新型コロナウイルス感染拡大における東京五輪の開催可否

 新型コロナウイルスの感染は、今や世界中に広がり猛威となっている。現段階では決定的な治療薬はなく、感染すれば自発的な治癒を促すしかない状況だ。一刻も早く治療法を見つけなければならないが、そのためにはどうしても時間が必要で、それまでの間は感染の拡大を抑えるのが人類にとって有効な手段となっている。そのため濃厚接触の恐れがあり感染のリスクが高いイベントや集会の自粛要請があり、スポーツイベントも例外ではなく、プロ野球やJリーグなどをはじめとしたさまざまな試合が延期や中止を発表している。
 新型コロナウイルスに関しては未知の部分が多く、インフルエンザなどのように気温や湿度が影響して弱まるとも言い難い状況で、収束への目処もはっきりとした見通しを立てらない。そういった状況のなかで、7月24日に開幕する予定の東京オリンピックの開催も危ぶまれている。
 2月25日に、国際オリンピック委員会(IOC)のディック・パウンド委員が「必要ならば2カ月前に何とかできる」とAP通信の取材に返答。IOCで東京オリンピックの中止や延期が検討されていることがわかった。そして、3月3日には橋本聖子五輪相が「計画通り大会が開催されるよう全力を尽くす」と話しながらも、契約上「20年中であれば延期できると取れる」とコメント。現状では年内の延期プランも検討せざるを得ない状況であることを発表した。その翌日、IOCのトーマス・バッハ会長は記者会見の席で「大会の成功に向けて全力を尽くす」と繰り返し、中止や延期の検討については明言を避けている。
 また、ロンドン市長候補が代替開催を名乗り出たことで中止や延期以外の選択肢も考えられた。だが、全大陸での感染者が確認された今となっては、代替都市での開催案は現実的とは言えなくなってしまった。
 そして、巨額な放映権料の観点からスケジュールの変更は難しいとの見解もあり、無観客での開催案も取り沙汰されている。しかし、放映権料以外にもパートナーシップを締結している企業は多数ある。しかもその企業数は過去最多を記録しているという。そういったパートナーシップを締結するスポンサー企業のすべてが無観客での開催を納得すると考えにくく、妙案とは思えない。
 現段階で考え得る選択肢は、予定通り開催、延期開催、無観客開催、中止の4つに絞られることになった。どの決断が下されることになるとしても、まだ時間は必要。ディック・パウンド委員がコメントしたように5月下旬までは、どうなるのかはっきりしない可能性が高い。

予選の延期や中止が続出する大きな影響 開催可否はアスリート・ファーストを望む

 新型コロナウイル感染拡大が及ぼす影響は、東京オリンピック開催可否だけに関わる問題ではない。すでに多くの選手が影響を受けており、ベストな状態で本大会に臨めるかも疑わしい状況になっている。
 たとえば、ボクシングのアジア・オセアニア予選は2月に中国の武漢で開催される予定になっていたが、延期が決定されて3月にヨルダンのアンマンで開催されることになった。同様にキルギスで開催が予定されていたレスリングのアジア予選も延期が決定した。両競技ともに体重別階級で競われ、選手は試合に向けて調整を余儀なくされる。その調整は何カ月も前から行われるものであって、1カ月後に延期をしますと言われてベストな状態に調整するのは困難なことである。
 ゴルフやバドミントンなども開催が中止となった大会がある。その競技における五輪の出場権は、ポイント制によって争われている。その大会で得られるはずだったポイントが泡と消え、代表選考にも大きな影響が出る。バドミントン競技におけるリオデジャネイロオリンピック金メダリストの高橋礼華・松友美佐紀ペアは、現在ランキング上で下回っており逆転が不可能になったと言わざるを得えず、東京オリンピックには出場できないだろう。また、ゴルフも渋野日向子、畑岡奈紗、鈴木愛らで争われている五輪出場レースだが、こちらもポイント制による選考が導入されているため、ひとつの大会の中止が及ぼす影響は大きい。
 その他にも多くの競技が延期や中止となっており、選手たちにはすでに大きな影響を与えている。それはアジアに限った話ではなく、感染が拡大するイタリアでも4月3日まで予定しているイベントの中止が決定された。もちろん、そのなかにはオリンピック選考に関わるイベントも含まれている。イタリアに限った話ではなく、この流れは世界的で遅かれ早かれどの国の選手にも影響を及ぼすことだろう。ランキングなどこれまでの成績を優遇して選考するといった案も出ているようだが、逆転を狙って調整してきた選手にしてみれば、堪ったものではない。
 SMBC日興証券は6日に東京オリンピックが中止となれば、6700億円の経済損失が発生すると発表した。その他にも放映権料の影響から延期はできないなど、商業的な側面からの見解が多い。しかし、それらはアスリートが死力を尽くして競い合ったものの副産物であることを忘れてはならない。選手によってオリンピックは一生に一度のチャンスで、全人生を懸けたイベントなのだ。
 すでに、新型コロナウイルスは東京オリンピックに大きな影響を及ぼしている。時間を取り戻せない以上は、もうベストな選択は難しくベターな選択をするに他はない。そのベターな選択が“アスリート・ファースト”であることを願うばかりだ。


VictorySportsNews編集部