このイベントは新型コロナウイルス感染拡大の影響で6年生の最大の楽しみの一つである修学旅行が中止になってしまったことを浜須賀小学校の校長先生から聞いたゴルフ場が、修学旅行に代わる思い出を卒業前に作ってほしいと企画。授業が終わった午後に、ゴルフ体験、フットゴルフ体験、パターゲーム&軽食、記念品制作といったアトラクションを用意して6年生を迎え入れた。

 子どもたちにとってゴルフ場は、学校に隣接しながらも普段は立ち入る機会がなかった施設。広大な土地に芝生が敷き詰められた非日常的な空間に初めて足を踏み入れ、さまざまな体験を楽しんだ。イベントの最後にはエコ風船をみんなで大空に飛ばし、小学校生活を一緒に過ごした仲間とともに印象的な景色を目に焼きつけた。

 日本のほとんどのゴルフ場は、安全面などの配慮でゴルファー以外の人間が外部から侵入できないような造りになっている。しかし、海外のゴルフ場の中にはゴルファー以外でも気軽に見物できる施設もある。「ゴルフの聖地」と呼ばれるスコットランドのセントアンドリュース・オールドコースなどは、コースのすぐ脇で地元の人や観光客がゴルファーのプレーを見守っている。

 ゴルフは今でこそ日本でもポピュラーなスポーツの一つだが、一方では金持ちのスポーツという印象もいまだに残っている。その理由の一つは、ゴルフ場が広大な土地をゴルファーだけが占有する閉鎖的な空間であり、そのことに対する反発心があるような気がする。

 茅ヶ崎ゴルフ倶楽部は茅ヶ崎市の広域避難場所に指定されていることもあり、ゴルフ場特有の閉鎖感を取り払い、避難空間であるコースや進入路を平時でも市民が確認できるよう地域に開かれたゴルフコースを目指しているという。その取り組みの一環として、隣接する浜須賀小学校の卒業記念イベントを企画したわけだ。この他にも同ゴルフ場は愛犬家にコースを開放する「Wan Day」など、さまざまなイベントを実施している。

子どもも楽しめるゴルフ場

 ゴルフ界は今、渋野日向子というスター選手が誕生したことにより、今までゴルフに興味を持たなかった人たちからも目を向けられる存在になっているが、一方で男子プロゴルフは人気が低迷し、苦戦を強いられている。また、ゴルフはコロナ禍でも「三密」にならないスポーツとして注目を集め、若年層を中心に新規ゴルファーが増加しているが、競技人口は明らかに高齢化が進んでおり、これからますますゴルファーが減っていくことが予想されている。そんな状況を打開するためには、同ゴルフ場のようにゴルフをしない人たちにも別用途で開放していくことで、地域の人々がゴルフに対する親近感を覚え、結果的にゴルフ人口増加につながるかもしれない。

 こちらは昨春に実施された取り組みだが、鎌倉パブリックゴルフ場(神奈川県)が3月25日~4月5日の春休み期間に子どもたちに大人気のランニングバイク「ストライダー」でコース内を自由に動き回ることができる「ストライダーエンジョイパーク」をゴルフ場として世界で初めて設置する企画があった。

「ストライダー」とはペダルがない子ども用二輪車で、足で地面を蹴って進むのが特徴。小さい子どもでも直感的に操作でき、三輪車に代わる乗り物として世界25カ国で累計300万台以上の販売実績を誇っている。「ストライダー」に上手に乗れるようになると、補助輪なしで自転車にもすぐに乗れるようになるという子育て世代にとって魔法のような乗り物だ。

 同ゴルフ場は一般営業が終了した後の2番ホールを15時30分から17時30分まで子どもたちに開放。柔らかい芝生の上で転倒しても大きなケガにつながりにくいゴルフ場ならではの特徴を生かし、なだらかな起伏を利用してスピードを出す楽しみを味わってもらった。

ゴルフ場の広い敷地でストライダーを楽しむ子どもたち

 このような試みも、ゴルファーの目線から見ると「芝生が傷むのではないか?」という心配もあるかもしれないが、子どもの体重と「ストライダー」のタイヤの大きさなんて、乗用カートの重さとタイヤの大きさに比べたら大したことないし、子どもの目線から見たら「絶対に楽しい」に決まっている。

 生まれて初めてゴルフ場に足を踏み入れた経験が「ストライダーエンジョイパーク」だった子どもたちは、きっと大人になってもゴルフ場が楽しい場所であることを忘れないだろう。同伴する保護者としてゴルフ場に初めて入る人も、子どもが楽しそうに遊ぶ姿を見てゴルフ場に好感を持つはずだ。

 日本のゴルフ業界は「ゴルフをみんなのスポーツへ」をキャッチフレーズに普及活動を行っているが、このキャッチフレーズと矛盾するような振る舞いが目につくゴルフ場もいまだに数多く存在する。そんな中、茅ヶ崎ゴルフ倶楽部や鎌倉パブリックゴルフ場の取り組みは、本当の意味で「ゴルフをみんなのスポーツへ」に近づけようとする試みであり、追随するゴルフ場が全国に広がっていくことを願う。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。