わずか2試合の出場で登録を抹消され、リハビリに励んでいた小林だが、3軍戦に出場後、8月26日のイースタン・リーグ、ロッテ戦で実戦復帰。

だが、即一軍昇格とはならず、その後もファームで調整を続行。2軍戦で8試合の実戦経験を積むも、未だ出場選手登録はされていない。

2016年から4年連続でセ・リーグNo.1の盗塁阻止率をマーク。直近の侍ジャパン(2019年 第2回 WBSC プレミア12)にも選出されており、NPBを代表するキャッチャーである小林。

本来ならもっと早く一軍からお呼びがかかってもよさそうだが、そうならないのは、ケガで離脱中に上書きされた冒頭の序列にあるのだろう。

■炭谷の加入と大城の台頭

プロ入り3年目でレギュラーポジションをつかみ、2016年は129試合、2017年は138試合、2018年は119試合に出場。

“鉄砲”を超える“バズーカ”級の強肩を武器に、ジャイアンツのホームベースを主戦として守ってきた。

その正捕手の座が揺らぎ始めたのは昨シーズン。

ゴールデングラブ賞2度受賞の炭谷銀仁朗がライオンズからFAで加入。入団2年目の大城卓三も強打に磨きをかけて台頭する。

原監督の第三次政権がスタートした2019年は、炭谷、大城との3捕手併用となり、3年間続けてきた100試合出場がストップ。92試合の出場にとどまった。

それでもエースの菅野智之、チームトップの15勝を挙げた山口俊(現トロント・ブルージェイズ)らの登板時は先発マスクを任され、炭谷、大城の2人を上回る68試合でスタメン起用されていた。

迎えた今シーズン。原監督が開幕前に披露した構想では、打撃に加えて守備面でも成長した大城の後塵を拝し、正捕手剥奪の危機にあった。

だが、オープン戦で3割を超える打率をマークするなど、課題のバッティングが改善。

PCR検査で陽性反応を示して調整が遅れた大城を逆転し、菅野が3年連続6度目のマウンドに登った開幕戦で扇の要を任されていた。

それだけに、骨折のアクシデントがあったとしても、傷が癒え次第、一軍に呼ばれてしかるべきだった。

■ハイレベルな正捕手争い

例年よりも短い120試合制となる今シーズン。既に折り返し地点を過ぎた現在も、ジャイアンツはセ・リーグの首位を快走し続けている。

その主たる要因はリーグトップのチーム防御率を誇るディフェンス面であり、それを支えるキャッチャー陣の評価も高い。

それだけに、開幕時の序列では最上位にいたはずの小林といえども、ケガが治ったので元通り、とはならなかった。

これまで自身が務めていた大エースの女房役には大城が収まり、20歳の快腕・戸郷翔征は炭谷がリード。

さらには、かつて高校ジャパンで岡本和真とともに主軸を担い、2017年ドラフトでは大城より順位が上だった岸田行倫が頭角を現し始めた。

約2か月に及んだ離脱中に序列は書き換えられ、かつての正捕手の前に一軍登録枠という壁ができていた。

阿部慎之助現二軍監督が長らく守ってきたジャイアンツの正捕手の座。

その大事なポジションを引き継いだ小林が、エース菅野ら投手陣からの信頼も厚いキャッチングとリード、そして球界一ともいえる“鬼肩”で守ってきた。

現在、打率3割をマークするなど本格化する“打てる捕手”大城が、経験を積んだリード面でも評価を上げている。

正捕手争いのトップを走る大城のほか序列の上にいるライバルを、小林が残り少ないシーズンで抜き返すことは至難の業。

だが、4年間ジャイアンツの扇の要を担ってきた稀有な才能が、このまま埋もれていいわけがない。

他球団がうらやむ超ハイレベル、いや超ハイパーレベルの“正捕手”争い。

このかつてない競争が決着した先に、超ハイパーな正捕手がジャイアンツに誕生することは間違いない。

それが背番号22になるのか、それ以外の選手なのか、その結末を大いに期待して見守りたい。


※データは9/16現在


越智龍二

1970年、愛媛県生まれ。なぜか編集プロダクションへ就職したことで文字を書き始める。情報誌を中心にあらゆるジャンルの文字を書いて25年を超えた。会ったら緊張で喋れない自分が目に浮かぶが、原監督にインタビューするのが夢。