故障に泣く清宮

 清宮のアマチュア時代の活躍については多言を要さないだろう。リトルリーグ時代に世界大会制覇。東京・早実高時代には通算111本のホームランを放ち、甲子園には2度出場。華々しい経歴を引っ提げ、ドラフト会議では野手として史上最多に並ぶ7球団から1位指名を受けた。高校生としても最多という記録的なドラフト指名を経て、抽選で交渉権を得た日本ハムへの入団を決めた。当時184cm、102kgの立派な体格。契約金1億円プラス出来高5千万円、年俸1500万円と破格の扱いで合意した。

 前途洋々と思われたプロ生活は、度重なる故障でつまずいた。1年目、シーズン前の3月に腹膜炎を発症して入院して出ばなをくじかれた。5月にプロ初本塁打を放つなど一定の存在感を披露したものの、53試合の出場で打率2割、7本塁打で300万円アップの1800万円で契約を更改した。2年目も3月にけが。今度は右手首付近を骨折し、骨片を取り除く手術を受けた。ファウルを打った際に痛めたというあっけないもので、出遅れを余儀なくされた。81試合に出場と増えたが、打率2割4厘、7本塁打で200万円増の2千万円でサインした。10月には右肘を手術と高校時代までのたくましさが鳴りを潜めた。

 そして今年は打率1割9分、本塁打は3年連続で7本に終わった。出場試合数が96に増加したこともあってか200万円増の2200万円で更改。「アップするとは思っていなかったので本当にありがたい」と控えめに口にする姿からは、かつて栗山英樹監督が「ベーブ・ルースのよう」と米大リーグのレジェンドを引き合いに形容したオーラは霧散していた。

無事これ名馬

 一方の村上を報じる各メディアはお祭り騒ぎだった。昨年より5500万円アップの1億円でサイン。球団史上最年少の大台到達はもとより、野手登録で高卒4年目以内の1億円達成はプロ野球史上初の偉業となった。イチロー(オリックス)松井(巨人)超えとして、1面に記事を展開したスポーツ紙もあった。

 熊本・九州学院高出身で高校通算52本塁打を打った。当時187cm、95kgと体のサイズでは負けていない。ドラフト会議では清宮の1位指名で抽選が外れた3球団から指名を受けた。契約金8千万円、年俸720万円。打撃を生かすため、高校時代の捕手から内野手に転向した。

 1年目こそ出場6試合で打率0割8分3厘、1本塁打の成績で80万円増の800万円で更改。飛躍を遂げたのは2年目だった。シーズン前には、メジャー経験者の青木宣親外野手に連れられて米ロサンゼルス郊外でトレーニング。全試合に出場して36本塁打、96打点をマークし、オールスターゲームにファン投票で選出。新人王にも輝いた。このときのコメントに成功の礎が隠されている。「成績も自信になったが、143試合けがなく出られたことが一番自信になった」。まさに“無事これ名馬”。年俸も3700万円増と大幅に上がり、4500万円でサインした。清宮の対極をいくように常に試合に出続け、キャリアを積んだ。

 今年は新型コロナウイルス禍もなんのその。短縮されたシーズンの全120試合で4番を務め、打率3割7厘、本塁打と打点はともにセ・リーグ2位で28本塁打、86打点を記録し、出塁率4割2分7厘で最高出塁率のタイトルを獲得した。おまけに11月5日の阪神戦ではプロ野球記録に並ぶ1イニング3盗塁をマーク。自らの長打力にあぐらをかくことなくチームのために得点を目指す姿勢も光る。

球界活性化のために覚醒待望

 入団時の年俸は清宮の方が約2倍多かったが、今では村上の方が約5倍と歴然と差ができた。新型コロナウイルスの影響による各球団の経営面への打撃は小さくない。それでも、好成績を残した選手にはそれに見合った金額が約束され、不成績の場合にはいつもより余計に、厳しい査定を覚悟しなければならない。自由資本主義の究極のような形態と言える。

 2021年には東京五輪が予定されている。村上は今や押しも押されもせぬ主軸候補で本人も出場を希望している。対する清宮はというと、入団前には「自分の夢は世界を代表するというもの」と口にし、高校の先輩に当たる王貞治氏の持つ通算868本塁打のプロ野球記録更新や、米大リーグでのホームラン王を掲げていた。実際は世界の大舞台はおろか、日本のプロでも思うように結果を残せていない。同じ日本ハムの内野手で、先輩の中田翔は清宮の台頭について「今年に関しては眼中にもないという感じだった」と辛口評価。期待の裏返しでもあるが、この言葉に奮発しないようでは今後の見通しは暗い。

 4年目を迎える2021年。村上は“3割、30本、100打点”と最低限の目標を頼もしく挙げた。同世代には他にも、大阪・履正社高から同じ年にドラフト1位でロッテに入った安田尚憲内野手もいる。安田は今季初めて4番を任されるなど、成長ぶりが徐々に結果に表れてきている。3人はいずれも左打ちの長距離打者。この年代の活躍は日本球界の活性化にも直結してくる。あっという間に村上にひっくり返されたあげくに引き離された清宮。けがをしない体づくりをした上で、悔しい思いをしている大器の覚醒が待たれる。


VictorySportsNews編集部