例年とは異なるスポーツ推薦の「基準」
文部科学省の「平成31年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」によると、2019年度入学者試験では国立大学が16.3%、公立大学では27.9%、そして私立大学では半数以上となる54.2%の学生がAO入試、推薦入試によって入学している。そのなかにスポーツ推薦も含まれている。
これらの入学願書は運動部や文化部の全国大会を終えた8月以降に願書を提出するのが一般的だった。しかし、文部科学省は一般入試組に比べて早く進路が決定することで生じる学力差を問題視。コロナの影響もあり、今年の願書受付は9月15日以降とするよう各大学に通知している。
スポーツ推薦の「基準」は大学によって異なるが、「全国大会8位以内」もしくは、「全国大会出場」というのがひとつの目安になる。例年ならインターハイの結果が進路にダイレクトにつながっていたが、今年はそういうわけにはいかない。大学側は有力選手の確保に力を注いでおり、例年なら「全国大会8位以内」の基準を今年は「同16位以内」に拡大したり、「全国大会出場」を「中止となった全国大会の出場権を獲得した戦績・記録」に修正するなど対応している。
その中で陸上界はどうなっているのか
日本陸連は7月3日、インターハイの中止を受けて、10月下旬に行われるU18日本選手権を代替大会の「全国高校大会2020」として開催すると発表した。従来は18歳以下が参加対象だったが、今回は特例として高校1~3年生の選手が対象になる。しかし、10月の大会ではスポーツ推薦の願書に間に合わないケースが大半だ。
7月1日(~9月6日)からは、各都道府県が事前に指定した競技会を活用して、2020全国高等学校リモート陸上競技選手権大会が開催されている。こちらは、「全国の高校生アスリートへの活動モチベーションの維持と将来的にスポーツを充実した生活の一部と捉える心を育むため」という目的だが、世界陸連(ワールドアスレティックス)の「リザルトスコア」を用いた全国のポイントランキングをつけている。100m、200m、110mハードル、走幅跳びなどは風が記録に大きな影響を及ぼすが、リザルトスコアを用いることで、風の条件を補正したうえで、ランキングをつけることができるのだ。
ただし、長距離種目は気温やレース展開でタイムが大きく変わってくるし、風速計の測定はしていないが、走り高跳びや円盤投げなども風がパフォーマンスに大きくかかわってくる。全国ランキングをつけても、インターハイのように同じ条件で戦うわけではないので、どうしても〝結果〟にバラつきが出てしまう。
ただこのランキングが全国大会の結果に準じたものとして取り扱われることになるだろう。例年通りのインターハイはないが、3年生のスポーツ推薦は〝通常通り〟に落ち着くとみていい。
このままでは選手と大学でミスマッチの可能性も
しかし、高校生アスリートたちの現状を考えると、通常通りとはいえない。なぜなら、インターハイの中止が決まったことで、早期引退した選手もいるからだ。またモチベーションの上がらない日々を過ごした選手も少なくない。さらにコロナの状況は地域差があり、学校によって運動部の活動状況も異なる。早い段階で通常に近いかたちで活動できた学校がある一方で、自宅での個人練習が中心の学校もある。コロナ禍による〝トレーニング格差〟が生じているのだ。
なお世界陸連は地域間の公平性を保つために、来夏に延期した東京五輪の出場権をかけた選考期間を11月30日まで凍結している(東京五輪の参加標準記録にはカウントせず、世界ランキングにも影響しない)。東京五輪は延期となったが、大学入学時期の変更はなく、受験生の準備は変わらない。
多くのレースが中止や延期に追い込まれているなかで、大学側も〝有力選手〟を獲得するのに苦労している。人数を確保するという意味では、大学側の「基準」を下げればカバーできるが、選手を直接見る機会を失っているからだ。そのため、記録に頼らざるをえない。高校指導者との挨拶まわりも難しい状況で、選手の生きた情報を集めるのが困難だ。このままでは選手と大学のミスマッチが起こりかねない。
陸上は記録という物差しがあるだけまだいい。サッカー、バスケットボールなどの球技は、大学側が個々のプレイをチェックするのは難しい。名門校以外に潜む〝金の卵〟が埋もれたままになってしまう恐れがある。様々な格差があるなかで、部活動にプライオリティを置いて汗を流してきた高校3年生。彼らにとって最適な進路が決まることを祈るしかいない。