疲労が蓄積した中で見受けられた世界との差

 まずは日本の戦いぶりを振り返りたい。1次リーグA組では南アフリカ、メキシコ、フランスというレベルの高い相手に3連勝し、首位で通過した。特に20歳のMF久保建英(マジョルカ)は3試合連続ゴールとすごみを感じさせるほどの得点力を示した。オーバーエージ(OA)でDF吉田麻也(サンプドリア)、酒井宏樹(浦和レッズ)、MF遠藤航(シュツットガルト)の3人を加えた守備陣も盤石で、「金メダルは夢じゃない」と感じたファンは多いだろう。

 一転、決勝トーナメントに入ると攻撃が勢いを失った。準々決勝はニュージーランド(NZ)の組織的な守備を崩せず、延長戦でも決着はつかずに0-0のままPK戦へ。GK谷晃生(湘南ベルマーレ)が好セーブを披露して4-2で制し、辛くも関門を突破した。NZは5バックでスペースを埋め、遠藤、MF田中碧(デュッセルドルフ)のダブルボランチにもプレスを怠らず、日本対策を徹底してきた印象だった。

 勝てば初の銀メダル以上が確定したはずの準決勝でも日本はスペインのゴールを割れず、0-0で突入した延長戦の終盤、途中出場したMFマルコ・アセンシオ(レアルマドリード)の技ありのシュートに屈し、0-1で敗れた。メキシコとの再戦になった3位決定戦では、ここまで対人プレーで強さを発揮してきた遠藤、田中碧の疲労が顕著で、メキシコに3点を先取される苦しい展開に。日本は後半に途中出場のMF三笘薫(ブライトン)が1点を挙げるのが精いっぱいで、1-3の完敗を喫した。

ターンオーバー制を施行できずに終わった東京五輪

 なぜメダルに手が届かなかったのか。焦点は森保一監督の采配だ。特にメンバー22人のうち、センターバックの町田浩樹(鹿島アントラーズ)が南アフリカ戦に後半40分から途中出場したのみで、同じくセンターバックの瀬古歩夢(セレッソ大阪)もスペイン戦にベンチ入りしながら出場機会は訪れなかった。五輪の登録選手は当初1チーム18人とバックアップメンバー4人の構成で、町田と瀬古は本来バックアップだった。そうした中、新型コロナウイルスの感染拡大に配慮した国際サッカー連盟(FIFA)が大会前に登録選手の枠を急遽18人から22人に実質拡大したことで、試合出場の目が出てきた。この2人を前線やボランチの選手と入れ替えて大会に臨んでいれば主力選手の負担を軽減できたのではないかという批判はもっともだが、森保監督は「メンバー選考の段階で、チームの中でプレーできるだろう、ここで経験値を上げて今後の成長につなげてもらえるだろうという選手を呼ばせてもらっていることに変わりはない」として陣容を替えることはなかった。

 その思惑は結果的に崩れた。町田を例にとれば、南アフリカ戦で守備は概ねそつなくこなし、高さの生きるセットプレーでも可能性を感じさせたが、ビルドアップではミスが目立った。吉田、冨安健洋(ボローニャ)、そして板倉滉(シャルケ)というレギュラークラスとは現時点で力の差が否めず、試合を追うごとに機能していく選手たちに替えて使うことはためらわれたのだろう。森保監督本人は「現時点での優先順位、選手起用を考えた時に、彼ら(町田、瀬古)により長い時間与えてあげることができなかった。OAの選手に来てもらっているし、守備をできるだけ安定させて、より攻撃陣が思い切って攻撃できることを考えてきた中で、判断として使ってあげられなかった」と説明している。

 そして、FW上田綺世(鹿島アントラーズ)が故障で出遅れたことも誤算だった。バックアップメンバーから昇格したFW林大地(シントトロイデン)がワントップの代役を立派に務めたが、大会通じて無得点。この世代のエース格と期待されていたFW小川航基(ジュビロ磐田)や田川亨介(FC東京)が伸び悩み、2列目の久保、MF堂安律(PSVアイントホーフェン)を決定力で凌駕するストライカーはついに現れなかった。スペイン戦では前線でほぼ唯一機能していた久保、堂安を延長戦で下げ、MF三好康児(アントワープ)とFW前田大然(横浜F・マリノス)を投入した判断も是非が分かれるところだが、結局は選手層の薄さという課題に行き当たってしまう。

選手層の薄さが露呈した森保采配

 そもそも、町田、瀬古を開幕前にメンバーから外して攻撃の枚数を増やしたとしても、森保監督は起用せず、主力選手の疲労が軽減されることはなかったと推察される。日本がレギュラー陣を休ませるとすれば、1次リーグ最終戦のフランス戦しかなかった。ただ、フランスに0-2で敗れれば、メキシコ―南アフリカ戦の結果によっては日本がA組の3位に転落して敗退する可能性が残っていた。森保監督は「日本が勝っていくのに、まだまだ『次を見越して』とか、そういう形で試合をできるところではない。もっとしっかり幅を広げられるように準備できなければいけなかったのかもしれないが、世界の中で勝っていくには一試合一試合をフルで戦いながら次に向かって行くということが現実的なことではないのかなと思っている」という。やはり、選手層の底上げが急務だという結論に至る。

 これまで森保監督がターンオーバーに打って出たことがないわけではない。19年のアジアカップでは1次リーグ第3戦のウズベキスタン戦でFW北川航也(ラピッド・ウィーン)を除く先発10人を前の試合から入れ替えた。とはいえ、この時の日本はトルクメニスタン、オマーンに連勝して決勝トーナメント進出を既に確定させていた。東京五輪の町田、瀬古について、森保監督は「グループリーグ2戦で突破が決まっていれば、彼らにもまた出場のチャンスをあげられたかなと思う」と認める。

 今回の森保采配の引き合いに出されるのが、西野朗監督がA代表を率いた18年のW杯ロシア大会だ。1次リーグでコロンビアに勝ち、セネガルと引き分け、迎えたポーランドとの第3戦で、日本はFW大迫勇也(ヴィッセル神戸)、MF長谷部誠(アイントラハトフランクフルト)ら先発6人を一気に入れ替えた。結果は0-1で敗れたが、決勝トーナメントには駒を進めた。レギュラー陣が余力を残して臨んだ決勝トーナメント1回戦のベルギー戦は2-3で敗れたものの、一時2-0とリードする善戦に持ち込んでいる。

東京五輪での教訓をふまえて挑むアジア最終予選

 リスクを冒して番狂わせの確率を高めようとしたのがロシアW杯の西野監督であり、そんな博打は打たずに選手が持てる力を目前の試合にぶつけて堂々と勝ち進もうとしたのが東京五輪の森保監督だった。指導者としての哲学の違いであり、有り体に言えば、好き嫌いの次元の問題と言える。カテゴリーも違えば、舞台も違う。五輪では4強という成績を残したことからすれば、現時点で優劣を論じるべきではない。9月にはW杯カタール大会アジア最終予選が幕を開け、来年11,12月の本大会では初の8強入りというハードルに挑む。そこで東京五輪の教訓が生かされなければ、4位という結果は苦い記憶とともに残りかねない。


大谷津統一

毎日新聞東京本社運動部記者。1980年北海道生まれ。慶應義塾大卒。 プロ野球担当を経て、16年からサッカー、ラグビーを主にカバーしている。 FIFAワールドカップロシア2018は21試合を現地で取材。UEFAチャンピオンズリーグ決勝や 女子W杯の取材経験もある。19年のラグビーW杯日本大会では12試合を担当した。