少子高齢と人口減少の影響は?

今年、阪神甲子園球場で開催された全国高等学校野球選手権大会は、第100回の記念大会となった。大会は1915年(大正4年)に始まったが、戦時中の1942~45年は中断していたため、2018年の今年が100回目の大会となった。

ほとんどの日本人にとって、夏の甲子園大会は、自分が生まれた時から続いているものだ。大正、昭和、平成と時代が移り変わっても、球児たちの姿や立ち振る舞いはあまり変わらず、夏の風物詩として定着している。高校野球は改善したほうが良い点を指摘されながらも、ほとんど変わっていない。

しかし、100年という時間軸で考えると、夏の甲子園大会も多少は変わっているのではないか。いや、変わらなければ、200回大会まで続いていないかもしれない。全国高等学校野球選手権大会200回目の記念大会はどのような様相を呈しているのだろうか。

2118年の高校野球を思い描こうとするならば、まず、日本の少子化と人口減少を考えなければならない。日本高等学校野球連盟(高野連)が、今年5月に集計した硬式野球の部員数統計によると、2018年(平成30年)の部員数合計は15万3184人。加盟校は3971校である。同連盟のホームページに掲載されているこの統計は1982年(昭和57年)からデータがあり、部員数のピークは2014年(平成26年)の17万312人、加盟校のピークは2005年(平成17年)で4253校だった。

これから50年後、100年後の日本は、少子高齢になるだけでなく、大幅に人口が減少すると予測されている。2015年(平成27年)度の厚生労働省の白書によると2100年の日本の人口は、参考推計で4959万人。現在の人口の半分以下になる。夏の甲子園大会が始まった1915年の総人口は5596万人だったから、同じぐらいか、やや下回るというところか。

現在の野球の人気・関心が100年後も同程度と仮定し、単純に人口減の影響だけを考えるならば、高校野球の部員数は6~7万人程度になる。

1915年の第1回大会は、東北、東海、京津、関西、兵庫、山陽、山陰、四国、九州の予選を勝ち上がった9校と、春の東京都大会優勝校(早稲田実)を加えた10校で行われた。その後、参加する地区が増えて、出場枠も増やされるようになったという経緯がある。総部員数が減る200回大会は先祖帰りして、地区割が変わり、現在よりも代表校枠が縮小されているかもしれない。

今年も話題となった猛暑は?

今年の夏はひどい暑さになった。記録的な猛暑に、地方大会では試合時間が変更になったゲームもあった。京都大会では準々決勝の第4試合を当初の午後4時開始から午後7時過ぎに繰り下げた。選手や審判の健康面に配慮してのことだという。

地球温暖化で、日本だけでなく世界中の平均気温が上昇傾向にある。ひどい暑さは今年だけとは限らない。2100年ごろにはさらに気温が上がっている可能性がある。

環境省地球環境局が発表した「日本の気候変動とその影響」というレポートによると、2081年から2100年の世界の平均気温は、1986年から2005年に比べて、低いシナリオでも0.3~1.7度の気温上昇、高いシナリオでは2.6度から4.8度上昇すると予測されているそうだ。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けての暑さ対策が議論されているが、研究グループは、気候変動による気温の上昇で、2085年までに北半球の大半の都市が夏のオリンピック開催地に適さなくなると指摘している。この論文は2016年に「ランセット」に掲載された。

夏の甲子園で200回大会が行われるであろう2118年には、現在よりもさらに暑さ対策を強いられることになっているはずだ。前述したように、仮に人口減で代表校が減少しているのならば、試合は朝の早い時間帯とナイターだけになっているかもしれない。甲子園は高校野球の聖地であるけれども、暑さやゲリラ豪雨対策のために、空調設備のあるドーム球場が会場になっている可能性もある。

地球温暖化は日本だけでなく、世界のスポーツイベントにも影響を及ぼす。100年後、世界のスポーツ大会はそれぞれに暑さ対策を強いられ、高温時に試合を行うかどうかの基準もより厳格になっているだろう。世界のスポーツ大会、オリンピック・パラリンピックが高温を理由に開催地や開催日程を決めるようになれば、日本の高校野球も世論に押されて、変わらざるを得ない時が来るのではないか。

高校野球の規則に変化はあるか?

現在の野球は1845年にニューヨークでつくられたルールが原型となっている。

米国では1800年代前半から、スティックとボールを使ったボール遊びは行われていたようだ。これらは、イングランドでプレーされていた「ラウンダーズ」などと呼ばれていたゲームと似たもので、現在の野球とはずいぶんと違うものだったらしい。

しかし、1845年にニューヨークに住むカートライトという人物が、もっと面白いゲームをと考え出したものが、現在の野球のもとになっている。佐伯泰樹著『ベースボール創世記』によると、この時、初めて、ファウルラインを引くことや、3つのアウトでの交代などが取り入れられたそうだ。

1845年のニューヨーク・ルールはスピードアップに大いに役立ったという。1800年代後半に米国でプロとしての野球が始まると、さらなるスピードアップと観客にとっての面白さが求められ、ルールは変化した。19世紀末には、四球の導入、盗塁の規則が整備された。現代のメジャーリーグも、試合のスピードアップに躍起になっており、4球を投げなくても敬遠できる申告敬遠ルールがつくられた。

野球は古いボール競技といわれている。しかし、200年前にベースボールと呼ばれていたものは、棒とボールを使ってはいるが、今とはかなり違ったルールで試合をしていた。100年間は野球を変えるのに十分な時間だ。

2118年に第200回大会が行われるとしたら、高校野球の競技規則も大きく変化していることだろう。実際、今年の大会からは、タイブレーク制が導入された。タイブレークは延長13回から無死一、二塁の状態で始め、得点が入りやすくことで試合の決着がつきやすいようにするものだ。6日の第4試合の佐久長聖対旭川大戦で初めてタイブレークに突入。延長14回で佐久長聖が試合を決めた。

夏の甲子園の200回大会には7イニング制が導入されている可能性がある。遅ればせながら、投球回数の制限や、ワールド・ベースボール・クラシックのような投球数制限と休養日規則が取り入れられているはずだ。

金属ではなく、より木のバットに近い、新しい材料のバットを使っているのではないか。米国では今年から、リトルリーグなどの子どもの野球でも、より木のバットに近づけた新しい金属バットを導入した。USAベースボールは「新しい材料により、木のバットに近い金属バットを作ることができた」としている。さらに100年経てば、金属に代わる材質で、より木のバットに近いものが作られているだろう。ただし、今の金属バット以上に飛ぶバットは、安全の観点から適用されないと思う。

また、高野連の規則では、参加選手を男子生徒と規定しているが、100年後にはその規則が変わり、女子選手の華々しい活躍が見られるかもしれない。人口減少時代で選手数も減ってくれば、女子選手にも参入のチャンスが出てくるのではないか。それには、日本の社会が前例や性別にこだわらず適任者を探す方向に向かっているかということも影響するだろう。米国の高校アメリカンフットボールでは、キッカーを女子のサッカー部員が務める例が増えてきている。なるほど、彼女らはコンタクトプレーでは男子に劣るだろうが、ボールを蹴る能力は持っている。

100年後には、現時点では想像できないテクノロジーが出現していることだろう。現在、メジャーリーグではデータ全盛時代を迎えている。高校野球でも監督が采配をするのではなく、部員自らが作り上げた人口知能が、最も適した作戦を瞬時にはじき出しているということもあるかもしれない。

人口の減少で出場校も少なくなれば、現在のトーナメント形式からリーグ戦に変更することも可能になる。そうすれば、戦術や選手起用にも変化が起こる。

22世紀にも野球を楽しめる子どもがいられるように

100年後にも、夏の甲子園大会は続いているか。それは、22世紀に野球を楽しむ子どもたちが存在するかどうかにかかっている。

中村敏雄著『スポーツルール学の序章』には、「あらためて述べるまでもなくスポーツのルールは人間がつくったものであり、しかもスポーツは非日常的・空間で行われる《遊び》であって現実の利害とは関係がないはずだから、ともにプレーする者たちの技能水準や興味・関心、あるいはプレー空間の物理的・地理的条件等によって自由に変えてよいものである」と書かれている。試合が始まれば競技規則と大会規則に従ってプレーしなければならないが、大会前に、その規則を変えることはできる。

米国で産まれた野球には、200年近い歴史がある。その間、消滅せずに発展してきたのは、多くの人がプレーすることと、見ることを楽しんできたからだ。100年後の子どもたちが、今の競技規則に従わなければいけない理由は全くない。その時代の社会のあるべき姿と医科学的知見を反映して、野球をすることを楽しいと感じられるように規則と環境を整備することが、22世紀の甲子園につながるのではないか。

<了>

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谷口輝世子

著者プロフィール 谷口輝世子

スポーツライター。1971年生まれ。1994年にデイリースポーツに入社。1998年に米国に拠点を移し、メジャーリーグなどを取材。2001年からフリーランスとして活動。子どものスポーツからプロスポーツまでを独自の視点で取材。主な著書に『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)、章担当『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。