「新型コロナウイルス感染の再拡大で帰省や旅行を控えざるを得ない中、TBSがスポーツ路線を止めて『バナナマンのせっかくグルメ!!』というグルメ系番組に鞍替えしてきたことが業界的に話題になっていました。唯一、格闘技路線を変えなかったフジテレビの動きもある意味注目されていたといえます」

 そう語るのはキー局関係者だ。まずは、その結果がどうだったのか。紅白の時間帯の各番組の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)を見てみたい。

【NHK】
「第71回紅白歌合戦」=34.2%(後7・30~8・55)、40.3%(後9・00~11・45)

【日本テレビ】
「ガキの使い!年越しSP絶対に笑ってはいけない大貧民GoToラスベガス24時」=17.6%(後6・30~9・00)、14.1%(後9・00~深夜0・30)

【テレビ朝日】
「ザワつく!大晦日 一茂良純ちさ子の会」=11.7%(後6・00~7・00)、8.8%(後7・00~9・00)、6.7%(後9・00~11・45)

【TBS】
ボクシング「WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ『井岡一翔×田中恒成』」(後6・00~7・00)=10.3%
「バナナマンのせっかくグルメ!!大晦日に豪華芸能人が超満腹全国縦断食べまくり旅SP」=4.6%(後7・00~11・45)

【テレビ東京】
「第53回年忘れにっぽんの歌」=7.4%(後4・00~10・00)
「孤独のグルメ2020大晦日スペシャル」=4.1%(後10・00~11・30)
「ジルベスターコンサート2020―2021」=2.0%(後11・30~深夜0・45)

【フジテレビ】
「RIZIN.26」=6.0%(後7・00~8・00)、7.3%(後8・00~10・30)、4.1%(後10・30~11・45)


 数字的にも、SNSやメディア報道でも、やはり「ガキ使」の強さ、話題性は際立っており、視聴率は紅白の裏番組として11年連続のトップを維持した。実は、この「ガキ使」の“V11”が始まる前にトップだったのが2009年のTBS「格闘技史上最大の祭典◇Dynamite!!勇気のチカラ」(16・7%)。同年は16.4%だった「ガキ使」が、その後最高19.8%(13年)、最低でも14.3%(18年)と安定した高視聴率をたたき出し、首位を堅持している。

 そもそも、日テレはどこよりも早く大晦日の格闘技路線に見切りをつけ、バラエティーに舵を切った局でもある。1990年代の民放はTBS『日本レコード大賞』、テレビ朝日『大みそかだよ! ドラえもん』、テレビ東京『年忘れにっぽんの歌』がビッグ3で、ここに割って入るようにたちあがったのがアントニオ猪木による総合格闘技イベント「INOKI BOM-BA-YE」だった。01、02年にTBSが中継して民放1位の視聴率を記録すると、03年には「PRIDE」でフジテレビが加わり、「INOKI BOM-BA-YE」の日本テレビ、TBSの「Dynamite!!」と合わせて「三大格闘技決戦」として話題となるなど、「大晦日興行」は最盛期を迎えた。同年はメインに曙VSボブ・サップという“ビッグマッチ”を組んだTBSが勝利し、視聴率で苦戦した日本テレビは早々に格闘技路線から撤退。06年に「ガキ使」の人気シリーズ「笑ってはいけない」が産声を上げることとなった。

 一方でTBSは出場者の負担などから「レコード大賞」の放送日を12月30日に変更し、日本テレビと入れ替わるように「大晦日興行」に参戦。「Dynamite!!」を10年まで継続し、11年に井岡一翔の世界戦を中継したところからボクシングへとシフト。そして、コロナ禍の中で迎えたこの年末についに路線を大きく変更した形だ。

“逆転”へのカギは

 このまま大晦日のスポーツコンテンツは衰退していくのか。唯一格闘技路線を継続したフジテレビの視聴率を見ると、やや苦しい状況が見えてくる。今回7.3%と、前年19年の5.2%から2ポイント超も視聴率を上げたことを受け、1月2日付日刊スポーツは「前年比大幅増」「健闘」「格闘技人気の高まりを反映した」と評価した。ただ、キー局関係者は「順位的にはNHK、日テレ、テレ朝、テレ東に及ばない数字。これを格闘技人気の復活と呼ぶのは早計では」とし「格闘技人気の復活」と手放しで喜べるほど状況は単純ではないことを指摘する。

 ただ、地上波で唯一格闘技を中継し続けていることは“強み”になり得るとも考えられる。バラエティー路線に舵を切った日本テレビが「大晦日=ガキ使」という認知を10数年で広げていったように、年末年始は“風物詩”といえる番組が求められる傾向にある。例えば、今年の元日に放送されたテレビ朝日「芸能人格付けチェック! 2020お正月スペシャル」は第2部(後6・00~9・00)の平均世帯視聴率が過去最高の22.8%を記録。これは昨年12月28日から1月1日の民放全番組でトップの数字だ。同番組の元日放送は08年から14年連続。まさに継続は力。“正月の顔”として定着したことを印象づける結果といえる。

 また、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長で男子バスケットボールB3さいたまブロンコスの代表を務める池田純氏は、19年3月に日本に上陸した格闘技団体「ONE チャンピオンシップ」の日本代表取締役社長・アンディ英之氏とVICTORYで対談した際に「以前、ブームになったK-1やPRIDEの時代は、びっくり箱のような世界観があった。あれを継続するのは大変だと思うんです。いろいろな団体がお金で有力選手を引っ張り合って、どの大会が世界に通じる道で、どれがナンバーワンを決める大会なのかがわかりにくい」と格闘技大会・番組の乱立が一般化を遠ざけ、視聴者場離れを招いたと指摘している。

 逆に言えば、結果的に唯一のスポーツコンテンツとなった「RIZIN」はチャンスを得たともいえる。今回の「RIZIN」ではテレビ露出も増えているキック界の“神童”那須川天心、YouTubeで計240万人以上のチャンネル登録数を誇る海・未来の朝倉兄弟、人気YouTuberのシバターら、格闘技ファンの垣根を越えた新時代のスター選手が参戦し、注目を集めた。6年連続で中継を行い、紅白の裏で唯一のスポーツコンテンツとなったフジテレビの「RIZIN」。ネット配信などとは異なり、あくまで一般化、広い認知が求められるテレビ業界の枠で見れば、継続こそが“逆転”への一つのカギとなるかもしれない。

アジア発、巨額投資マネーで成長を続ける格闘技イベントONEがついに日本初上陸!日本での成功はあるのか?

アジアで人気を急激に拡大しているスポーツイベントが日本にやって来る。2011年にシンガポールで第1回大会が行われ、タイ、ベトナム、ミャンマーなど東南アジアで国民的人気を得ている総合格闘技「ONEチャンピオンシップ」が、3月31日に東京・両国国技館で日本初開催される。

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RIZIN公式サイトより

VictorySportsNews編集部