アスリートのインフルエンサーを紹介する番組を制作した狙いについて、テレビ東京スポーツ局スポーツ情報部副部長の横田栄治氏と、営業局兼スポーツ局スポーツ情報部の横田海斗氏の2人の横田氏に話を聞いた。

 今回の特番は2021年のスポーツ界を盛り上げるため見どころを語り合うというコンセプトからスタートしているが、新型コロナウイルスの流行によって今までのようにスポーツイベントが開催できず、スポーツ自体を見せることが難しくなっているという。また、メディアとしてもアスリートに直接会って取材することが難しくなっている。

「それでもやっぱりスポーツの力ってあるよね。それをどうやって表現しようか」と考えたとき、アスリート自身がいろんなところで情報発信している姿を見かける機会がものすごく増えていることに着目した。そして彼らを表現する言葉を探したところ、“インフルエンサー”というキーワードにたどり着いたという。視聴率争いで他局の後塵を拝しているテレビ東京ならではの新たなチャレンジだ。

 なぜ今、アスリート自身が情報発信を始めているのか。それには二つの要因があるとテレビ東京は考えている。一つ目は手軽さだ。かつてアスリートを露出するメディアはテレビ、新聞、雑誌くらいしかなかった。それが今はツイッターやインスタグラム、TikTokなど自分で情報発信できるプラットフォームが増えている。しかも、その情報発信が画像投稿や動画投稿も含めてスマートフォン1台で完結する。球団や競技団体の広報からの発信や、メディアからのニュース以外でファンが情報を得ることができなかったところから、選手個人で手軽に、ファンに対してニュース(近況)を届けることができるようになっている。

 その手軽さに加え、二つ目が新型コロナウイルスの流行だ。今までのようにスポーツを見せることができない状況になり、でも一方で情報を発信するプラットフォームはある。この機会にファンのために何ができるかあらためて考え、自分たちにしか撮れない映像を世の中にもっと伝えていこうと新たなフェーズに入ったと見ている。

テレビ東京営業局兼スポーツ局スポーツ情報部 横田海斗氏(左)とスポーツ局スポーツ情報部副部長 横田栄治氏(右)

 自ら情報発信するアスリートにはどんな特徴があるのだろうか。この点については、「一流のアスリートは自分のスキルを高めるため常に何か新しいことをやろうとしますよね。今は自己表現の場が増えているので、好奇心旺盛なアスリートが新しいプラットフォームをどんどん取り入れている」と分析している。

 ただ、“最も影響力あるインフルエンサー21人”を揃えると誰もが知っているアスリートばかりになってしまう。そこで今回は、実績や知名度を大きく上回るフォロワー数を集めているアスリートにも注目した。

 プロ野球界のインフルエンサーとして取り上げるのは、スポーツインフルエンサーと言えばまず名前が上がりそうな、北海道日本ハムファイターズの杉谷拳士。杉谷は2008年ドラフト6位で入団し、一軍初出場の2011年以降も規定打席に到達したシーズンは一度もないが、インスタグラムのフォロワー数は球界屈指の52.9万人を誇っている(1月14日現在)。これは、ダルビッシュ有(約47万フォロワー)や前田健太(約49万フォロワー)といった日本を代表するMLBプレイヤーを抑え、1位の数字である。帝京高校野球部出身で、高校の先輩である石橋貴明が出演するテレビ朝日系列の特番「とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」などで見せるユニークなキャラクターで人気を集めているのが要因だ。

 杉谷の2020年シーズンの成績は、88試合に出場して131打数29安打で打率2割2分1厘。今オフは500万円増の年俸3500万円で契約更改している。この金額にインフルエンサーとしての球団への貢献度が加味されているのかどうか定かではないが、年俸に対する注目度は絶大である。今後はアスリートのインフルエンサー化が広報活動の一環として評価される時代になるのかもしれない。

 また、ハンドボールという決してメジャーではないスポーツの選手でありながら、TikTokで150万人を超えるフォロワーを持つ土井レミイ杏利にも注目。土井は父親がフランス人、母親が日本人で、フランス生まれの千葉県育ち。大学まで日本で過ごした後、語学留学を目的にフランスへ渡り、2019年までの6シーズン、フランスで活躍した。現在は日本ハンドボールリーグの大崎電気に所属し、男子日本代表チームのキャプテンも務めている。一方、TikTokでは「レミたん」の愛称で若い世代からの人気を集め、TikTokのCMにも出演している。

 土井がTikTokを始めたのは友達に勧められたのがきっかけ。最初は友達を楽しませるためにショートムービーを投稿していたが、あるときものすごい数のライクがついたことがあり、「TikTokの可能性に気づいて、これはもうハンドボールを広めるために活用しない手はない」と意識が変わった。その意識改革が実を結び、今では街中でTikTokの「レミたん」として声をかけられることもある。「僕のファンだった人がハンドボールのファンになってくれる。いつかはTikTokからファンになってくれた人たちだけで会場をいっぱいに埋められたらなっていう夢があります」と語っている。

 アスリートはプレーで尊敬を集めるからこそ、SNSで違った一面を見せることができる。だからこそ通常のインフルエンサーよりもファンとの距離感が近くなる。一方で、アスリートの存在を知るきっかけとして「テレビで見た」という声はまだ多い。テレビの不特定多数に向けた受動的な情報発信と、アスリートのSNSでの能動的な情報発信が連動する番組にすることで、新しいものが見えてくるかもしれない。

 今の時代は多くの視聴者がテレビを見ながらスマートフォンを持っている。そして気になったことをすぐに調べることができる。「だったらテレビの役割は番組を通じて知らなかったアスリートを知ってもらうことで、テレビで見て興味を持った人がネットで情報を深く探っていく。そこにお互いのすみ分ける部分があるんじゃないか」とテレビ東京は考えている。

 テレビで初めて見たアスリートをスマートフォンで検索し、アスリートのSNSを見て、さらに興味を持つ。そんな流れになればアスリートにとってもテレビにとってもWIN-WINな相乗効果が生まれる。今までになかった切り口のアスリート紹介番組がどんな化学反応を起こすのか楽しみだ。

杉谷拳士選手公式インスタグラムより
保井友秀

著者プロフィール 保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。