取材パスが大幅削減

 2年ぶりに開催されている第103回全国高校野球選手権大会。昨年はコロナ禍で大会初の中止となった。今年は今春の選抜に続き、選手、関係者にPCR検査を行うなど、ガイドラインに沿った感染症対策を徹底した上で、無観客で開催されている。そのため、報道陣の取材方法も大きく変わった。

 まず取材パスが大幅に削減された。47都道府県から49代表が集う夏の甲子園。例年であれば、一般紙は地方の支局から援軍をかき集めて、大がかりな取材班を作る。多くの報道陣が狭い通路に集まり、取材現場は密の見本市のようだった。そのためまず各紙、テレビ局への割り当て人数をこれまでの半数程度まで絞った。球場入りは事前に届け出た記者が名前を名乗り、受け付け済みを示すシールをもらい、入場する。甲子園球場が阪神戦用に購入した大型サーモグラフィーを使用するため、報道陣受付でその都度、検温されることはない。本塁側後方にある通用門だった6号門でなく、三塁側寄りの8号門から入場し、記者席がある4F部分まで階段で上がる。

すべての対面取材が禁止 Zoom取材へ

 様変わりしたのは、取材方式だ。昨年の甲子園交流試合2020では試合後、全選手、監督がスタンド内側の通路部分に移動し、マスクを着用。報道陣と十分な距離を取った上での対面取材が行われていた。感染症対策を優先するため、今春の選抜大会からは一切の対面取材が中止され、すべてZoomによるオンライン取材に変更された。それが今夏も踏襲されている。

 各社に配布されるアカウントは4つ。試合終盤に各社が取材を希望する選手5人の名前を大会本部に提出し、得票数上位5人が2つのチャンネルに分けたZoom取材に応じる。ひとつは監督と最も人気が集中した選手で、もうひとつのチャンネルには2―5位の選手が入れ替わりで登場する。勝利チーム、敗戦チームともに同じ対応となるので、4つのチャンネルが開き、1人約10分の対応になる。囲み取材であれば、取材対象選手を間違えないように、ユニホームの背番号を見て、確認するのだが、画面越しではそれができないので、選手は胸のあたりに背番号を書いた紙をクリップでつけている。途中から入った取材陣が誰か分からないという事態を避けるためだ。

 このZoom取材もなかなか大変である。質問がある記者はコメント欄に社名と名前を書き込み、大会本部が順に当てていくため、1人の記者が続けて質問をするということが難しい。興味深い話が出たときに「それはいつ?」「どうしてそう思ったの?」「キッカケは?」などと丁寧に聞き込み、エピソードと呼ばれる原稿の芯となる話を掘り当てていくのだが、一問に一答でブツ切りされるので、話が広がらない。多くの記者に質問の機会を与えるためなので、仕方ない部分はあるが…。甲子園は駆け出し記者の経験の場でもある。他社のベテラン記者がうまく質問して話を引き出す様子をみて勉強になることもある。Zoom越しではなかなかそういう機会は生まれない。

 高校野球の取材では勝利に貢献し、お立ち台に招かれるいわゆるヒーローだけでなく、目を引く野球以外の経歴を持っていたり、縁の下の力持ち的な控え選手を取り上げることも多い。だが、その取材もお目当ての選手が投票5傑に入らなければ、試合後のコメントをとることはできない。その場合、チームが宿舎に帰った後、野球部長に取材の意図を説明し、応じてもらえるように頼むしかない。対応してもらえたとしても、もちろん対面での取材はできない。ここは記者が地方大会から周辺取材を積み重ね、関係者と信頼関係を築き、しっかりと準備してきたかが、はっきりわかる部分でもある。舞台裏を取材するハードルがコロナ禍でおのずと上がっており、書き手の力量が試されている。この状況下でもZoom越しでは知り得ないネタが詰まった記事を出すメディアは存在する。

東京の会社でも取材できる

 東京五輪2020では組織委が選手、関係者、報道陣にワクチン接種を奨励し、手配。大会期間中、組織委で定期的にPCR検査を準備し、徹底してきた。そのため、距離を取って人数を制限した上で、対面でのミックスゾーン取材が実現した。

 今回の高校野球の場合は、出場選手、関係者のPCR検査費用は大会本部が負担しているが、報道陣までは及ばない。報道各社のワクチン接種状況もすでに職域接種を行っている会社とそうでない会社、住まいのある自治体での接種の進行度にばらつきがある。メディア側の安心安全が担保できないため、オンライン取材になるのは仕方がないところだ。スタンドの保護者を取材する甲子園名物、アルプス取材もスカウト取材も直接はできず、電話取材になる。極端な話、すべてリモートなので甲子園まで行かず、東京の本社や記者の自宅でも取材は可能になる。

ホワイトボードも使用せず、すべてお知らせメールで連絡

 度重なる天候不順で幾度も日程の変更を余儀なくされている今大会。これまでであれば、1Fの喫茶店「蔦」の近くで、選手、関係者が通る、人通りの多いフロアにホワイトボードがあり、そこに発表事項、観客数などが張り出されていたが、そこも昨年から封鎖されている。昨年は報道陣のフロアに掲示板が置かれていて活用されていたが、今夏は使用されず、すべての連絡は「夏の高校野球お知らせメール」という大会本部からのメール配信になった。大会前に各社2つのアドレスを登録し、登録したキャップクラスの記者がリリース内容を、自社の記者に転送する。雨天時の練習時間や取材時間のメドなどのお知らせもある。マスコミ各社もデジタルトランスフォーメーション(DX)化が進んでおり、中堅記者まではスムーズに受け入れている。データを共有フォルダに入れればいい話だが、重鎮系のベテラン記者が不慣れで、コレが難題になる会社もあるらしい。スタメン、公式記録もこれまでであれば、紙で配布されていたが、すべてPDFでメール配信されることになった。

 関西地方では感染者数が日々増加に転じ、甲子園球場がある兵庫県でも20日に緊急事態宣言が出た。大会中に感染者が出た宮崎商、東北学院は出場辞退で不戦敗となった。深まるコロナ禍で緊迫度は増し、度重なる順延で大会日程に余裕がなくなってきた。「いま台風がきたらどうなるのか」と嘆く関係者の声を電話で聞いた。大会を運営する関係者、報道陣にも疲れの色が見えるが、甲子園球場を保有する大会特別協力の阪神電鉄、阪神タイガースと協議の上、ナイターの阪神―中日が組まれている31日以降に決勝がずれ込んでも、日中に甲子園球場で試合をすることが決まった。異常気象による日程問題、サスペンデッド導入の検討、球数問題、そしてコロナ対応…と様々な問題が浮き彫りになった2021年の夏。メディアは甲子園で起こるすべての事象をバックネット裏の記者席で見守り、PC画面越しで取材して伝えていく。

大澤謙一郎

著者プロフィール 大澤謙一郎

サンケイスポーツ文化報道部長(大阪)。1972年、京都市生まれ。アマチュア野球、ダイエー(現ソフトバンク)、阪神担当キャップなどを務め、1999年ダイエー日本一、2002年サッカー日韓W杯、2006年ワールド・ベースボール・クラシック(日本初優勝)、阪神タイガースなどを取材。2019−2021年まで運動部長。2021年10月から文化報道部長。趣味マラソン、フットサル、登山。