「父は周りの友だちからも一目置かれる存在」幼少期の思い出

競輪選手を目指したきっかけは、父という身近な存在が競輪選手だったからです。ですが、小さな頃から自転車が大好きで競輪選手になろうと思っていたわけではありません。
競輪選手だった父は、周りの友だちからも一目置かれる存在でした。プロ野球選手とまではいかないにせよ、プロのスポーツ選手として捉えられており、友だちからはすごいと尊敬されていました。僕もそんな父を誇らしく感じ、鼻高々だったことを覚えています。
そんな父は、僕が小学校に入学する前や小学生低学年の頃には、よく競輪場へ連れていってくれました。自転車に乗れるようになったばかりの僕を、コースで走らせて遊んでくれた記憶があります。父は競輪選手として英才教育をしようと考えていたわけではなく、単なる家族サービスの一環だったようです。そのときは、なかなか見ることも入ることもできない競輪場のコースを走って、傾斜のところはちょっと怖いなあとか、広くて走りやすくて楽しいなあと感じていました。
とはいえ、その後も自転車に夢中になることはなく、野球に熱中するようになっていきました。野球を始めてからも父はよく僕をサポートしてくれました。僕が野球の試合の日で父のレースがない日は、必ずと言っていいほど応援に来てくれました。その他にもビデオを撮ってくれたり、庭にバッティングできる練習場を作ってくれたりしました。一般家庭のように家族旅行に連れていってもらった自慢できるような楽しい思い出はありませんが、空いている時間は家族のために尽くしてくれる父だったように思います。

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「大田泰示は体格も仕上がり方もレベルが違う」夢を諦めた瞬間

そうやって僕は野球尽くしの生活になっていったのですが、決して競輪は遠い存在ではありませんでした。家にいるときに父のレースがあるときは、家族でテレビ観戦していました。ただ、その頃の競輪のイメージは、自転車を速くこげればいいというようにしか思っていませんでした。誰よりも速くこいで一番にゴールする競技というイメージで、体力や脚力に勝る選手が強いと考えていました。実際に選手になった今は、いろいろなことを知って多くのことを学びました。競輪の奥深さも知ることができ、それだけでは勝てないと感じています。
高校生まで野球一筋だった僕は特別に自転車へ興味を示すこともなく、自転車は移動手段のひとつとしか考えていませんでした。どこか出かけるとなったときは基本的に自転車をまたいでいて、生活の一部となった道具という感覚でした。身近に競輪選手がいたからといって、僕自身の自転車に対する感情は周り友だちと大して変わらなかったように思います。家には父が使っていた練習用の自転車などが常にあり、友だちが来たときに一緒に乗ってみてスピードを競って遊んだこともあります。ですが、それは小さな頃に友だち同士で自転車競争をしたような遊びと同じ感覚で、レーサーを意識することはありませんでした。
プロ野球選手を夢見ていた僕ですが、年齢を重ねるにつれ厳しい現実を突きつけられていきます。神奈川県でも強豪と言われる横浜商業で野球に励んでおり、高校最後の夏は、2番センターで出場していました。長距離砲を打てる強打者でもなければ、速い球を投げられる豪腕でもなく、小技を駆使してチームに貢献するタイプの選手でした。古豪ということもあり、県内の強豪校ともよく練習試合をしていました。読売ジャイアンツの原辰徳監督の出身校として有名な東海大相模とも対戦しました。その中には、現在北海道日本ハムファイターズで活躍する大田泰示選手がいました。彼は体格も違うし、仕上がり方も周りと全然違い、こういう選手がプロ野球に入るんだって思いました。そういった才能を目の当たりにする機会が増えると同時に、自分は野球のプロとして通用するレベルではないと確信。甲子園に出られないようなら、高校できっぱりと野球はやめてしまおうと考えるようになりました。
これまで人生を懸けて取り組んできた野球をやめると、自分には何が残り何ができるのだろう。将来の夢を失い茫然自失となった状態でも、決断のときは刻一刻と迫ってきます。それが新たな人生を考える大きなきっかけとなりました。

(郡司プロフィール)
郡司浩平(ぐんじ・こうへい)神奈川99期 S級S班
1990年9月4日生
2009年に日本競輪学校(現:日本競輪選手養成所)へ99回生として入学
2011年1月に川崎競輪場でデビュー(2着・1着・8着)
2013年1月にはS級に初昇級し、同年11月に京都向日町でS級初優勝を達成した。
その後も着実にステージを上げ、2016年1月に和歌山競輪場で記念初優勝、2017年にウィナーズカップ(高松)でG2初優勝。さらに昨年11月に競輪祭(小倉)で念願のG1タイトルを獲得。今年2月にもホームバンクの川崎で開催されたG1全日本選抜競輪で優勝を果たしている。
S級S班として今年は2年目を迎える。


(協力)チャリロト パーフェクタナビ編集部
https://www.chariloto.com/perfectanavi/

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VictorySportsNews編集部