現役や元日本代表選手も含め、多くの助っ人外国人選手が経験する“給料未払い”

世界中で相次ぐ給料未払い問題は現役、元日本代表クラスの選手も経験しているようだ。
今年5月にセルビア1部リーグの名門パルチザン・ベオグラードに所属していた日本代表FW浅野琢磨が自身のインスタグラムで「度重なる給料の未払いとそれに対する不誠実な対応でクラブからのリスペクトが感じられなくなった」として同クラブを退団していた。
これに対してクラブ側は「根拠のない退団だ」として争う姿勢を見せていた。

これを受けて元日本代表MFで、現在ベトナム1部リーグのサイゴンFCに所属する松井大輔も自身のSNSで「海外ではよくあるよね。給料未払い。僕の時もあった。浅野君の主張は当たり前だけど、所属しているチームメイト、自国の選手には払われて外国人には未払いは良くある話だからそのギャップはあるかもね」とコメントしている。
松井の投稿からも、自国の選手には払われるケースが多く、助っ人としてプレーする外国人選手に対して未払いとなることが多いという。

また、青森山田高校出身でモンゴルやニュージーランド、タイリーグなどでプレーし、2019シーズンにモンゴル1部リーグのFCウランバートルに所属していた大津一貴も、自身のブログで同クラブ所属時代に給料が4ヶ月間分未払いとなっていたことを明かしている。同選手によると、モンゴルリーグの他のクラブでも未払いが発生しており、国内で問題視されていたという。
同選手はモンゴルサッカー協会に給料未払いを訴え、クラブに給与支払いを求める書類を提出。しかし、すぐには支払われずに同国で影響力の高いFacebookで給料未払いを訴え続け、それがモンゴル国内で拡散され続けた結果、ようやく支払われたという。

その他にもインドでプレー経験のある元Jリーガーに話を聞いたところ、「給料未払いの状態が続き、試合でゴールを決めて粘り強く交渉したらようやく払ってくれた」という。このように結果を出すことで支払いの遅れていた給料が払われることがあるようだ。給料の未払いは欧州やアジアだけでなく、サッカー王国のブラジルでも頻繁に起こっているといい、日本のように未払いや遅延が一切ないのが逆に珍しいとまで言われているのが現状だ。

なお、FIFAの定める規定ではクラブ側が2か月以上給料の未支払いがあった場合、選手は書面にてそれを指摘し、そこから一定期間支払いがない場合は契約を解除し、フリーとなることができるようだ。また、FIFAは給料の未払いを続けるクラブに対してリーグ戦やカップ戦などを含む公式戦への出場停止を命じることもできる。

FIFA公式サイトより(https://digitalhub.fifa.com/m/e7a6c0381ba30235/original/g1ohngu7qdbxyo7kc38e-pdf.pdf)

プロサッカー選手の給料形態とは

そもそもプロサッカー選手の給与はどのような形態でどのように支払われているのだろうか。Jリーグの場合、年俸を12ヶ月で割った金額が毎月固定給として支払われ、それに加えて試合に出場することで発生する出場給や勝利することで貰える勝利給、選手によってはゴールやアシストなどの結果を残すことで発生するボーナスもあるとのこと。

基本的には海外リーグも仕組みは似ていて、固定給に加えて勝利給などのボーナスが上乗せされる形となっている。そして、優勝すると全選手にボーナスが支給されることが多い。当然勝利給や優勝ボーナスの金額はクラブによって異なるという。

元日本代表で、今月UAEのアルアインからの退団が発表された塩谷司は、サンフレッチェ広島時代のチームメイトである李忠成のYouTubeチャンネルにて「勝利給の額はUAEもJリーグとあまり変わらない。給料の支払いは数か月遅れることがあり、3ヶ月分まとめて支払われることがあった」と明かした。

なぜ未払いや支払いの遅延が起きるのか?

欧州やアジア、南米など多くの国で問題となっている給料未払いはなぜ起きるのだろうか?そこにはいくつかの原因が考えられる。

・選手を獲得するため支払いに無理がある契約を交わす

クラブが選手を獲得するにはオファーを提示し、金銭面や契約年数など双方合意の上で契約を交わす。当然、実力や実績があり、市場価値の高い選手ほど欲しがるクラブも多くなり、複数のクラブからオファーを受けるケースが発生する。
選手の立場で考えると、高い給料を受けとることに越したことはないため、クラブとしては1度目のオファーで感触が良くない場合は年俸や移籍金を増額して再度オファーすることは少なくない。そして、選手を獲得するため、「後からスポンサーを集めれば支払える、他の選手を他クラブに売却すれば収入を得ることができだろう」といった後から給料を支払うためのお金を集めるという考えで経営されているクラブがあるのも事実だ。
そうなると思うようにスポンサーが集まらない、選手を移籍させることができない、といった状況に陥り、クラブが収入を確保できずに給料未払いに繋がることになる。

・クラブの成績や選手個人の結果次第で未払いが発生

次に考えられるのが、クラブの成績が思わしくない状況や選手個人として期待に応える結果を残せなかったときに未払いとなるケースだ。
クラブの成績がスポンサー獲得やチケット、グッズの売れ行きに繋がるため、成績が良くないことによりクラブの収入を増やすことができなくなることに繋がる場合がある。
その結果、選手に給料を支払えなくなるケースも少なからず発生する。そして、契約した選手が期待通りの結果を残せなかったときには、オーナーなどの経営陣の意向で「活躍していない選手には給料を払わない」というあってはならないケースもあるようだ。

・クラブの経営状況悪化による給料未払い

クラブの経営状況が悪化し、選手に給料を払えなくなるケースも少なくない。
とくに新型コロナウイルスなどの予期せぬ事態でチケット収入が捉える、スポンサー企業の経営悪化による撤退など、様々な要因でクラブの経営が不安定になるケースがある。当然、選手とは事前に提示した条件で契約を交わすため、クラブの収入額に関わらず、契約した選手には給料を支払う義務がある。
しかし、上記のような予期せぬ事態でクラブの収入源が減った場合に、選手の給料を支払えなくことも少なくない。支出はシーズン前にある程度算出できるが、プロサッカービジネスはその性質上、どのくらいの売上を見込めるかが分かりにくい。それが給料の未払いが多発する原因のひとつともいえるだろう。



このようにサッカー界で問題視されている給料未払いには様々な背景がある。新型コロナウイルスの影響で選手が給料の減額の申し出や受け入れをしているクラブもあるが、コロナ渦で給料未払いがこれまで以上に発生することも考えられる。
今後、給料未払い問題はどのような方向に進んでいくのだろうか。どのクラブがどこに予算をかけ、どういった経営方針を打ち出していくのか、ビジネスの視点でも注目が集まっている。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。