完全分離制の中で結果を出せなかった監督1年目

「まあ簡単なシーズンではなかったです、色んな意味で」。

昨年11月19日、鹿児島ユナイテッド戦後に行なわれたホーム最終節のセレモニーでガンバ大阪U-23の宮本恒靖監督が口にした言葉は実に示唆的だった。ガンバ大阪や日本代表で一時代を築いた宮本監督にとって、プロ監督としての一年目は苦難の連続だった。

實好礼忠監督(現ガンバ大阪ユース監督)が率いた2016年では16クラブ中9位に終わったものの、得点数はリーグ5位。しかし、宮本監督が率いた2017年は17クラブ中、16位に低迷したばかりか、得点数も失点数もリーグワーストという散々な結果だけが残された。

「数字とか結果で判断されるジレンマはありますね……」。プロ監督として最初のシーズンを終えた昨年12月、宮本監督は自らが描いた一年とはほど遠い内容に悔しさを隠さなかった。

数字だけを見れば「愚将」であるが、恐らくペップ・グアルディオラやジョゼ・モウリーニョ、ヨアヒム・レーヴらが宮本監督の代わりを務めていても、その数字にさほどの違いはなかったはずだ。

いや、むしろ彼らならば「馬鹿馬鹿しくて、やっていられない」とシーズン早々に監督の職を投げ出したに違いない。

徒手空拳――昨年のガンバ大阪U-23はあまりに「無い無い尽くし」の中で苦しい戦いを余儀なくされていたのである。

ガンバ大阪のアカデミー育ちでは第1号のプロ選手で、将来的にはクラブ生え抜きでは初のトップチームでの監督候補でもある宮本監督。

昨年1月の新体制会見で「仕事の内容としては、トップチームに繋げるというところが最大の目的」と若手の成長を一番の目的に掲げた宮本監督だったが「選手個々へのアプローチもあるが、チームとしてJ3を戦うわけでしっかりとした結果にもこだわる」。

育成と結果の「二兎」を追うつもりで始まったプロ監督としてのルーキーイヤーに待っていたのは想像していなかったクラブ内でのアゲインストだった。

J3参入初年度は負傷明けの選手や、トップでの起用を見据えた戦術的なテストとしてオーバーエイジ枠を用いて来たガンバ大阪U-23だったが昨年、クラブが打ち出したのはトップとU-23との完全分離制。

クラブの明確なビジョンに基づくものではなく、単に長谷川健太前監督の意向が強く反映されたこのシステムは実のところ、完全分離ではなく、U-23にとっての「完全搾取制」だった。

トップチームに怪我人が相次いだことから、本来ならばU-23で活動するはずだった高木彰人や食野亮太郎、野田裕喜らがトップチームで活動。更に練習場の芝が傷むとの理由などから、U-23はクラブ練習場で練習することもままならず、J-GREEN堺や北摂地域にある一般のグラウンドを転々とする「ジプシー状態」が続いていた。

個の力を伸ばしていった「宮本塾」

©Getty Images

ガンバ大阪U-23を名乗るものの、開幕戦で先発メンバーに名を連ねたのは2種登録のユース組3人を含む、平均年齢18.42歳という若いメンバー。宮本ガンバは開幕からいずれも無得点のまま5連敗を喫した。

「本来、最初は一緒にやれると思っていた選手がいなくてなかなか、選手が揃わないやり繰りが続いた」(宮本監督)。開幕前に追うはずだった「二兎」は早々に諦めざるを得ない状況で若き指揮官もいつしか「個々の成長」を重視せざるを得ない日々が続いたのだ。

開幕からの試行錯誤の中で、宮本監督が昨季のベースと定めたのは本来の理想ではない3-5-2のフォーメーション。戦術理解度の高い中原彰吾をリベロ的なポジションに配置する新布陣は「僕が思っているサイドバック像やCB像の選手がいなかったので、中原というキーになる選手がどこにいるとチームのプラスになるのかを考えると、あの形にたどり着いた」(宮本監督)。

紅白戦どころか、8対8レベルの練習もままならない苦しい持ち駒の中、選手たちはそれでも確かな成長を遂げようとしていた。

成績の上では全く収穫がなかった昨年のガンバ大阪U-23ではあるが、シーズン終盤には中原がトップチームデビューを飾ったり、荒削りだがポテンシャルを秘めた一美和成がポストプレーで飛躍的に成長。2種登録ながらレギュラーをつかみとり、今季トップ昇格した芝本蓮らは宮本監督や山口智ヘッドコーチ(現ガンバ大阪コーチ)らの指導の賜物だ。

「現状で何が出来るか、それは個へのアプローチ」と前向きだった指揮官は水曜午前、特定の選手を対象にした個人指導を実施。宮本監督と山口ヘッドコーチ、そして松代直樹GKコーチがマンツーマン指導に近い格好で技術指導やゴール前での駆け引きなどを粘り強く行なったのだ。

「基本的に呼ばれるのは選手1人のみ。ボールを受けるタイミングとかDFへの体の預け方とかを教えてもらったが徐々に試合の中で出来るようになってきた」と「宮本塾」の効果を明かすのはチーム最多となる8得点を叩き出した一美である。

中原がトップチームに引き上げられた8月以降、再びチームは低空飛行を続け、8連敗を喫したこともあったガンバ大阪U-23だが宮本ガンバは、徐々にその戦術的な洗練ぶりも見せ始めて行く。「マンチェスターシティの試合なんかも見るし、5レーン理論なんかも当然、参考にはしている」(宮本監督)。

3-5-2の布陣に目新しさはないが、プレスのかけ方やサイドアタッカーのインナーラップなどには、現役時代クレバーなDFとして世界を相手にした宮本監督のエッセンスが随所で見て取れるものだった。

宮本ガンバの成長を敵将の立場でこう分析したのは鹿児島ユナイテッドを率いる三浦泰年監督だ。

今季はトップチームのコーチも兼任

©Getty Images

開幕直後の3節では0-1で敗れたガンバ大阪U-23はシーズン初の3連勝を賭けて鹿児島ユナイテッドを迎え撃ったがスコアレスドロー。しかし三浦監督は「直近の試合は全て見たが、彼らは変化している。来季、どういう形でスタートさせるのか分からないがリーグを引っ張る存在に成長する可能性はある」と若きチームの成長曲線を手放しで誉め称えたのだ。

5連敗や8連敗を喫した苦悩の日々の中で、試合中に宮本監督が悔しげにベンチの屋根に拳を叩き付けたり、高卒ルーキーの高宇洋が試合後に目を真っ赤にしながら「サッカー人生でこれほどキツい思いをしたことはない」と悔しげに振り返ったりと指揮官と選手にとっても苦悩続きだった2017年。しかし、シーズン終盤は6試合負け知らずで、ガンバ大阪U-23は確かにその伸びしろを感じさせる戦いを披露した。

本来、昨シーズンの途中に、ガンバ大阪U-23を取り巻く現状とフロントの失態に一石を投じたかったのだが「今は、一切の言い訳なしにやっているので」と言い切った指揮官の意向を尊重。筆者も「昨年のクラブの方向性の間違いはシーズン後にしっかり記しておきたい」と記事化を約束していたため、このタイミングでの再検証とした。

ガンバ大阪U-23の指揮官として2年目のシーズンに挑む宮本監督だが、長谷川監督の退任に伴い必然的に「完全分離制」も撤廃。今季はトップチームでコーチとして指導に当たる宮本監督はトップチームの明暗も握るキーパーソンの一人になりそうだ。

「自由」を重んじるレヴィー・クルピ監督ではあるが1月の始動以降、過度に選手たちへの戦術的な要求は行なっていない。

自由と無秩序はややもすると紙一重――。「徳島との練習試合までは僕も選手たちにあえて何も言っていなかったが、選手たちが迷っている時にはポジショニングなどを伝えたい」(宮本監督)。全盛時のパスサッカーを知る宮本監督と山口コーチは、DFのポジショニングやビルドアップに関して、適切なアドバイスをしていくはずだ。

そしてトップでも期待されるのが「宮本塾」である。昨年チーム最多の10得点をマークした長沢駿についても宮本監督は「駿もあれだけのサイズがあって裏に抜けられる。でも『あのサイズをいかすためにポストも磨いて行こう』という話をしているし、(三浦)弦太にもアドバイスはしている」。

ガンバ大阪U-23の指揮官として、若手を束ねる一方で、自由を重んじるクルピガンバに現代サッカーのエッセンスをもたらす男が宮本恒靖。ガンバ大阪U-23の指揮官は昨年とは異なる「二兎」を追う。

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下薗昌記

著者プロフィール 下薗昌記

サッカーライター。1971年大阪市生まれ。テレ・サンターナ率いるブラジル代表に憧れ、ブラジルサッカーに傾倒。大阪外国語大学外国語学部でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て2002年にブラジルに移住し永住権を取得。南米各国で600試合を取材した。愛するチームはサンパウロFC。ガンバ大阪の復活劇をテーマにした『ラストピース』が2016年のサッカー本大賞に。