開幕戦にちりばめられた「トンガリ」

 開幕戦を終えた池田代表は、報道陣からの質問が一通り終わると、最後にこう語気を強めた。

「チームにしても、経営にしても、気になる“トンガリ”を、クラブ、チームの中でもっともっと持ってもらいたいなという気持ちが強いです」

 トンガリー。池田代表は常々「トゲのない丸いものは、誰にも刺さらない」と口にする。日本には「丸いもの」「カドがない人」を良しとする風潮があるが、確かにエッジ、尖がった部分がなければ何かに刺さることはない。それはクラブ経営、スポーツエンターテインメントビジネスも同じこと。昨年3月に経営権を取得し、多額の債務を解消してプロバスケクラブを再生させようと尽力する池田代表は、この新しい門出に際し、浦和駒場体育館の各所に心に刺さる「トンガリ」を用意した。

 具体的にどのような「トンガリ」が開幕戦にあったのか。会場の敷地に一歩足を踏み入れたところから、それは見えた。「緑」から「サベージレッド(赤)」に一新されたチームカラーに彩られたトラックと、新しいチームロゴやチームスローガン「WILD POWER」が記された“映える”大型看板が来場者をお出迎え。隣には開幕記念で用意された特製Tシャツなどが売られるグッズショップも設けられた。グッズショップでは池田代表自ら店頭に立ち、ファンと交流する場面もあった。会場に足を運んでいたファンからも、「まさか池田さんがショップの前で販売を行ってると思ってなかったので、本当にびっくりした」という声も。

 極めつけは、新クラブマスコットとの交流スペースだ。マスコットといえば着ぐるみが一般的だが、ブロンコス(日本語で「暴れ馬」の意味)は何と普段は地元の乗馬クラブ「クレイン伊奈」に繫養されている本物のポニー(埼玉生まれ、雌)を“指名”。子供たちがなでたり、触ったりできる場を提供した。ポニーは、試合前のセレモニーでコートにも登場。思わぬ仕掛けに、客席は笑顔と温かい拍手に包まれた。名前をファンに公募する計画もあり、池田代表は「バスケットボール好きな地域の子供たちと一緒に成長していってほしい」と期待を寄せる。

クラブマスコットのポニーは子供たちから大人気だ

 会場内に足を踏み入れると、高音質のスピーカーから流れる音に耳が向く。流れるのは、さいたまんぞうの「なぜか埼玉」だったり、チェッカーズの「ガチョウの物語」だったりと、選曲も独特。味方がフリースローを外すと「♪違う違う そうじゃ そうじゃない♪」と歌手、鈴木雅之のシブい歌声が流れるなど、聞きどころ、突っ込みどころが満載で、こちらもSNSを中心に大いに話題となった。試合後選手に話を聞くと、「フリースローを外した時、どうしてもネガティブなことを考えがちだが、あの曲を聞くと気持ちが楽になる」と好評だ。

 池田代表は「音にはこだわりたい」と話していた通り、音響機材を自ら選んで、選曲にも携わったという。機材のクオリティーは「B1でもなかなかない」と関係者を驚かせたほど。どう「非日常空間」を演出するかは、イベントに足を運んでもらう上では重要な要素であり、立ち上がったばかりのB3クラブで予算も限られる中、演出面でも「トンガリ」で確かな爪痕を残した。また、ここに至るまでのクラブ公式YouTubeや公式Twitterなどによる情報の積極的な発信も見逃せない要素となった。

 さらに、試合が入場無料で行われた点も注目すべきポイントだ。まずクラブの認知度を高め、一度試合に足を運んでもらうため、当初はホーム開催の全試合を入場無料にする計画を進めていた。しかし、リーグ側から「慎んでほしい」との要請があり断念。用意していた告知ポスターもお蔵入りとなった。それでも、ただでは転ばないのがこのクラブ。「さいたま市プレゼンツ」の形をとることでリーグ側の承認を取り付け、開幕2試合の無料化を実現した。その結果、収容約1400人の会場で感染拡大防止として50%(約700人)の上限がある中、初日は510人、2日目は551人と7~8割の座席稼働率を達成。一定の成果を上げた。

生まれ変わったクラブ。「勝つ姿を見せることで恩返ししたい」

 ここで、会場を訪れたファンの声もいくつか紹介したい。

「ベイスターズ元社長がいろいろやっていると聞いて、気になって来ました。バスケを見るのは初めてだったけど、楽しかったですね」(さいたま市在住の会社員、40歳、男性)
「何かをやろうという思いは伝わってきた」(深谷市在住の大学生、21歳、女性)
「SNSでは否定的なことを言う人が多いし、自分も緑のブロンコスに親しみを持っていた。ただ、議論が起こること自体が健全なこと」(所沢市在住の会社員、35歳、男性)
「YouTubeを見て興味を持ち、B3の試合に初めて来ました。会場は手作り感満載だけど、ここからどう変わっていくのか楽しみ」(さいたま市在住の大学生、19歳、男性)
「ここ数年、ブロンコスがツイッターのTLにここまで流れてきたことはなかった」(所沢市在住の飲食店勤務、31歳、女性)


 大きく変革しようとしている中では批判的な声も多く上がるもの。ただ、少なくとも実際に来場したファンからは好意的な意見、生まれ変わったクラブを受け入れようとする空気が流れていたのも事実だ。そんな周囲の思いは、池田代表も感じていた。「コロナ禍で緊急事態宣言も出され、各地で成人式もできなくなる中、プロスポーツの力、バスケットボールの力を見せられる機会をもらったことは、すごく幸せなこと。身の引き締まる思いでした」と感謝。「ブロンコスのスタッフにとっても初めての試合であり、まだまだ分からないことも多いが、『YouTube(のクラブ公式チェンネル)を見ています』とか『Twitterをフォローしていますよ』とか、温かい言葉もいただきました。グッズショップに立ってみて、ネットの向こうで見守ってくれているのだなと肌で感じられました」と目を細めた。

 思えばベイスターズ時代も、池田代表は「トンガリ」にこだわっていた。横浜スタジアムを「でっかい居酒屋」に見立て、イニング間のイベントや音楽で楽しませたり、球団オリジナル醸造ビール「ベイスターズエール」や選手寮で愛されている「青星寮カレー」など過去にない飲食を提供したりすることで、「今ベイスターズが面白い」「ハマスタがイケてる」といった空気を生み出した。その結果、野球に興味のなかった人、野球から離れていた層が足を運び、閑古鳥が鳴いていたハマスタは満員に。球界屈指の人気球団という現在の地位を不動のものとした。コロナ禍により開幕戦では実現できなかったものの、ブロンコスでもオリジナルビール「ブロンコスエール」や「ネギ豚巻き」など名物飲食の開発が進んでおり、次なる「トンガリ」のアイデアも控えているようだ。

 一方で、初戦は70-82、翌17日も70-84で敗れ、チームは昨季最下位だった金沢との開幕2試合で勝利を挙げることはできなかった(1月25日時点で0勝4敗)。チームの勝敗とクラブ経営は別物だが、池田代表は「一言、悔しい。プロ野球の社長を辞めて4年ぶりに勝負の世界に戻り、忘れていた感覚を久しぶりに思い出しました。まだまだ課題もありますが、勝つ姿を見せることで恩返ししたいと思っていたので、本当に悔しいですね」と本音を吐露した。さらに「1つ負けただけかもしれないけれど、一度は埼玉の人の心が離れてしまったクラブ。いつ、また地域の人の心が離れてしまうか、そういう怖さがある」と強い危機感を持って経営に臨んでいることも明かした。また、新生ブロンコスの契約第1号選手でもあるスモールフォワード(SF)の泉秀岳は「まず開幕したことに喜びを感じていますし、こういう状況の中で試合を見に来るという選択をしてくれたファンに感謝したい。チームが変わったということを皆さんに知ってもらうにはハードワークすることが何より大事。まずは、そこをしっかりやりたいと思います」と決意を新たにしていた。

 開幕戦には埼玉の地元メディアだけでなく、NHK、各スポーツ紙、バスケットボールライターなども取材に訪れるなど、このクラブが多くの人にB3の枠を超えた可能性を感じさせているのは確かだろう。スポーツによる地域活性化、地方創生のモデルケースになるべく産声を上げた新生さいたまブロンコス。池田代表は「いつも気に掛けてもらえるクラブにしたい」と言葉に力を込めた。

VictorySportsNews編集部

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