2017~2018年はツインズ傘下のルーキーリーグ、昨シーズンは同1Aでプレーしていたウレーニャ。そこでは目立った成績を残せていないが、阿部慎之助現2軍監督らが視察した昨秋のトライアウトでその才能を見いだされていた。

今シーズンのイースタン・リーグではサード、ファーストに加え、レフトも守っているが、1Aでは主にセカンドを務めていた21歳。

この内外野どこでも守れる器用さと、阿部2軍監督いわく「飲み込みが早い」という野球センスを武器に、今後は元メジャーリーガーのジェラルド・パーラ外野手らと外国人出場枠を争うことになる。

そのウレーニャを含め、今シーズン、ジャイアンツの育成契約から支配下登録へと昇格したのは全部で5人。

2月末に行われた発表会見で大泣きして喜んだイスラエル・モタ外野手に始まり、ナティーノ・ディプラン投手、沼田翔平投手がシーズン開幕前に昇格。ペナントレースがスタートしたのち、北海道日本ハムを自由契約になり、ジャイアンツと育成契約を結んでいた田中豊樹投手、そしてウレーニャが追加された。

■厳しい支配下への道

そもそも育成選手契約とは、ドラフト会議で育成選手として指名されるパターン(1)のほか、一度は支配下登録されながらケガなどのために戦力外通告を受けて、新たに育成選手として再契約されるパターン(2)、そして自由契約など外国を含む他球団から移籍してきた際に育成契約を結ぶパターン(3)がある。

今シーズンでいうと、モタ、ディプラン、ウレーニャ、田中がパターン(3)、沼田がパターン(1)にあたる。

ドラフト1位やFA選手のように華々しく入団してくるのではなく、契約時点では実力が足りないと判断されているため、最大3年間の育成契約期間のうちに実力を上げなければ、クビになるハードな内容(一度自由契約になったのち、新たに育成契約を結ぶ場合もあり)。

1試合5名までの制限はあるもののファームの試合へは出場可能。しかし多くのファンが見守る一軍の舞台に立つことはできないため、その一軍のフィールドに立つ権利が得られる支配下選手を目指すことになる。

今シーズンは投手13人、野手13人の26人が育成契約を結んでいたジャイアンツ。9月30日をもって2020年シーズンの補強期限が終了したため、残る育成選手が願った夢の一軍切符は今季は叶わなかったことになる。

この育成から支配下への昇格だが、ジャイアンツでは、2019年に坂本工宜投手、堀岡隼人投手、加藤脩平外野手、山下航汰外野手の4人が実現。

2018年には、高木京介投手、サムエル・アダメス投手、クリストファー・クリソストモ・メルセデス投手、ホルヘ・マルティネス内野手、松原聖弥外野手の5人が支配下を勝ち取っている。

そして2017年には、増田大輝内野手のほか、篠原慎平投手、青山誠外野手、田中貴也捕手が昇格。

だが、坂本、アダメス、マルティネス、青山、篠原の5選手はその後に戦力外通告を受けて退団。一度支配下を勝ち取ったとしても、シーズンオフに待つ選手の入れ替えを乗り越え、一軍に定着した選手は多くない。

それに対し、福岡ソフトバンクは、この10年で千賀滉大や甲斐拓也、石川柊太、周東佑京ら、育成契約を経て昇格した中から、多くの選手が1軍に定着。

この実績から、現在は“育成といえばソフトバンク”といわれているが、かつては“育成といえばジャイアンツ”の時代があった。

■育成から常勝チームへ

2005年から開始された育成ドラフトとともにスタートしたプロ野球の育成制度。

2005年の育成ドラフトの指名第1号となった山口鉄也、2006年育成ドラフト3巡目に指名されて支配下登録第1号になった松本哲也が、それぞれ2008年、2009年のセ・リーグ最優秀新人賞を獲得。

山口は通算642試合に登板、ジャイアンツの中継ぎエースとして君臨した。

今シーズン、その2人に次ぐジャイアンツ3人目となる育成からの新人王が期待された山下こそケガに次ぐケガで活躍できずにいるが、育成から昇格した選手の中からメルセデスと増田、松原が、一軍の戦力として定着。

“金で選手を集める”と揶揄された時代もあったが、2016年から実質3度目の3軍制を敷くなど、注力した発掘・育成が実を結びつつある。

セ・リーグ史上最速となる72試合消化時点での優勝マジックを点灯させ、2年連続のリーグ優勝へ突き進むジャイアンツ。

この圧倒的な強さに加え、育成も順調となれば、名将・原監督が率いる新たな常勝チームが誕生することは必定。

このまま、秋の日本シリーズで8年ぶりの日本一を成し遂げた先には、V9を超える黄金時代が待っているかもしれない。



※データは10/1現在


越智龍二

1970年、愛媛県生まれ。なぜか編集プロダクションへ就職したことで文字を書き始める。情報誌を中心にあらゆるジャンルの文字を書いて25年を超えた。会ったら緊張で喋れない自分が目に浮かぶが、原監督にインタビューするのが夢。