男子のU23日本代表は、1月にタイで行われたU23アジア選手権で1勝もできずに1次リーグで敗退する惨敗を喫した。国内組主体のチーム編成だったとはいえ、展望が開けない試合内容が続き、森保監督の手腕を疑問視する声が噴出。久保建英や堂安律、冨安健洋らベストメンバーをそろえて臨むつもりだった3月下旬の南アフリカとコートジボワールとの強化試合が中止となったことは、立場の危うくなっていた森保監督にとってむしろ救いだったかもしれない。
 もし仮に、東京五輪に出場するこの2カ国を相手に、目も当てられない試合をしていたら、解任論はいよいよ加速していたはずだ。

 日本オリンピック委員会(JOC)副会長や東京五輪組織委員会理事も務める日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、五輪延期が決まった際、新型コロナウイルスに感染し、東京都内の病院に入院し、療養中だった。衝撃の発言が飛び出したのは、退院後に行われた4月2日のウェブ会見。
「自分としては東京五輪までの契約をしているのであって、1年延びたことで契約自体が白紙に戻るとは思っていない」。本来なら今年行われるはずの五輪終了時までの契約だったが、1年後の本大会までの続投を示唆したのだ。

 森保監督の五輪延期に対する受け止めはどうか。3月30日に日本サッカー協会の公式サイトに掲載されたコメントには、「試合の開催が延期され、活動が制限されているとはいえ、個人的なスタンスは変わらない。日本代表の活動は、日頃から準備期間が限られている。その限られた準備期間の中で、1回、1回の活動を充実させ、密度を濃いものにして、結果を目指していく。東京五輪が延期されたからといって、その考え方は変わりない」と記している。ファンの心配をよそに、本人の気概は十分だった。

 しかし、兼任するA代表のスケジュールも凍結となった事態を考えれば、五輪代表との兼務がいかに無謀なことかは想像に難くない。ワールドカップ(W杯)カタール大会のアジア2次予選の突破は間違いない状況にあるが、その先に控える最終予選は過去の歴史が示す通り、極めて厳しい戦いが予想される。
 それでも、田嶋会長は「1年延びたことで兼任できないスケジュールになれば、技術委員会でしっかり考えて決めてもらえればいい。本人の意思も、もちろんある。W杯予選がどうなるかも分からない中で、すぐに人事を議論するのは早いかなという気がする」。
 W杯ロシア大会直前にハリルホジッチ監督を自ら解任している会長が、今回は静観。これには「2人とも辞めてくれ」「日本サッカーの未来はない」などと、ファンからは冷ややかな声が上がった。
 田嶋会長、関塚隆ナショナルチームダイレクターを含めた協会幹部は、これまでのように五輪代表チームの強化とA代表の日程が重なる中で、W杯最終予選を勝ち抜けるほど甘くないということを今一度肝に銘じなくてはならない。そして本気で東京五輪の金メダルを目指すのであれば、強化体制の見直しを最優先に判断すべき局面であることは自明だ。

◇なでしこも深刻

 なでしこジャパンも深刻な状態にあった。3月に米国で開催された国際親善大会のシービリーブス・カップで3戦全敗。初戦でスペインに1-3、続くイングランドには0-1、最終戦では米国に1-3とたたきのめされて終わった。いずれもDF陣の目を疑うような致命的なミスが絡んでの敗戦。
「3試合ともやってはいけないミスからゲームを壊した。今のチームの集中力のなさを感じる」。
 高倉監督は集中力の違いを強調したが、とてもその言葉だけでは片付けられない実力差を見せつけられた。チャンスでの迫力、スピード、精度の違いは明らかで、米国をライバルと呼べたのは、もう過去の話。なでしこが16強で去った去年のW杯フランス大会では、大会連覇した米国と国内リーグのプロ化が進む欧州勢7カ国が8強を占めた。差は縮まるどころか、広がる一方だという危機感が指揮官には本当にあるのか。

 3連敗したなでしこに対する田嶋会長の評価は珍しく厳しいものだった。
「この3試合に関して言えば、残念ながら思うようなサッカーはできていないと言わざるを得ない。(監督)本人もそれは分かっているんじゃないか。残念ながらもろ手挙げて、拍手する試合ではなかったのも事実ではある」。
 取材当時は、まだ東京五輪の延期が決まっていない状況で、「このまま継続していただくにしても、何にしても、まだ時間的な余裕は多少あると思っている」と、解任も選択肢の一つとも取れる発言も田嶋会長にはあった。だが、3月23日に開かれた女子委員会では、高倉体制を支持していくことで一致。翌24日に東京五輪の延期が正式決定したものの、その後、監督交代へ向かう気配は日本協会にはない。

 高倉監督も男子の森保監督と同様に一気にチームの若返りを図り、自身の色を出そうと試みてきたが、そもそもその指導力と采配に対しては疑問を抱く関係者も多い。選手の中には、報道陣の前で監督の采配を堂々と批判する選手がいるのも事実。
「誰一人として金メダルを諦めていない。なでしこのサッカーは精密機械のようなもの。ネジが一つ外れたら、全く機能しなくなると言っても過言でない。今大会はいろんなものがそろわなかった。ただ、場面と部品で見ればやれることと役割は見えたし、一つずつやるべきことを踏まえて階段を上がっていく。最後自分たちが勝つという気持ちでやっていきたい」。
 高倉監督はシービリーブス・カップをこう総括したが、理解に苦しむ弁明の言葉を連ねただけ。過去、男子の岡田武史監督の再登板や西野朗監督の緊急登板があったように、11年W杯でなでしこを世界一に導いた佐々木則夫氏になでしこを託そうという声が上がり始めているのも事実で、なでしこの危機に対する日本協会の対応が問われている。


VictorySportsNews編集部