2021年夏の東京オリンピックは、観客なき夏の祭典となった。感染対策徹底のため、まさに異例づくし。もちろん取材の場であるミックスゾーンもそうだった。その裏側を紹介する。

 普段からZoomやTeamsなどオンラインを駆使した取材も増える中、オリンピック取材は感染対策への配慮がされた上で、対面での形だった。規模は会場ごとに異なるものの、人数制限がかけられ、「密」を避ける処置が施された。

 ペン記者の場合、ミックスゾーンを出入りするポイントにはボランティアのスタッフが座っていた。戦いを終えた選手の声を集めるべく、ミックスゾーンに入るためには、スタッフから「Press Mixed Zone Pass」と記された紙を受け取る必要がある。この縦4センチ、幅10センチほどの紙が、ミックスゾーンに足を踏み入れる許可書の役割を果たす。逆に言えば、このパスを受け取らなければ、会場にいても選手に自ら質問することができない。中に入っても、自由に動けるわけではない。床には立ち位置が記されており、記者は、そこに立っていなければならない。ソーシャルディスタンスがキープできるようになっている。そして、ミックスゾーンから出る際には、「Press Mixed Zone Pass」を返却する。返却されたパスは、スタッフによって、1回ごとに丁寧に消毒される。

 ミックスゾーンに入れる記者の人数制限の数、やり方は会場によっても異なる。例えば、競泳の舞台となった東京アクアティクスセンターでは、日本メディアに割り与えられたパスは午前、午後のそれぞれ1セッションで、入れるのは8人だけ。内訳は水泳専門紙1枚、日本雑誌協会1枚、通信社と新聞社で6枚だ。先着順ではなく、セッション毎に、くじをひく。長く取材してきた選手が五輪のレースの後にどんな事を話すのか。それを直接取材できるかは、運の要素も絡んでくるのだ。陸上が実施されていた国立競技場は先着順で、日本メディアのパスは約14枚。日本人記者が何十人も集まるような場所でも、入れたのはごく一部に限られた。中に入れなかった記者は、ミックスゾーン外に置かれたマイクの前に集まり、そこにICレコーダーを置いた。質問を投げかけることはできないが、肉声を確認した。

 ミックスゾーンの以前に、会場に入れる人数もコントロールをされていた。今回、報道陣の密集回避の策としてオリンピックでは初の試みも実施されていた。「ブッキングシステム」である。前日の夕方までに、取材を希望する競技会場の申請をし、許可されないと会場に入れないというもの。もしも、前日に申請を忘れてしまって、そのまま会場へ向かっても、取材を断られる可能性がある(会場マネジャーに相談すれば入れる場合が多いが…)。このシステムも想定以上の報道陣が会場に集まるのを防ぐための策だった。

 過去の五輪では記者と記者が重なり合う状態で取材が行われていた。しかし、その東京大会では「密」になっている場所は、見られなかった。選手と記者の距離も2メートル以上は離されていた。日本メディアだけでなく、海外メディアも同様に人数制限の縛りをかけられていた。他にもアプリでは毎日の体温や体調の記入が求められ、それを怠ると午後には組織委員会から連絡が届くようにもなっていた。

 選手の表情を間近で見られない事を少し残念に思った事もあったが、このコロナ禍にあっては取るに足りない事。まずは感染予防が第一になる。このままコロナが下火に向かい、北京冬季オリンピック、3年後のパリオリンピックと取材でも日常が戻ることを願う。


VictorySportsNews編集部