タイブレーク導入の2つの理由

8月5日に開幕した第100回全国高等学校野球記念大会。通称、夏の甲子園。

記念すべき100回大会、ここ数年過熱し続ける高校野球人気の後押しもあり、連日のように甲子園球場には観客が押し寄せている。

主催者発表では、大会13日目を終えた8月17日時点での総入場者数は84万1000人。1日平均で6万5000人近くの観衆を集めている計算になる。

日本最大のスポーツイベントと言っても過言ではない夏の甲子園。100回という区切りの今大会では、一つのルール改正が行われている。

それが、「タイブレーク制度」の導入だ。

甲子園で採用されているタイブレークは、延長13回以降に適用され、以降すべてのイニングが無死一、二塁から開始される。

このルールは今春開催されたセンバツ大会から採用されていたが、センバツでは延長13回に突入するケースがなく、夏の甲子園2日目、1回戦の旭川大対佐久長聖戦で初めて適用された。

タイブレーク導入の理由は大きく分けて2つ。一つは「選手の健康管理」、もう一つは「日程消化の円滑化」だ。

昨年までのルールでは延長は15回で打ち切られ、翌日「再試合」が行われていた。当然、選手、特に投手への負担は大きく、その後の試合日程にも大きな影響を及ぼしてしまう。

今年の夏の甲子園では8月19日に「休養日」を設けて、準々決勝以降の連戦を防ぐような日程が組まれているが、これも雨天順延や前述の再試合が行われた場合、「予備日」として試合が行われる。

大会自体が円滑に進めば問題はないが、一日でも雨で中止になってしまったらその瞬間、休養日は休養日ではなくなる。

その意味で、事実上「再試合」を廃止するタイブレークの導入は、必然だったともいえる。

実は、甲子園でのタイブレークの導入自体は、かなり前から叫ばれていた。

代表的な事例でいえば、1998年の準々決勝、横浜対PL学園の延長17回にも及ぶ死闘、さらには2006年の決勝、早稲田実業対駒大苫小牧による延長15回引き分け再試合。

これらは、甲子園の歴史に名を刻む「名勝負」とされる一方で、高校野球界が「選手の負担軽減」を考えるきっかけにもなってきた。

事実、横浜対PL学園の死闘が直接的なきっかけとなり、2000年センバツからは延長戦の規定が18回から15回に短縮されている。今回のタイブレーク導入も、この流れをくんだものと考えていい。

このように高校野球の世界でも、「選手の負担軽減、故障予防」という意識は年々増しており、今年に入ってからのタイブレーク導入も、当然の流れではあった。

タイブレーク反対派の意見は?

その一方で、タイブレーク導入にあたって、さまざまな意見が飛び交ったのも事実だ。

導入を反対する意見は、主に以下のようなものだった。

「タイブレークなんて野球じゃない」
「甲子園がつまらなくなる」
「最後の夏をタイブレークで終わらせるなんて球児がかわいそう」

確かに、一理ある。

野球というスポーツは基本的に、「走者を出し、進め、返す」というプロセスを経て得点を奪う競技だ。無死一、二塁から攻撃が開始されるタイブレークは、このうち「走者を出し、進める」というプロセスを割愛するものだ。古くから野球を見続けたファンや競技者にとっては、確かに違和感があるだろう。

ただ、タイブレークの導入は決して「ファンを楽しませるため」のものではない。あくまでも、日程消化を円滑にさせ、選手の負担を軽減させるためのものだ。

それらを踏まえたうえで、実際にタイブレークが行われた試合を見た筆者の意見はこうだ。

「タイブレーク、悪くない」

甲子園史上初めてタイブレークが実施された旭川大対佐久長聖戦では、延長13回が両校ともに無得点。14回表、佐久長聖が無死満塁から内野ゴロの間に1点を勝ち越し、それが決勝点となった。

タイブレークではあったが、得点が乱発されるわけではなく、1点を争う緊迫したシーンを見ることができた。

2度目のタイブレーク実施となった8月12日の2回戦・済美対星稜戦では逆に「これぞタイブレーク」と唸るような劇的な展開が生まれた。

13回表に星稜が2点を勝ち越すとその裏、無死満塁から済美の1番打者・矢野功一郎が右翼ポールを直撃する逆転サヨナラ満塁本塁打を放ち、勝負を決めたのだ。

逆転サヨナラ満塁本塁打は、100年ある甲子園の歴史でも初の出来事だったという。

確かにタイブレークは、得点へのプロセスを大幅に割愛するというデメリットがある。

しかし逆に「いつ、得点が入ってもおかしくない」、「勝ち越されても、すぐに逆転するかもしれない」という緊迫感をもたらしている。

こういった展開を「野球がおもしろくない」と感じるかどうかは個人差があるだろうが、少なくとも筆者はタイブレークに突入した2試合とも、先の読めない展開を楽しむことができた。

また、「タイブレークで勝敗が決まるなんて選手がかわいそう」という声については、はっきりと異論を申し立てたい。

確かに、いわゆる「特別ルール」であるタイブレークで3年間の最後が決してしまうことを残酷に感じるファンはいるだろう。負担は大きいかもしれないが、最後まで正規のルールで決着がつくまで戦ってほしいという気持ちもわかる。

ただ、実際に球場でプレーする高校球児たちは、実は「タイブレーク」への免疫をすでに持ち合わせている。

例えば、中学硬式野球のボーイズリーグ、シニアリーグでは既定の7回を終えて同点の場合、延長8回からは一死満塁から攻撃が開始される。軟式野球でも地域によって多少の差はあるが、既定の7回、延長9回を終えた時点で同点の場合は、無死満塁から攻撃が始まる「特別延長戦」を採用しているところがほとんどだ。

こういったルールは中学だけでなく小学校でも採用されており、高校球児のほとんどが、それより前のカテゴリーでタイブレークや特別延長戦を経験している。

むしろ、タイブレークに免疫がなく、極端な拒否反応を示しているのは「観客」の方なのだ。

選手たちは、ルールに従い、その範囲内で精いっぱいプレーする。そのルールが選手の健康管理を考えて改正されたものであるのなら、反対する理由はないはずだ。

現行制度の改善点とは?

もちろん、現行のタイブレーク制度にも改善点は多い。

例えば、延長13回からの適用という規定。センバツでは一度も実施されなかったことからもわかるように、実は延長戦が13回まで行われるケースは決して多くない。そんな「レアケース」のみの適用で、果たして本当に「選手の健康管理」が目的と呼べるのだろうか。

事実、前述の済美対星稜戦では、済美のエース・山口直哉が延長13回、184球を一人で投げ抜いている。「エースの熱投」と称賛される一方で、その投球数の多さや投手交代を行わなかったことに対しては批判の声も上がっている。

真の意味で、「選手の健康管理」をうたうのであれば、これからも状況や時代に合わせたルール改正が必要になってくるだろう。

タイブレーク採用のイニングを延長13回よりも前倒しにする、投手の球数制限を採用する、連投に対して規制を設ける――。

やり方はさまざまだ。もちろん、どれを採用するにせよ、今回のタイブレーク同様、反対意見はあるはずだ。しかし、「変化」に逆風はつきものだ。

今回のタイブレーク導入は決して満点とはいえないが、一定の効果はあったといってもいい。ただ、高校野球界にはこれで「やれることはやりましたよ」と満足してほしくない。

むしろ、これを足掛かりに、さらなるルール改正に着手してくれることを切に願っている。

<了>

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花田雪

著者プロフィール 花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。