メジャーリーグラグビーが秘めるポテンシャル

ーまずはじめに、アメリカに活躍の場を移した経緯を教えてください。

私は2008年から11シーズン、日本のトップリーグのサンゴリアスでプレーしてきました。ただ、昨年はチームとの契約更新に至らなかったので、残された道は移籍をするか、引退をするか。このタイミングで選手としてのキャリアを終えて、令和から新たなステージに行くのもありかなと思っていました。

それでも現役を続けたのは、家族の後押しや、自分自身の心の奥底に「もう少しラグビーをやりたい」という気持ちがあったからです。そこで移籍先の選択を迫られたわけですが、どうせなら国内でやるよりも海外でやりたいなと。これからキャリアを積んでいくのであれば、もし同じ試合数だとしても、海外のリーグでやったほうが良い経験になるのではないかと考えていました。

ー様々な選択肢があったと思いますが、なぜアメリカという国を選んだのでしょうか。

ラグビーはイギリスやフランスのリーグが盛んですが、世界的に見ても外国人枠が狭まってきています。それだけ自国の代表チームを強くしようとしているんです。その中でアメリカは、これからラグビーをより強化していこうというスタンスなので、外国人枠に関してはヨーロッパよりも寛容でした。また、オールブラックスの選手なども参加を表明しているので、新しい何かが生まれるのではないかという期待もありました。

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ーメジャーリーグラグビーに参戦するにあたって、周囲からはどのようなリアクションがありましたか?

以前のチームの関係者からは「アメリカに行ってどうするんだ」と言われました。たしかに現時点で日本とアメリカを比べたら、日本のトップリーグのほうが強いとは思います。ただ、メジャーリーグラグビーはまだまだ準備段階で、車でいえばガソリンを積んでタイヤを装着して、後は優秀なドライバーが目的をしっかりと定めている状況。

その目的はのちに発表されると思いますが、材料がどんどん揃っていけば、ものすごいスピードで走れるはずです。そうなった時に、日本がどれだけ追いついていけるか。今のアドバンテージが一瞬で追いつかれてしまうくらい、アメリカのポテンシャルは高いと思っています。

ーその車の一部になる中で、日本のラグビー関係者やファンにどういった姿を見せたいでしょうか。

ショックを受けてほしいですね。リーグというのはパフォーマンスのレベルだけでなく、しっかりとしたマーケティングが必要。どういうふうに見せればラグビーが光り輝いて、人がお金を払いたくなるのか、日本のラグビー界はずっと考えています。それがもし、この短期間でアメリカがやってのけたら、「日本はこれまで何をしてきたんだ」となりますよね。その悔しさをきっかけに、前に進んでいってほしいんです。

活躍することがサンゴリアスへの最大のリスペクト

一プレーヤーとしては、どのような実績を残していきたいでしょうか?

やはり一番大事なのは、ハイパフォーマンスをすることです。グラウンドの上でどれだけ良いパフォーマンスをして、どれだけインパクトを与えられるか。まずはしっかりと結果を出して、その上で周囲の人々を巻き込んで、何か違ったことができれば良いなと思います。

一11シーズンもプレーしていたサンゴリアスを離れる辛さもあったのではないでしょうか?

サンゴリアスは世界で一番好きなチームですし、当然ながら離れることには寂しさがありました。チームからは選手ではない形で残るという話もいただきましたが、いつまでも良い環境に甘えているのではなく、新たな道を切り開くというのが今の僕に与えられている使命かなと。しっかりとアメリカで活躍することが、サンゴリアスへの最大のリスペクトになると思います。ラグビーは生涯スポーツではなく、ろうそくに火を灯して自分の命を削るようなスポーツなので、この瞬間を大切にしたいです。

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一2019年はかなり自問自答を繰り返した年だったと思います。
8歳でラグビーを始めて、これまで大学や社会人、サンゴリアス、日本代表と様々な経験を積んできました。その中で、今までは「これくらいで引退しようかな」と自分から身を引こうとしていましたが、サンゴリアスと契約更新に至らなかった時は、自分の意思と関係のないところで急に引き算がきたんです。混乱で恐怖に陥ったものの、それでもラグビーを続けたかった。僕にとってラグビーは人生そのものですからね。

ラグビーやスポーツは“ファンのもの”

一アメリカでラグビーを続けていく中で、今話題のスポーツギフティングサービスを利用してファンから寄付を募ると聞きました。

僕は1円でもいただいたらプロだと思っていますし、金額が10円だとしても、その10円以上の価値のあるパフォーマンスや、何かしらの形での発信をすることが役割です。金額にこだわらず、応援してくれる人のために一生懸命努力しようと思います。

一そこで集まった資金はどのように活用していくのでしょうか。

自分自身の活動資金にできればと思っています。例えば、チームが売っているシーズンチケットの中から、ある程度の席数を確保して、“ありがとうシート”と名付けて日本の子どもたちやラグビー初心者を招待したいです。こういった活動は日本ではやっていませんでしたし、前例もあまり見たことがないですが、チームのマネージャーに話したらすごく応援してくれました。

今は貧困と戦っている人たちに何かを伝えるために、11席を確保しています。こういったギフティングを通して、そういった活動を広げていければ嬉しいですね。

僕はこういったサービスの存在をポジティブに捉えています。実際にお金がなくて活動ができないアスリートは山ほどいるわけで、そういう選手はどうすれば資金を捻出できたり、自分を応援してもらえるか、四苦八苦しています。

僕だけでなく、様々なアスリートに活用して欲しいですね。資金の活用法に正解はないので、自分が信じている道を歩むべきですし、しっかりと責任を果たすことができれば、また自分の可能性が広がっていきますから。

一応援してくれるファンに対して、支えられているという意識や、何かお返しをしたいという意識は、以前から持たれていたのでしょうか?

ある時を境に、ラグビーやスポーツが誰のもので、誰が支持するのを考えるようになって、やはりファンだなと感じたんですよ。ファンが応援してくれるからこそ、僕たちはスポーツで生活できていますし、スポンサーも投資をしてくれています。それが本来のスポーツのあるべき姿だと思いますし、アメリカではその考え方が当たり前です。

そして、成功しているスーパースターは困っている人たちに何かを寄付したり、ボランティアをしています。だからこそ、みんながスポーツを理解していますし、スポーツの可能性を信じて応援するんです。これは日本ではなかなか感じられない部分かもしれません。

一だからこそ、より一層プレーに責任感が増すのですね。

良くないプレーをしてブーイングされたり、応援されなくなってしまったら僕の責任ですからね。そのかわり、良いプレーをしたら必ず賞賛してくれます。そういうところがアメリカははっきりとしていますし、「ミスをしても頑張った」では自分が成長しないんです。本当のファンは、ダメな時にきちんとダメと言ってくれます。そして家族は、どんなにダメな時でも支えてくれる存在だと思っています。

一アメリカでの2シーズンに突入しますが、最後に意気込みを聞かせてください。

もちろん3シーズン目を掴み取りに行きますよ。グラウンドの中で結果を出して、信頼を得ることによって、自分自身の可能性を広げていきたいです。僕からラグビーが引かれることなく、自分の力で足し算に変えていきます。

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【Unlimとは】

スポーツギフティングサービス「Unlim」は、①競技活動資金に充て新たな挑戦をしたい、②自身の活動だけではなくスポーツや競技そのものを盛り上げていきたい、③スポーツを通じて社会に貢献したい、といったさまざまな思いを持つアスリートやチームに対して、金銭的に支援するサービスです。

「Unlim」公式サイト©Unlim

竹中玲央奈

スポーツライター&編集企画。大学在学時に風間八宏率いる筑波大学に魅せられ取材活動を開始。2012年から2016年までサッカー専門誌エルゴラッソ で湘南と川崎Fを担当し、以後は大学サッカーを中心に中学、高校、女子と幅広い現場に足を運ぶ。㈱Link Sports スポーツデジタルマーケティング部に務め、AZrenaを始めとした自社メディアや外部スポーツコンテンツ・広告の制作にも携わる。