大阪府東大阪市の花園ラグビー場に関し、10月1日から指定管理者がサッカーの日本フットボールリーグ(JFL)のFC大阪などでつくる企業連合に移行されたのだ。指定管理の公募には、日本ラグビー協会も他の組織と組んで参加していたが選考で敗退した。〝西の聖地〟と呼ばれる花園ラグビー場を他の競技が運営する事態で、期間は2040年3月末までと長い。花園でのラグビーの試合が減っていくなど、中長期的観点から影響が心配され、同時に日本ラグビー協会の運営能力自体への懸念も表面化した。

▽ゆゆしき事態

 東大阪市が花園ラグビー場を含む花園中央公園エリアの指定管理者を募集を開始したのは昨年11月。ラグビー協会は人材派遣会社などと共同で「ワンチーム花園」として応募した。この他、同市にホームタウンを置くFC大阪などで構成の「東大阪花園活性化マネジメント共同体」が手を上げ、争いは一騎打ちとなった。

 プレゼンテーションといった選定レースの末、東大阪市が選んだのはFC大阪側だった。6月の市議会本会議で可決され、権利の行方が正式決定した。ラグビー協会関係者によると、昨年11月に応募を検討する委員会が立ち上がった後は、一部理事らの間だけで話が進められた。いわば密室政治の状態で、理事会などで進ちょく具合などの報告はなかったという。コンペに敗れた後、ある幹部から「次点になりました」と結果が伝えられただけだった。

 ラグビー界は今後20年、花園の使用について主導権を握れない状態に陥った。協会内からは「二つしか参加していないコンペに負けたんだから、そりゃあ次点だろう。ゆゆしき事態だ」と批判が起き、実際に携わった面々の油断を指摘する声もある。昨年はW杯で日本が史上初の8強に進出する活躍を見せて空前のブームが湧き起こり、注目度が飛躍的にアップ。指定管理権争いで追い風を感じても不思議ではない。それだけに「あぐらをかいていたんじゃないのか」と糾弾する意見もある。FC大阪側の努力を称賛すべきなのとは対照的に、ラグビー界にとっては敗北を意味する。

▽先例

 指定管理者となったFC大阪側はラグビー場のカフェ整備やイベント開催などで利用者増を図り、最終的には年間200万人の来場を目指す計画を示した。ラグビーやサッカーの共存共栄を追求する姿勢だ。同時に、FC大阪は将来的にJリーグ参入を狙っている。現在の所属はJFLだが、強くなってJリーグの2部や1部に昇格する際には、一定の観客席数確保の条件をクリアする必要がある。そうなればメインの第1グラウンドも使用せざるを得ない状況となり、スケジュールの重複などで将来的にサッカー優先になってしまっても仕方のないことだ。

 似たような先例がある。ノエビアスタジアム神戸の管理運営が2018年からJリーグのヴィッセル神戸になった。その後、ラグビー界からは使用できる試合数が減っているとの嘆きが聞こえる。実際にトップリーグの強豪、神戸製鋼はノエビアスタジアムを本拠地とうたっているにもかかわらず、昨シーズンの日程発表時点において、リーグ戦で使うことが承認されたのは1試合だけ。先頃発表された2021年シーズンファーストステージでも1試合のみだった。

▽敬遠

 関係者によると、日程面以外でも共用グラウンドでラグビーが敬遠される理由がある。芝生の傷みが激しいのだ。ラグビーではスクラムやモール、ラックと、1チーム15人の大きな選手たちがスパイクで踏ん張りながら相手陣に攻め込もうとする。必然的に芝生はめくれ上がりやすくなる。近年では、天然芝と人工芝を混ぜ、管理しやすい「ハイブリッド芝」の導入が各地で進んでいるものの、傷みやすいとの印象は根強い。

 高校野球で言うと甲子園、ゴルフだと英国のセント・アンドルーズ…。それぞれのスポーツには「聖地」と呼ばれる特別な場所がある。花園は1929年に日本初のラグビー専用競技場として造られた。冬の全国高校大会の会場としても知られ、大人気を博したテレビドラマ「スクール☆ウォーズ」でも再三登場して世間的にもおなじみだ。19年W杯に向け、72億6千万円もの巨額の費用を投じ、大型ビジョンやナイター試合用の照明などを新設。時代とともに改良が加えられてきた。長い歴史を誇る大きな財産を、意のままに扱うことができなくなったラグビー協会。果たして「聖地」と呼べるのか、という状況に陥るかもしれない。

▽繰り返し

 人気低落への懸念という点で、日本のラグビー界には過去にも苦い記憶がある。2015年W杯イングランド大会で日本は1次リーグで南アフリカを撃破する〝史上最大の番狂わせ〟を成し遂げた。準々決勝には進めなかったものの3勝を挙げる大奮闘。FB五郎丸歩がキックの前に見せる独特のポーズも話題になった。競技への注目度が大幅に高まったものの長続きはしなかった。

 W杯後の同年、トップリーグで出だしからつまずいた。開幕戦にパナソニック―サントリーの黄金カードが組まれ、一般販売されたチケットは約5千枚が完売した。W杯の熱狂そのままに、あふれかえる観客の中で熱戦が繰り広げられ、新時代到来の船出となるはずだった。

 現実は違った。両チームへの販売分で9千人近くの来場を見込んだが約4千人にとどまり、予想を大きく裏切った。日本ラグビー協会の見通しの甘さで東京・秩父宮ラグビー場の観客数は満員の約半数。空席が目立つという寂しい光景に、選手側からも不満が爆発した。その後も協会による斬新な活性策は見当たらず、翌シーズンにはトップリーグの観客数が15年シーズンに比べて約3万人も減少。ブームは一過性に終わった。そこに来て今回の花園。失態の繰り返しの様相を呈している。

▽責任

 ラグビーW杯はオリンピック、サッカーW杯と並ぶ世界三大スポーツとされる。アジア初開催だった昨年大会は45試合の観客動員数が170万4443人に上り、1試合平均で3万7877人を集めた。チケット販売は99・3%に当たる約184万枚を売り上げた。大盛況だった好影響の一環として、国際統括団体ワールドラグビーはこのほど、アジアで2016年からの新規競技参加者が225万人になったと発表した。日本国内ではタックルがなく、ひもを用いる「タグラグビー」を含めた体験者が100万人以上に達したとしている。

 こうしたムーブメントの受け皿を整え、さらに発展につなげていくのは競技団体の大事な責務だ。日本ラグビー協会といえば、昨年4月に当時の森喜朗名誉会長が突然辞任し、道連れにするかのように会長をはじめ高齢者による体制の刷新を急に促すなど、組織としての安定性を欠いている部分がある。同6月に新たに60代の森重隆氏が会長に就き、副会長に50代の清宮克幸氏、専務理事に40代の岩渕健輔氏が就任するなど大幅に若返った。そんな新組織になった途端に、花園というシンボルの管理が他競技に渡った。現役選手たち、そして将来を担う少年少女のためにも、ラグビー協会は責任の所在の明確化などしっかりと経緯を検証し、マネジメント強化へ着手する勇気と覚悟が不可欠だ。


VictorySportsNews編集部