多様性と調和を標榜する大会だけに、開会式で着用されたウエアも実にバリエーションに富んでいた。式典であることを意識してフォーマルなスーツに身を包んだ国もあれば、カザフスタンのような伝統的な衣装や、真夏の開催ということで涼しさや快適さを重視したカジュアルなスポーツウエアの国も多かった。また、自国の民族衣装をベースしたウエアや、日本の伝統的な衣装を意識してデザインされたウエアもあった。

 これほど多彩なウエアがそれぞれの国や地域の思いを込めてデザインされていたことをあらためて知り、そのウエアを着て選手たちが無事に開会式を迎えられたことに安堵した。

 選手団の人数も、数人単位の少数精鋭のチームもあれば、数十人単位や数百人単位の大所帯もあった。もちろん、すべての選手が開会式に参加しているわけではないが、世界的な混乱を力強く乗り越えていこうとする参加者の思いが感じられる開会式だった。無観客での開催となったのは残念だったが、その思いは映像を通じて世界中に届いたはずだ。

「アルマーニ」「ラコステ」に「ユニクロ」…有名ブランドが競演

 イタリアのウエアは、エンポリオアルマー二のスポーツラインであるEA7で、日本国旗の日の丸をイタリアンカラーにしたものであるなど、いくつかの国のウエアが印象に残ったが、その中でも筆者がひときわ印象が強かったのが「ユニクロ」のウエアを着用していたスウェーデンだった。

 開会式のウエアは、この日に合わせて発表された「ドライEXポロシャツ」、「イージーアンクルパンツ」、「Uスリップオンスニーカー」の3アイテム。いずれもスウェーデンカラーである黄色と青色を基調にした4色のカラーリングとなっており、クオリティ、イノベーション、サステナビリティの要素を兼ね備えていた。「Uスリップオンスニーカー」は靴の甲部分に日本の伝統的な素材である和紙の繊維を使用するなど、日本開催ならではの工夫も施されていたという。

 開会式のウエアデザインを担当したのは、ユニクロのパリR&Dセンター(リサーチ&デベロップメントセンター)のアーティスティックディレクターを務めるフランスの世界的なファッションデザイナー、クリストフ・ルメール氏。ラコステやエルメスなど世界を代表するブランドのディレクターを歴任した後、2015年からユニクロの商品開発を行っており、洗練されたアイテムの数々が国内外で高い支持を得ている。

 スウェーデン代表の開会式ウエアについて、ルメール氏は次のようにコメントした。

「スウェーデン選手たちのためのウエアのクリエイティブデザインに携わることができ、大変光栄に思います。美しい4色のウエアを着た選手が集まり、1つの力強いチームを築き、活躍することを願っています」(日本語訳)

 日本選手団は白いジャケットと赤いパンツスタイルで開会式の最後に登場。このウエアは紳士服大手の「AOKI」が担当した。「ニッポンを纏う」をコンセプトに、細部に至るまで素材や色柄にこだわり、「東京2020大会の価値の発信」、「歴史と伝統の継承」、「国民との一体感」を表現したという。

 白のジャケットには日本古来の伝統柄で、縁起がよいとされる「工字繋ぎ」を陰影でプリント。赤のボトムスは肌触りがよくてストレッチ性も高い素材を使用し、夏でも快適に着用できるよう配慮されていた。

 シャツは北陸産地のトリコット素材を使用。赤ストライプを配し、素材と色柄の随所に日本らしさを取り入れていた。胸ポケットのスカーフは、縁起がいいとされる「七宝柄」、「うろこ柄」、「縞柄」などの伝統柄を組み合わせたデザインをシルク地にプリントして作製していた。

 スポーツブランドではない日本発のブランドがこうして世界中の人から注目されている点も、また開会式の細かい見どころではあった。

 2024年にパリでオリンピックを開催するフランスは、選手がエリアごとに分かれて赤と白と青のウエアを着用し、チーム全体でフランス国旗に見えるように工夫されたユニークなスタイル。このウエアは自国の伝統的なファッションブランドであり、ワニのロゴマークで知られる「ラコステ」が担当したという。

 2028年にロサンゼルスでオリンピックを開催するアメリカは、ネイビーのブレザーに紺と白のボーダーのシャツを合わせたトラディショナルなデザイン。チームUSAの開会式のウエアは2008年から「ラルフ ローレン」が担当している。

 2032年にブリスベンでオリンピックを開催することが大会直前に決まったオーストラリアは、白のシャツに緑のショートパンツで、スカーフなどに黄色のワンポイントを取り入れたカジュアルなウエア。メルボルン発祥で100年以上の歴史を持つ老舗アパレルブランド「スポーツクラフト」が担当したという。

 オリンピックの開会式は選手たちにとって人生最高の晴れ舞台だが、選手たちのウエアをサポートしている人たちにとっても至福の時間なのだろうと感じた。

 これらのウエアの多くは開会式専用のデザインなので、選手たちはこれから競技ウエアに着替え、最高のパフォーマンスを発揮した後に、今度は表彰式専用のウエアに着替える機会が訪れることを目指していくのだろう。すべての選手が自分の力を思う存分に発揮できる舞台となってほしい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。