トップアスリートの11名には、東京オリンピック・パラリンピック出場内定選手が含まれている。
 アグネス・アレクシソン(女子ボクシング)
 アレックス・ケシディス(男子レスリング)
 アントン・ダールベリ(男子セーリング)
 フレドリック・ベリストローム(男子セーリング)
 ジェニー・リスヴェッズ(女子マウンテンバイク・クロスカントリー)
 リネア・ステンシルス(女子カヌー)
 マティアス・ファルク(男子卓球)
 ソフィア・マットソン(女子レスリング)
 アナ=カリン・アールクヴィスト(女子車いす卓球・パラ)
 リナ・ワッツ(女子競泳・パラ)
 トビアス・ジョンソン(男子陸上・走り幅跳び・パラ)

また、レジェンドは、過去にオリンピックで大活躍した2名が選ばれた。
 ヨルゲン・パーソン(元男子卓球代表、男子代表監督に2020年10月就任予定)
 ロッタ・シェリン(元女子サッカー代表)

スウェーデンオリンピック委員会の最高経営責任者(CEO)のピーター・レイネボ氏は、スウェーデン代表チームがユニクロと新たな関係を結べたことを喜んだ。
「東京オリンピックに向け、ユニクロとのパートナーシップを強化し、未来に向けた新しいシナジー(相乗効果)を共に確立していると感じています。われわれの目標は、2021年に少なくとも20,210人の子供たちが新たなスポーツと出合い、さらに(スウェーデン選手が)東京大会でメダルを獲得することです」

これを受けて、ユニクロのグローバルブランドアンバサダーであるプロテニスプレーヤーの錦織圭とプロ車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾は、スウェーデンチームという頼もしい仲間の加入を歓迎した。
「チームスウェーデンが、新たにユニクロファミリーの一員となり、一緒に世界のスポーツを盛り上げていけることを嬉しく思います。来年、東京オリンピックでぜひ会いましょう」(錦織)
「世界のパラスポーツを一緒に盛り上げていけることを楽しみにしています。ユニクロと僕らと一緒に頑張りましょう」(国枝)

ユニクロは、2019年1月より、スウェーデンオリンピック・パラリンピックチームのメインパートナー兼オフィシャル・クロージング・パートナーとなっており、2022年北京冬季オリンピック・パラリンピックを含む4年間、さまざまな競技大会や試合において、代表選手団と大会関係者にユニクロのアイテムを提供していく。

そして、今回選ばれた13名の選定では、株式会社ファーストリテイリング グループ上席執行役員で、ユニクロの2020_2022オリンピック・パラリンピックプロジェクトを担当する柳井康治氏が、スウェーデン選手とじっくり話をして、人間性やキャラクターを重視しながらメンバーを決めていった。日本が好きであったり、日本選手と対戦したことがあったりしたスウェーデン選手も選ばれている。

「われわれユニクロは、ライフウェア(究極の普段着)という服を提供していて、基本的には個人の方々を豊かにする服でありたいと考えています。(スウェーデンの選手とは)1人ひとりと20~30分の面談、まあ、面談といってもカジュアルに話し合いました。13名の中には、老若男女、現役の方もいれば、引退された方もいます。これまでユニクロのアンバサダーは男性ばかりだったんですけど、さまざまな競技から今回男女ほぼ半々になりました。ダイバーシティ(多様性)ということも重視して結成されました」

このように説明してくれた、ユニクロの2020_2022オリンピック・パラリンピックプロジェクト部 部長 兼 株式会社ファーストリテイリング サステナビリティ部 部長である遠藤真廣氏によると、そもそもユニクロが、スウェーデンチームとの関係を築くことになるきっかけは、あるひょんな出来事があったからだという。

「2018年8月、ストックホルムに1号店を出店しました。そこへスウェーデンオリンピック委員会の方が来店され、お店のスタッフに、おたくとオリンピックの契約したいんだけどという話があったんです。これが発端でした。しかもCEOのピーターだったんです。ずっと新しいオフィシャル・クロージング・スポンサーを探していたということでした。われわれがスウェーデンに出店する前から、ユニクロをご存知だったみたいですが、改めて1号店で、商品のクオリティ、イノベーティブな商品などをご覧になって、一緒にできるんじゃないかと思っていただけたようです」

スウェーデンの国民性や古くから築かれてきた日本とスウェーデンの関係性も、ユニクロにとっては判断の好材料となった。
「スウェーデンは素晴らしい国で、特にデジタル、サステナビリティ、ソーシャルの面で、最も先進的な国ではないかと捉えています。また、(1912年)ストックホルムオリンピックに(日本初のオリンピック選手となった)金栗四三(かなくりしそう)さんが(マラソンに)出場したご縁もありました」

さらに、ユニクロが掲げている”クオリティ(高品質)”、”イノベーション(革新性)”、”サステナビリティ(持続可能性)”は、レイネボ氏から多くの共感が得られたようだ。
「どちらも小国で、国力は高くないが、生き残ってきて、それぞれの立場で世界に貢献している。小さい国だからこそ、品質の高いものを作らないと生き残れない。イノベーションがないと生きていけない。これからはサステナビリティ。ピーターは、スウェーデンと似た境遇をすごく日本に感じてくれていたようです。そういった背景がありつつ、ユニクロのライフウェアというコンセプトを相当気に入ってくれたんです」

そして、遠藤氏もスウェーデン人と話していると、日本人とそっくりなところが多いことに気づかされた。企業の海外進出では、日本との習慣や文化の違いが障壁になることが多いが、スウェーデンへの進出は、その障壁を比較的小さなものにできそうだ。
「勤勉で、遅刻はしてこない。あまり意見も言わなくて控えめです。違うのは、休暇の取り方で、半端なくマイペースです(笑)。(白夜になるため)7月はずっとバカンスで、休んでばっかりいるんですよ(笑)。でも、暮らし方の質は、先進国なんだと思います」

2018年8月下旬に、レイネボ氏からのアプローチがあってから、話はとんとん拍子に進んでわずか4カ月でオフィシャル・クロージング・スポンサー契約締結に至ったのだった。

7月22日に行われた「UNIQLO TEAM SWEDEN」発表会より

スウェーデンのブランドH&Mではなく、なぜユニクロなのか

今回の契約を通じて、ユニクロは、スポーツの分野でどういった狙いをもっているのだろうか。遠藤氏は次のように語る。

「今回のコロナ禍でよくわかったんですけど、スポーツは、とても健康的であると同時に、エモーショナルで、エキサイティング。そして、あらゆる人に夢を与える存在だと思います。その中で活躍しているスポーツ選手を応援することで、夢を与えることへのサポートができるのではと考えています。

一方で、スポーツ選手ほど、過酷な生活をしている職業もなくて、特に世界トップレベルの選手は、暑い所も寒い所も世界中を移動しなければならない。24時間の中では、トレーニングをする時間も、休む時間も必要です。そういうアスリートと一緒に、もし服を開発できるのなら、われわれが願っている本当のライフウェアができるんじゃないかと。アクティブ、トレーニング、ちょっとしたフォーマル、部屋に戻ってリラックスできるもの、夜の睡眠、これらを支えるのが、まさにわれわれがやりたいことなのです。彼らと一緒に考えて、アドバイスをもらって服を作れば、いいものができるんじゃないかと思います。今後も、スポーツ選手たちと何か協働していくことは増えるのではないでしょうか」

もともとユニクロは、顧客の生の声や要望に基づいて新製品を開発する“カスタマー・クリエーション”を得意としているので、アスリートのニーズに対して的確に応えていけるのではないだろうか。そこからユニクロの新商品が開発されて、製造販売される可能性もある。

2019年にスウェーデンオリンピック委員会は、オフィシャルウェアをユニクロへ変更したが、それ以前のブランドが、実はH&Mだった。世界的に有名なスウェーデンのブランドであるH&Mに代わって、ユニクロが大役を務めることになり、日本企業としてのプレッシャーがあったのではと推察されたが、ユニクロはあくまでユニクロだった。
「プレッシャーはあります。ただ、そのプレッシャーは、H&Mさんと代わったということではありません。世界トップレベルの選手たちが、競技の場でパフォーマンスを発揮しないといけませんが、服を着ている以上、服が(選手を)サポートしなければなりません。もしも服が理由で負けたらどうしよう、破けたらどうしようかというプレッシャーはものすごくあります。選手が活躍できる完璧な服を作るプレッシャーを、われわれ全員が感じています。競技が終わった時に、『ユニクロありがとう』と言われたいですし、『また次もユニクロの服を着て出たい』と言われることを目標にしています」

新型コロナウイルスのパンデミックによって、東京2020オリンピック&パラリンピックは1年先に延期された。新型コロナウイルスの有効な治療薬やワクチンがなければ、選手の安全が担保されない厳しい状況は続くが、ユニクロにとっても未知なる2021年が待ち受けている。
「特別な年にしたいですね。オリンピックとパラリンピックがあることを祈っていますし、それ以上に、今回発表した選手たちが、いろんな大会で活躍してほしいです。いろいろな活動も始まりますから、われわれにとっては、エポックメイキングな年になるといいですね」

複数の競技に合わせたウェアなどの開発がすでに進行しており、スウェーデン選手に提供していく予定だが、今後の詳細な発表を待ちたい。

「われわれは、スポーツウェアブランドではないので、スポーツマーケットばかりを意識しているわけではありません。スポーツは、多くの国で日常生活に入ってきています。スポーツが、ワンパート オブ ライフになってきている中で、それこそユニクロはライフウェアとしてカバーできる」

コロナ禍が続き、人々が生活様式や働き方の変革を求められるようになる中で、自転車や徒歩で会社へ通勤することが増えて、体を動かすことは案外多くなっている。あるいは、在宅勤務が増えたため、体がなまらないように、散歩を日課にすることもあるだろう。コロナ禍で仕事をしていても、スポーツは日々のルーティーンとして組み込まれているのだ。

withコロナやafterコロナといった新しい時代には、ビジネス、カジュアル、スポーツなどいろいろな用途の垣根を取っ払いながら、様々な状況に柔軟に対応できるユニクロの服への大きな需要が見込まれ、新しいチャンスが生まれて来るかもしれない。

「結果的に気づいたら、(ユニクロが)スポーツマーケットの中でも、ある程度のプレデンス(存在)になっているかもしれないです。ただ、われわれは、ナイキやアディダスとアプローチが違いますので、同じことをしてはいけないと思っています。ユニクロ独自のライフウェアのバリュー(価値)を上げて、使っていただけるような服を作っていきたいです」

ユニクロは、2021年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、スウェーデンオリンピック・パラリンピック委員会との共同声明「TOGETHER FOR THE FUTURE」を発表。2020年内には、新しいプロジェクトとして「DREAM PROJECT by UNIQLO」を立ち上げる。スウェーデン各地の町を巡って、テニスコートやサッカーコーナーが設置されて、スポーツによる交流を深めながら社会貢献活動を行っていく。

「『友情』、『尊重』、『卓越』の価値の創造を目指しながら、このドリームプロジェクトを通じて、スウェーデンの若者や子供たちが好きなスポーツを見つけることを応援し、人々がアクティブで健康的なライフスタイルを過ごせるようになることを願います」(レイネボ氏)

さらに、スウェーデン選手団を応援する公式ウェアの1つである「SWEグラフィックTシャツ」を、7月23日よりスウェーデンのユニクロ店舗とオンラインストア(※スウェーデン国外在住の人は購入できない)にて販売している。
8月28日には、モール・オブ・スカンジナビア店が、スウェーデン2号店としてオープン予定で、オープン記念イベントには、今回選ばれたスウェーデン代表のアスリート何名かが来店して華を添える予定だ。

ユニクロの親会社であるファーストリテイリングは、世界第3位のアパレル製造小売業(2020年5月25日時点)で、ファーストリテイリンググループの中核を担うのがユニクロだ。
今後ユニクロは、スウェーデンのオリンピック・パラリンピック委員会との関係をさらに深めていくことになるが、世界の舞台で挑戦するアスリートへのサポートを通して、人々の生活の豊かさへの一助となるようなライフウェアを作れるよう、絶え間ない追及を続けると共に進化を目指す。一方、スウェーデンチームは、ライフウェアのコンセプトやユニクロの企業姿勢を世界中へ広めていくことに大きく貢献することになるだろう。

そして、さらなるサステナビリティの実現を試みるユニクロは、スウェーデンの良さも吸収しながら、高いクオリティの商品を提供し続ける中で、グローバルブランドとしての確立はもちろん、グローバルな“情報製造小売業”の嚆矢として未来へ向けてステップアップしていくことになりそうだ。


神仁司

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭やクルム伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニスの殿堂の審査員でもある。著書に、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー 。