単年度赤字は34クラブ、債務超過は10クラブに。異例の給料返還も
新型コロナウイルスの影響で2020シーズンのJリーグはJ1、J2の第1節を終えた時点でリーグ戦が中断する事態となった。そして、そこから感染状況は更に悪化し、リーグ戦が再開したのは7月となった。再開後も無観客試合や観客動員数を5,000人に制限して開催するなどの影響で入場料収入やグッズ収入、スポンサー収入等に大きな影響をもたらしている。
そんな中、5月にJリーグは、柏レイソル、湘南ベルマーレ、ジュビロ磐田の3クラブを除く53クラブの経営情報を公開した。その資料によると、2020年度、Jリーグ53クラブ合計で営業収益は998億円となり、前年度から230億円減となっている。中でも入場料収入が2020年度は79億円となっており、前年度から123億円減少、さらにはスポンサー収入が531億円で前年度から57億円減となるなど、大きな減少が目立った。Jリーグ屈指の入場料収入を誇る浦和レッズは6億1,200万円の赤字となり、鹿島アントラーズは9億4,500万円の赤字だという。そして単年度の赤字クラブが34クラブ、債務超過は10クラブとなった。単年度赤字の34クラブのうち、J1は12クラブ、J2、J3がそれぞれ11クラブずつの内訳となった。そして、J1の3クラブを含む以下の10クラブが債務超過となっている。
J1
・ベガルタ仙台
・セレッソ大阪
・サガン鳥栖
J2
・東京ヴェルディ
・ブラウブリッツ秋田
・レノファ山口
・アビスパ福岡
J3
・ガイナーレ鳥取
・長野パルセイロ
・YSCC横浜
Jリーグでは本来、債務超過もしくは3期連続で赤字となった場合、クラブライセンス制度が交付されないルールを設定している。しかし、新型コロナウイルスの影響を考慮し、2021年度末までこのルールを適用しない特例措置を実施。そして、赤字のカウントについては2022年度からカウントをスタートし、債務超過については2024年度末までに解消している必要があるという決定がされた。この猶予期間に赤字や債務超過の各クラブは経営の立て直しが求められるということになる。
また、各クラブが赤字や債務超過で苦しい状況が続く中、選手側から給料返還を申し出るという異例の事態も起きていた。北海道コンサドーレ札幌は2020年4月6日に選手一同より、4月から9月の半年間の報酬の一部の返還の申し出を受けたと、クラブ公式サイトで発表している。公式戦が延期となり、日程が未定となっていた期間にクラブを支援することを全選手合意の上で決定したという。
リーグ全体では経費減少や補助金で一時的に黒字状態に
新型コロナウイルスの影響で収入が減少し、多くのクラブで苦しい経営状況となる中、Jリーグ全体では事業活動の大規模な縮小や停止によって、経常費用は予算の304億5,000万円に対して40億円減少し、264億5,000万円となった。そして、経常収益は当初の予算である291億6,000万円に対し、スポンサーからの追加協賛やスポーツ振興助成金などにより6億4,000万増加し、約298億円となった。経常増減は当初マイナス12億9,000万円となる予算だったのに対してプラス46億5,000万円で33億5,000万円となっている。その結果、リーグ全体の経常収益は2019年度から約26億円の増加となった。この黒字は2020年度の緊急避難的な意味でのコスト削減で一時的なものとなっており、21年以降も継続するコロナ禍の悪影響に備え「クラブ支援」や「コロナ禍により発生する追加経費」、「最低限のリーグ機能の維持」等に充当される見込みだという。
コロナの影響で海外のビッグクラブも収入減が相次ぐ
コロナの影響により、日本だけなく海外のビッグクラブも大幅な収入減となっている。国際的な監査法人デロイトが2021年1月に発表したデータによると、2019-2020シーズンの世界の収入ランキングトップ20クラブの合計は約1兆340億円で前年比12%減となっている。1位のバルセロナも2019-2020シーズンの収入は約899億円で前年と比べ158億円減収となった。そして同クラブは財政難に陥っていると複数のスペイン紙が報じている。各クラブでは主に入場料収入と放映権収入が減少しているようだ。なお、デロイトが発表した収入ランキングの2位はレアル・マドリード、3位はバイエルン・ミュンヘンとなっている。
苦しい経営状況を抜け出すため、クラウドファンディングや新たな試みを行うクラブも
新型コロナウイルスで各クラブ苦しい経営状況が続く中、多くのクラブがクラウドファンディングで資金集めを行っている。浦和はクラブ初のクラウドファンディングを2020年6月20日から同年8月31日まで実施し、選手のサイン入りユニフォームや選手によるオンライン授業などをリターンとして設定。約2ヶ月半の実施期間で7,796人が支援し、1億2,600万円の調達に成功している。ガンバ大阪もクラブ創設30周年記念事業の一環として、同様にクラブ初となるクラウドファンディングを実施し、総額6,500万円以上もの支援が集まった。
その他、鹿島アントラーズも2020年6月16日から7月31日までの1ヶ月半で1億3,000万円を調達。さらに、大分トリニータは2021年4月9日から5月16日までの期間で目標金額5,000万円に対して約9,000万円と大成功を収めている。この他にもJ1、J2、J3の多くのクラブがクラウドファンディングを実施した。クラウドファンディングでの臨時収入はクラブにとっては貴重なものとなるだろう。
また、コロナの影響で各クラブ厳しい状況が続く中、これまでに無かった新たな試みを行うクラブも出てきている。鹿島はリーグ戦が中断していた2020年5月に過去のアーカイブ映像観戦を行うオンラインイベント「鹿ライブ」を開催。このイベントは5月16日のJリーグ公式YouTubeとNHK BS1で配信・放送される試合に合わせ、スポーツエンターテイメントアプリ「Player!」でクラブOBや現所属選手など鹿島に関わる豪華ゲストと一緒に観戦できるというものだ。同イベントでは、「Player!」を用いたJリーグクラブ初の視聴者参加型の投げ銭による応援企画も実施されている。
その他にも、ヴィッセル神戸が昨年7月4日、無観客で行われたサンフレッチェ広島戦でリモート応援システム「Remote Cheerer powered by SoundUD」を試験的に導入した。同システムはヤマハ株式会社が開発したもので、参加者がスマートフォン専用サイトの応援ボタンをタップすると人数に応じてスタジアムに設置されたスピーカーから拍手や声援の音が流れるという仕組みだ。
このようにコロナ禍でもファン・サポーターがJリーグを楽しめるよう、各クラブ様々な施策を行っている。クラブの収益の柱となるチケットやスポンサー、放映権収入はコロナなどの不測の事態が起きた時に減収する可能性がある。リモート応援や会場での声出し応援の禁止など、コロナ禍で応援のスタイルも変化しており、それらに上手く対応しながら収益を生むことが各クラブに求められている現状がある。今後、プロサッカークラブはコロナ禍で収益を生み出すためにどのような取り組みを行うのだろうか。注目していきたい。