ラグビーW杯が盛り上がりをみせ、来年には東京オリンピック・パラリンピックも開催される。そんな中、日本の若いアスリートも躍動。メディアにとっても彼らは「旬のおいしい素材」となっているのだが、その報道の仕方に疑問を感じることも少なくない。ネットメディアの進化によって、試合そのものだけでなく、記者会見なども編集されない状態で見られるようになったことで、スポーツの本質からほど遠い“ワイドショー的な質問”が批判を集めるようなことも少なからず起こっている。
「日本のスポーツ界とスポーツメディアは長年馴れ合いの関係にあるとしかいいようがありません。記者会見などで、選手やチーム、上部団体の意に沿わない質問をした記者や、球団やクラブや協会にとって不都合なことを記事にした記者は、“出禁”になるので、どうしても“なあなあ”になり、本質をついた議論にならない。そうなると記者側もネタにこまるので、無理やり美談を作り上げようとしたり、本筋に関係のない質問ばかりしてしまったりしてしまうのではないでしょうか」
たとえばプロ野球の試合後に行われるヒーローインタビュー。選手は毎度おなじみの決め台詞を発し、インタビュアーもそれをうながすような質問しかしない。スポーツの楽しさ、面白さ、奥深さを語ってくれる選手はごくわずか。あんなコントのようなやり取りを喜んでいるのは、球場に来ているコアなファンだけだろう。
「本来、取材者と取材を受ける側は、一定の緊張感があるべきだと思います。選手を気持ちよくさせるだけのいいことばかりお世辞のように書いていても、スポーツ界はよくならない。良いところは褒め、駄目なところは駄目という。そういう健全なスポーツジャーナリズムにならない限り、スポーツ界そのものが発展していかないと思います。本来はもっと切磋琢磨していく関係にあるべきなのに、権力側、体制側が、メディアを押さえつけて都合の悪いことは報道されないような空気にもはやなってしまっているように私にはうつります」
残念ながら、 忖度が横行しているのが日本のスポーツジャーナリズムの現状だ。チームや組織とジャーナリズムが同じ“ムラ社会”のなかにいるため、ジャーナリズム側も選手や監督の采配、組織運営に対する批判がしづらい。「本当は変えたほうがいい」、「このままではダメになる」と分かっていても、「本当のこと」を書けば“出禁”になり、仕事ができなくなるからだ。そこには、超えてはいけない“Unwritten rule”が存在する。
もちろんこのような状況が健全とはいえないし、日本のスポーツ界の発展のさまたげになっていると言っても過言ではないだろう。10月、NewsPicksは新しいスポーツジャーナリズムの可能性を探るネットメディアSportsPicksを立ち上げるという。その立ち上げを担当するNewsPicks取締役の佐々木紀彦氏も、メディアの進歩が競技力の押し上げにもつながると語る。
「スポーツジャーナリズムは、収益が成り立たたなくなっていることもあり質が落ちていると思います。スポーツのレベルは上がっているのにスポーツメディアの質が上がっていないように感じる。選手へのヒーローインタビューなどでも、質問する側がもっと鋭い質問をすべきです。そうすることで選手側の言語力もあがり、プレイの向上にもつながるのではないでしょうか」
選手自身がSNSなどで自分の言葉で発信できるようになったことも、スポーツジャーナリズムの衰退に影響を与えているだろう。スターアスリートの生の声がほしいスポーツジャーナリズムは、どうしても彼らに嫌われたくない。それが「おもねる」状況を作り上げているのではないだろうか。池田氏もSportsPicksの新しい挑戦に期待する。
「直接声を届けることができる時代だからこそ、従来型ではない新しいスポーツジャーナリズムが成立する可能性があると思います。きちんとした批判ならちゃんと耳を傾けるアスリートもいる。彼らだって、アイドルみたいな質問をされるより、ちゃんとそのスポーツを理解し、盛り上がるような取材を受けたいと思っているはずです。ジャーナリストだって、しがらみのない仕事をしたいに決まっている。日本のスポーツ界がどうしても上意下達の閉鎖した世界になっているのは、スポーツジャーナリズムの責任もあると思います。スポーツ界が盛り上がりを見せている今だからこそ、新しいスポーツジャーナリズム、真のプロフェッショナルの登場に期待したいですね」
スポーツの世界は日進月歩。技術も記録も日々向上している。ならばそれを伝える側も進歩、進化していくべきだろう。そしてそれは、取材を受ける側も同じだ。的を得た批判ならば、きちんと受け止め、改善に役立てる。そういった「成熟した関係」が成立するならば、日本のスポーツ界はまだまだ発展していくはずだ。
取材協力:文化放送
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文化放送「池田純 スポーツコロシアム!」(毎週火 20:40~20:50)
パーソナリティ:池田純
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新しいスターが生まれるこの時代にこそ 「スポーツジャーナリズムも進化すべき」
大坂なおみ、八村塁、渋野日向子、久保建英……。東京2020を前に、若い日本人アスリートの躍進が目覚ましい。メディアでの露出も増えるなか、ワイドショー的なややトンチンカンな報道も目につく。もっとスポーツの、アスリートの本質や本当の課題やまったく異なる視点をしっかりと伝えてくれるメディアはないのか? 横浜DeNAベイスターズ初代球団社長であり、スポーツビジネス改革実践家の池田純氏がスポーツジャーナリズムの現在を語った。
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