この10年ほど、草野球や学童野球のチームが激減しているという。中学の野球部の所属人数は少子化を遥かに上回るペースで減少。池田氏は、自分の少年時代を振り返りながら野球人気の低迷に対する対抗策とその実現を願う。

「私が子どものころ、30年くらい前は、男の子はみんな野球をやっていました。ドラえもんののび太やジャイアン、スネ夫に象徴されるように。公園や空き地ではみんな野球。バットがなければ手打ちで野球をしていた。でも今はそんな風景を目にすることが格段に減ってしまった。野球ができる公園が減った、道具を揃えるのにお金がかかる、怒鳴ったり威張ったりの旧態依然とした指導者を敬遠する、他のスポーツもかっこいい……子どもが野球をやらなくなってしまった理由はいろいろあると思いますが、数年単位の比較ではなく、30年単位で比較すれば、街の風景を見ただけで野球に対する子どもたちの人気がひと昔前とは比較にならないほど変わってしまったように思います」

一方、プロ野球の観客動員数はここ数年増加の一途をたどっているというデータもある。一様に叫ばれる野球人気の低迷をどう正しく理解すればよいのだろうか。

「ここ5~8年、スタジアムを訪れる観客は増えています。それは各球団がスポーツをエンターテインメント化する努力をして『野球を観に行くのが楽しい』という文化を作り上げてきたから。野球を応援するだけでなく、野球場を楽しみに行く文化、要するにボールパーク文化に業界全体がシフトすることができたから。野球が好きな人だけではなく、野球に興味がない人にもアプローチを続けてきた結果で、野球人気というよりもライブ観戦人気、スポーツエンタメ人気と分析することが正しいのではないでしょうか。もちろんその努力は素晴らしいことですが、そのことと野球人気は別だと私は考えるべきだと球団社長時代から考えてきました。現実的に各メディアが野球を取り上げる時間は減っている。特にテレビよりネットが日常になっている若者、その先の子どもへのアプローチが課題。『巨人・大鵬・卵焼き』の時代からテレビ中心に人気を獲得してきたプロ野球界は、ネットカルチャー、ネット世代への対応を業界全体で、スポーツエンタメ文化にシフトしたように、一気にシフトしないといけないように私は思います」

今年は東京五輪が開催される。ワールドカップの開催でラグビー人気が一気に盛り上がったように、代表チームが活躍すれば野球人気も簡単に復活する可能性もあるような気がするが……。

「その可能性は大きい。気になるのがオリンピックの野球への参加が6カ国だけだということではありますが、MLB所属の選手は出場しないでしょうから、日本のチームと野球が一気に注目され、勝利とともに昨年のラグビーのように日本全国、日本中の子どもたちの間で、野球が一気に復権することが可能なチャンスです」

そのオリンピックを契機に、長期的に野球人気を維持、復活させるには、野球界全体の全体最適な取り組みが必要だと池田氏は語る。

「たとえばサッカー界は、日本サッカー協会とJリーグが一体化しピラミッド型の組織を全国に張り巡らせています。またMLBもコミッショナーが絶対的な権限を持って、スポンサー収入などが全球団になるべく平等に行き渡るようにするなど、“全体”の発展のためのことを考えています。一方日本のプロ野球界では、12球団がそれぞれの動きを昔から個別に部分最適にしてきた傾向がある。NPBは取りまとめ役的な役割に近く、しかもアマチュアとプロの間には溝がある。1チームだけ強ければ、1チームが日本の野球人気を牽引する時代は終わってしまった。もっと全体最適の目線で、野球界全体が一丸となって、未来の日本の野球や野球と日本の子どもの関係と未来を考えるべき時代に、時代と環境はシフトしているのではないでしょうか。そのために強力なリーダーシップを発揮する人間が出てきて、次の30年後の野球をしている子どもたちの日本各地、地域の未来をつくっていかないといけない。私は野球界にいた人間ですが、いまは客観的に見ることができます。そんな私にからは、いまこそ個別最適から全体最適に一気にシフトするチャンスに思えます」

正しく子どもたちを導くことができる指導者の育成や、野球をできる場所の確保など、たしかに野球界全体で考えるべき問題だろう。そういった大胆かつ本質的な取り組みで、オリンピックを契機として、野球界の先行きが明るい未来につながるよう期待する。




取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部