日大の暗部にメスが入ったことは歓迎だが……

関東学生アメリカンフットボール連盟が日大フェニックスの処分を発表、日大フェニックスの選手たちが声明を発表したのに続き、日大教職員組合も大学に要求書を突きつけた。被害を受けた関西学院アメフト部の選手の父親からは、宮川選手を外し、内田正人前監督と井上奨前コーチに対する告訴状が出され受理された。さらに、6月1日には内田正人前監督の常務理事辞職、ついで6日には関連会社「日大事業部」取締役を辞任することが発表されるなど、ようやく事態が動き始めた。

日大アメフト問題が改善に向かうのは歓迎だが、実は解決に向けた動きからも、日本スポーツ界の深刻な体質と弊害が浮かんで見える。
いわゆる“危険なタックル”に端を発したこの騒動は、今後「日大の経営体制」と「日本のスポーツ体質と学生スポーツのあり方」、主に二つの方向性で見直しと根本的な改革が求められる。図らずも起こったこの騒動をただ日大のスキャンダルに終わらせては、これまで起こったスポーツ界の不祥事の二の舞になる。

大学改革については、内田常務理事を切って終わりにしようとする意図が見え隠れする。これは、日大教職員組合に毅然と行動を起こし、根本的な組織改革をやり遂げていただきたい。世論はそれを応援するだろう。

この問題で内田前監督をはじめとする指導者、経営陣が責任を負うのは当然だが、問題を起こした当事者を切り捨てるだけでは、根本的な解決には遠い。
私はこの問題が起きた背景、根源には、日本のスポーツ界に共通する体質が生み出した組織的な病巣があるとずっと感じている。
スポーツを司る文科省、連盟や協会は、いまこそこうした問題に目を向け、体制の見直しをはかるべきだろう。

“厳しい”処分が支持される理由

6日に関東学生アメフト連盟が下した処分は、考え得る裁定の中でも「厳しいもの」と言えるだろう。短期間での調査を行い、毅然と裁定を下した連盟に謝意を表しつつ、あえて要望を記したい。

多くの人が妥当と感じる裁定も、冷静に見れば、心証で結論を出した側面も否めない。これが訴訟のまな板に載ったら支持が得られるか曖昧だ。
テレビ番組で一緒になった小林至・江戸川大学教授も、「スポーツ仲裁裁判所に持ち込まれたら、判断が覆る可能性がある」と見解を示した。それでもこの処分をメディアや世論が歓迎しているのは、危険なタックルをした当事者である宮川選手が会見で述べた言葉に真実味を感じ、内田正人前監督と井上奨前コーチの釈明会見が言い逃れにしか聞こえなかったからだ。そして、理解に乖離があったかなかったか、監督の指示があったかなかったかに焦点を当てる以前に、選手がこれほど追い詰められる状況や雰囲気がチームにあったこと自体に世間は驚き、憤りを覚えている。

採決では「賛成16に対し反対も4票あった」と公表された。この反対は、厳しい処分への異論ではなく、「チームに対する処分が軽すぎる」立場の反対だったと説明された。それはつまり「今季一年という期限付きの活動停止では足りない」、チームも監督同様、「除名」「永久追放」かそれに準ずる処分にすべきという意味だ。アメフト関係者から聞いた証言の中には、「この機会にフェニックスを潰したいと思っている大学関係者もいる」というかなり過激な意見があった。それは、今回の出来事以前から、日大フェニックスを追放したいほど激しい怒りを覚える何かがあったと理解できる。もし事実ならば、なぜ関東学生アメフト連盟はこれまで何も行動しなかったのか。伝統ある強豪チームに連盟が物を言えない体質は、日本のスポーツ組織には往々にしてある。

日大フェニックス選手たちの今後を本気で案じ、手を差し伸べたい気持ちがあるならば、もっと現実的な提案があってもよかったと思う。処分軽減の条件として「再発防止策を策定・実施し、チーム改革・組織改革を断行し」とあるが、誰もが納得のいく改革案を、果たして日大フェニックスだけで策定できるだろうか?

アメリカ・ワシントン大学でコーチを務めた経験のある吉田良治・追手門学院大学客員教授によれば、アメリカのNCAAに所属する大学チームは「1週間の練習時間は20時間までと決められている」。こうした指針は、所属チーム全体で協議しなければ実効性がない。例えば日大フェニックスが「体質改善のために、1週間の練習時間をアメリカに倣って20時間にする」と宣言するのは現実的に難しいだろう。「沢山練習したら強くなる」と信じる傾向が強い日本では、他大学がそれ以上練習する前提では不公平感が残るからだ。

日大の選手たちの声明文が“軟化”した背景

日大フェニックスの選手たちは声明文を発表した。要約すれば、謝罪と反省、そして宮川選手へのメッセージだ。声明文を見て、肩透かしを食った気がした人は少なくないだろう。事前の報道では、〈内田前監督のウソを暴く〉証言も入ると伝えられていたからだ。批判に終始するのは賢明でないが、「宮川選手に戻ってほしい」と言うなら、せめて宮川選手が勇気を持って証言した事実を自分たちも肯定し、後押しする文言がほしかった。報道によれば、選手たちが話し合っている場にコーチが入って来て、脅迫的な発言をしたという。コーチ全員の辞任を求めなかったのは、そうすると大学施設を利用できなくなるという、事務的な理由があったためとの説明もあった。強硬な意見の3年生以下に対し、4年生は就職活動を気にして表現をやわらかくしたとの証言もある。それを聞いて、なんらかの圧力に屈した、選手も保身を考えて自重した印象を持つと同時に、なんと創造力と行動力がないものかと残念に感じた。顧問不在で施設が利用できないなら、アメフトを知らない教員でもいいから、自分たちの活動を支援してくれる教員を探せばいい。それくらいの発想も行動力もないとしたら、何のために部活で自分を磨いているのかと問いかけたい。

この問題の奥にあるスポーツ界が抱える大問題とは?

上記ふたつの事実(関東学生連盟と選手会の動き)から浮かび上がる共通項がある。高圧的な指導の何が問題なのか? 個人の尊厳を傷つけるのは言語道断。加えて、創造力も行動力もない人間に知らず知らずのうちに変えてしまう、残念な現実を端的に表している。本来は、スポーツを通して豊かな人間性や創造力を養い、家族や仲間が困っているとき助けられる行動力を磨くのが大切な目的だと私は感じている。ところが、上司の命令に忠実に従い、自己の発想は閉ざし、自発的な行動を躊躇する人間に矮小化してしまっている。才能を開花させるどころか、つぶす方向に日本のスポーツは動いている。

それこそが深刻な問題ではないか。

スポーツに関わる人間の大半が、過去、現在、未来の時間軸の中で物事を考え行動しているように見えない。わずかに、関西学院大学の小野ディレクターや鳥内監督が例外だ。
大半は(メディアも含め)いま起こっている問題だけに焦点を当て、その解決を局所的に論じている。時間が止まり、思考が停止している。
スポーツは予測が重要な分野である。しかも、頭でそれを予測するにとどまらず、実際に次の手を打ち、行動しなければ勝利は手に入らない。つまり、予測し、行動する、社会で最も役に立つ人間力を磨くことができる舞台だ。それなのに、いまの指導者も選手も、スポーツのそういう素晴らしさをむしろ封印している。

関東学生アメフト連盟にしても、日大OBの中から、〈誰もが納得のいく次の指導者を見つけること〉が難しいのは容易に想像できるはずだ。なぜなら、日大フェニックスはもう70年近く、篠竹幹夫、内田正人両監督が率いてきた。篠竹監督も、いまでこそ美化されているが、現在の基準から見ればパワハラや体罰の傾向を色濃く持っていた。そうした指導を受けてきたOBしか日大フェニックスにはいない。完全に新しい体質を構築できる人材を内部で見つけ、しかも第三者の納得を得るのは相当難しいだろう。つまり、関東学連の突きつけた条件は「現実性がない」。それならば、「監督は外部から登用する」、もしくは「選手の中からヘッドコーチを選び、選手主体の体制を作る」、いずれかが現実的な道だろう。

明大OBで社会人のシルバースターで日本一になった経験もある秦英之さん(ニールセンスポーツジャパン)は、「アメフトは戦略性が高い競技だから、6月の段階で外部から指導者を起用するのは難しい。すでに準備してきた日大の戦略を理解している人材でなければチームが機能しない。それを考えたら、4年生の誰かが現役続行をあきらめ、防具を脱いで監督、コーチになる勇気が最も現実的だ。それは、日本の新しい大学スポーツのあり方を実現する意義あるチャレンジにもなるだろう」と提言する。私もこれに賛同する。関東学連にはこの実現にあたって必要なアドバイザーを自薦他薦で募るなど、日大フェニックス再建のサポートをしてほしいと願う。

このような発想は、通常なら多くの人が自ずと考え、手を打って然るべきだ。ところが、高圧的な体質がはびこり、思考停止に陥っているスポーツ界では、逆に何も考えないことが当たり前になっている。

今後「日本のスポーツの本質的価値観や目的、指導や運営方法の見直し」というテーマについては、スポーツ庁を中心として、国民全体でスポーツのあり方を考え直し、共有する動きを早急に進めるよう強く望んでいる。2020東京五輪を迎える前に行わなければならない。東京五輪をただのお祭り騒ぎにしてしまえば、また涙と感動によって、パワハラ体質が容認され、勝利至上主義の弊害が放置されかねないからだ。

小林信也

著者プロフィール 小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。