昨年末、MLBと審判員組合がコンピューターによるストライク、ボールの判定を採用することに合意したと発表された。このロボット審判は、すでに一部の独立リーグなどで試験的に採用されていて、メジャーリーグでも早ければ2022年からお目見えすることになりそうだ。サッカーでは、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入によってファールや判定に対する抗議が減ったといわれているが、このロボット審判は野球でも同じような“効果”が期待できるのだろうか?
「判定ミスやそれに対するクレームは間違いなく減るでしょうね。選手目線、競技目線では、正しいテクノロジーの時代のあり方なのかもしれません。ただ私はロボット審判が必ずしもいいとは思いません。特に日本の場合、プロ野球はひとつの文化になっている。ビール片手に観戦しながら『いまのストライクだろう!』と文句を言ったりするのもお客さんが楽しんでいる姿の一つではないかと思います。審判ごとにクセや、派手なジェスチャーを楽しむのもプロ野球のおもしろさではないかなと思うんです」
MLBではアストロズの電子機器をつかったサイン盗み問題が明らかになり、スポーツとテクノロジーの関係が見直されている。興味深いのは、MLBにおいてサインの分析・解析自体は認められているということ。選手やコーチが自分の経験値や“目”でサインを読み解くことは禁じられていない。
「野球には、審判という人間がいるからこそおもしろいという部分があると思います。絶対表には出さないけど、選手の好き嫌いはあるだろうし、人間だから間違いもある。“さっきボールをストライクって言っちゃったから、今度は“お返し”しておこう“、とか。そういった選手と審判のコミュニケーションが垣間見えたりするのも野球ならでは。テクノロジーを使えば、なんでも正確になるし、効率的になる。でも少なくとも野球の世界ではそればかり追求しなくてもいいんじゃないかと思います。スタンドではラッパや太鼓が鳴り響き、選手にはヤジが飛び、審判もたまに間違える。そんな人間くさくて、昭和のにおいがするプロ野球が私は好きなんです」
確かに勝つことだけが楽しみなら、弱小チームはファンがいなくなる。不正を働いてまで勝ってほしいとは、誰も思っていないはずだ。どんなにテクノロジーが発達しても、そのテクノロジーを上回る驚きや感動を選手たちが与えてくれるからこそ、ファンは球場に足を運ぶのだ。少なくとも日本では、もうしばらくは人間くさい野球を観ていたいものだ。
取材協力:文化放送
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サイン盗み問題、ロボット審判の導入…。スポーツとテクノロジーはどうつき合うべき?
2017年シーズンに電子機器をつかったサイン盗みを行っていたとして、MLBヒューストン・アストロズに処罰がくだされた。GMと監督が解任され、罰金は500万ドル。2017年のワールドシリーズ制覇も剥奪されるのではないかといわれている。MLBではロボット審判の導入も取り沙汰されているが、横浜DeNAベイスターズ初代球団社長であり、スポーツビジネス改革実践家の池田純氏はこのようなテクノロジーと野球、スポーツの関係をどのように考えているのだろうか。
サイン盗み問題で解任されたヒューストン・アストロズのA.J.ヒンチ監督(左)とジェフ・ルーノウGM(右)【(C)Getty Images】