■大企業に雇われる形ではない「個人オーナー」として

横浜から埼玉へ、プロ野球からBリーグへ、社長からオーナーへ。ベイスターズを再生させたプロ経営者が”異例の転身”を果たす。池田氏は現在、さいたま市の清水勇人市長の要請を受け、スポーツによる地域活性化を目指すSSCの会長を務めている。その取り組みを後押しする一つの大きな“武器”として、さいたま市や所沢市、春日部市を中心とした埼玉県全土をホームにするプロチームを次の挑戦の場に選んだ。

関係者によると、埼玉ブロンコスの運営会社は数億円規模の累積債務を抱え、今季も経営赤字が見込まれる中で来季以降のチーム存続が危ぶまれていた。そこで救済役を買って出たのが池田氏。同社に対する来季からの再建に関与していくため、数億円の債務超過を解消するとともに今季の経営健全化計画を構築。その結果、既存の株主陣から過半数の株式が譲渡され、経営が託されることになった。また、今回の再建計画において、それぞれ埼玉ブロンコスを支えてきた所沢市の日栄建設社長の日向貴一氏、全日本プロレス社長でもある福田剛紀氏も株主としてチームに残り、今後のブロンコス再生に協力し、応援していくという。

埼玉ブロンコスは、マツダオート東京バスケットボール部として1982年に結成されたクラブ。Bリーグの前身bjリーグ発足時の「オリジナル6」ともいわれる6チーム(ほかに新潟アルビレックスBB、東京アパッチ、大阪エヴェッサ、大分ヒートデビルズ、仙台89ERS)の一つでもある名門だ。特に今回注目すべきは、大企業に雇われる形ではない「個人オーナー」としての動きである点。まだまだ、日本では珍しい形となるが、次のような池田氏の過去の発言から、その背景、そこに込められた思いがうかがえる。

「東京オリンピック後の日本のスポーツ発展のためにも、プロスポーツは親会社の子会社、広告宣伝という従来型から抜け出さなくてはならない。十人十色の個人オーナーが、千差万別にプロチームを経営し、地域に密着することで企業価値を高める。米国で言えばジーター、ジョーダンのように、個人がオーナーになって夢のチームを育てていく大きな一つの流れ、時代が日本にも来る」

2011年に史上最年少の35歳でベイスターズの球団社長に就いた池田氏は、不可能と言われた横浜スタジアムの買収(友好的TOB)を成功させ、約24億円あった赤字を解消して黒字化を実現。その経営手腕で球界にスポーツエンターテインメントビジネスという概念を持ち込み、大きな注目を集めた。2016年の退任後は日本ラグビーフットボール協会やJリーグの特任理事、スポーツ庁参与などの役職を依頼され、引き受けてきたが、保身や忖度、権力争いなどに巻き込まれる中で「自身のオーナーシップの下でプロスポーツチームを経営したい。(ベイスターズで)雇われ社長をやったからこそ、オーナーにならないと100年、3世代にわたって地域に根付く“次のベイスターズ”はつくれないと痛感している」と思いを強くしていた。

■「次世代型スポーツ施設」の実現へ

東京五輪では、さいたま市にあるさいたまスーパーアリーナがバスケットボール競技の会場となっており、五輪後のレガシーを活かせることなど飛躍への素地は十分。 サッカーのイメージが強いさいたまだが、実はミニバスケットボール(ミニバス)のチーム数が全国一であるようにバスケ人口が多い地域としても知られている。また、さいたま市では清水市長が「次世代型スポーツ施設」、具体的には5000〜1万人規模のアリーナの新設を市民との約束である公約に掲げており、この「次世代型スポーツ施設(アリーナ)」という「ハード」と埼玉ブロンコスという「ソフト」「コンテンツ」」が連携し、地域に密着したスポーツ文化づくり、地域貢献、地域活性化と経営の両輪がまわっていくことが期待される。

もちろん、池田氏がいかに埼玉ブロンコスを再生させるかが大きな一つの関心事となるが、一方で期待されるのが、池田氏にSSCの会長就任を要請した清水市長の今後の動きだ。今回の“買収劇”で、清水市長はさいたま市民とバスケファンの夢を背負って、地域密着型アリーナの整備実現にとりかかれる外発的な動機付けを得たともいえる。さいたま市がスポーツによる地域活性化、地方創生のパイオニア、モデルケースになれるか否かは、まさに今後の行政の取り組みにかかっている。

大きな反響も呼んだ。このニュースが報じられると、埼玉県民やバスケファンを中心にSNSでは「池田さんの手腕で、どう変わっていくのか楽しみ」「プロ野球とは色々な面で差があると思うけど、どういったやり方をしていくのか期待」「プロクラブを個人で買収って男の夢感!」など、歓迎や期待の声が多く上がった。若者に人気の競技であることもあって、ネットの世界は大にぎわい。ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏も「やっとですねー!」と池田氏へ祝福のコメントを発信した。

大手製菓会社の再建などスポーツ界以外でも”再生請負人”として名をはせてきた池田氏が、念願のオーナーシップを手にして、今度はどのような手腕を発揮し、バスケファン、スポーツファン、さらには埼玉県民やさいたま市民に“横浜の次の夢”を見せてくれるのか。新しいスポーツビジネスの形、新しい地域活性化の取り組みとして、その行方が今後のベンチマークにもなりそうだ。




【プロフィール】
池田 純(いけだ・じゅん)
1976(昭和51)年1月23日生まれ、44歳。横浜市出身。早大を卒業後、住友商事、博報堂などを経て2007年にディー・エヌ・エーに執行役員として参画。11年12月にプロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長に史上最年少(35歳)で就任。16年10月に退任した。退任後はスポーツ庁参与、Jリーグや日本ラグビーフットボール協会の特任理事などを歴任。2019年3月には、清水勇人さいたま市長に要請され、スポーツによる地域活性化を図る一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長に就任。ノジマ、大戸屋ホールディングスなど大手企業の社外取締役も務める。

【埼玉ブロンコス】
1982年に結成されたマツダオート東京バスケットボール部を前身に、96年に所沢ブロンコスとして設立。97年から社会人の日本リーグに参戦し、2002、03年度に2連覇を達成。プロバスケットボール、bjリーグには05年の初年度から参加した「オリジナル6」ともいわれる名門チームで、同年に現名称となった。ただ、近年はチームも経営も低迷し、存続の危機にあった。現在は16年秋に開幕した新リーグ、Bリーグの3部(B3)に在籍。00年にホームタウンを埼玉県全域へ広げ、メインアリーナは所沢市民体育館。チーム名の「ブロンコス」は「暴れ馬」の意味。


【主なスポーツ界の著名個人オーナー】
☆デレク・ジーター
米大リーグ、ヤンキース元主将で5度の世界一に輝いた殿堂入り遊撃手。2017年に実業家のブルース・シャーマン氏と組んだ投資家グループとして米大リーグ、マーリンズを12億ドル(約1300億円)で買収し、同10月に最高経営責任者(CEO)に就任。主力選手を次々と放出する“ファイヤーセール”など人件費削減による再建策が注目された。

☆デイビッド・ベッカム
サッカー元イングランド代表MFで同代表主将。メジャーリーグサッカーMLSの25番目のクラブとして今年から参戦するインテル・マイアミを2018年に創設。マーリンズのホルヘ・マス前オーナー、ソフトバンクの孫正義氏が共同オーナーとして名を連ねている。2022年には新スタジアム、マイアミ・フリーダムパークが完成予定。

☆マイケル・ジョーダン
米プロバスケットボールNBAのブルズなどで活躍し、10度の得点王に輝いた“神様”。2010年3月にNBAのシャーロット・ボブキャッツ(現ホーネッツ)を買収し、筆頭オーナーに就任。取得額は2億7500万ドル(約300億円)。元選手がNBAチームの筆頭オーナーを務めるのは初めて。

☆岡田武史
1998年フランス大会、2010年南アフリカ大会などサッカーW杯で日本代表を指揮。2014年11月にサッカー・FC今治(当時四国リーグ)の運営会社の株式を51%取得しオーナーとなった。出資金は1000万円以上と報じられた。17年にJFL昇格。今年からJ3に参入した。

☆高橋陽一
漫画家。人気漫画「キャプテン翼」の作者。2019年にJ1から数えて7部に相当する東京都社会人リーグ1部のトップチームを運営する株式会社南葛SCのオーナー兼代表取締役に就任した。ホームタウンは高橋氏の地元でもある東京都葛飾区。昨季は東京都リーグ7位だった。

☆本田圭佑
サッカー元日本代表MF、現在はブラジルリーグ・ボタフォゴでプレー。2015年6月にホルン(オーストリア)、16年12月にアンコールFC(カンボジア)、17年9月にブライトスターズ(ウガンダ)に出資し経営に参画。今年1月14日にはツイッターで新クラブOne Tokyoの立ち上げを発表。J1から数えて10部に相当する東京都社会人リーグ4部で船出。

VictorySportsNews編集部

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