという人が理解できない。日本のスポーツがみんな良くなってほしいと真剣に考えています。それにこの年になると、もう地位や名誉、お金にも執着しなくなるから、失うものがない。だから強いし、相手にとっては扱いづらいのでしょう」

(C)荒川祐史

基礎的な知識を得る努力の積み重ねが、必要とされる能力を育てる

サラリーマンとしての30年の経験、そして、プロ化の準備期間からJリーグチェアマンを経て、日本サッカー協会会長を務めた20年の実績があるからこそ、競技団体のどこが悪いのか、どうすべきなのかがわかるという。

「例えば、僕はどこかのリーグの決算を一目見れば、どこが問題だということがわかる。これがわからないとなかなか次に進めない。僕が欲しいと思う人材は、そういう能力を持った人ですね」

では、どうすれば川淵氏に必要とされる能力を身につけることができるのだろうか。

「まずは基礎的な知識を得る努力をした方がいいですね。そこがスタート地点になるわけだから。例えば、どこのリーグはどういった特徴を持っていて、収入はどれだけあるのか。今はそういう情報がオープンになっていて簡単にデータが取得できる時代です。そういった情報を能動的に集めて、それらの数字を見ながら、どういうことが足りないのか、または成果が出ている理由などを推測していく。こういった小さな積み重ねが力になります」

川淵氏は81歳となった今も、バスケットボールやバレーボールといった室内競技の発展のために、音楽業界とコラボレートして、アリーナ文化や物販などのマーケティングの仕組みなどさまざまな情報を収集している。まるで呼吸をするかのように新しい知識を得ることをやめない。好奇心を持ち、新しい知識や経験を経て、物事を定量的に把握する。これを積み重ねることのできる人材が、スポーツビジネスの現場で重宝されていくのだろう。

<了>

(C)荒川祐史

[PROFILE]
川淵三郎
公益財団法人日本サッカー協会最高顧問
一般社団法人日本トップリーグ連携機構会長
公益財団法人日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザー
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会評議員会議長
1936年生まれ、大阪府出身。早稲田大学サッカー部を経て、1961年に古河電工入社、同社サッカー部でプレー。1964年の東京オリンピックに出場。1970年に現役を引退したあと、古河電工サッカー部、日本代表監督などを歴任。1988年にJリーグの前身となる日本サッカーリーグの総務理事につき、プロサッカーリーグの設立に尽力。1991年、Jリーグ初代チェアマンに就任。2002年、日本サッカー協会会長就任、現職は最高顧問。バスケットボール界の改革にも携わり、2015年、新たなプロリーグ「Bリーグ」を設立。2015年、Bリーグチェアマン、日本バスケットボール協会会長に就任(現在はエグゼクティブアドバイザー)。その他、日本トップリーグ連携機構会長、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会評議員会議長を務める。

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VictorySportsNews編集部