そして、新型コロナウイルスの影響で各クラブ厳しい状況が続く中、スポンサーからの支援はクラブにとってもより一層必要不可欠となっているだろう。Jリーグクラブと企業の関係性においては、スポンサードを受けるクラブ側の立場とスポンサードを行う企業側の立場の両方があり、それぞれどんなメリットがあるのだろうか。

選手の補強に影響も!スポンサードを受けるクラブ側のメリット

現在のJリーグクラブには、川崎フロンターレや浦和レッズのようにいわゆる親会社のあるクラブと、清水エスパルスや大分トリニータのように親会社を持たないクラブが混在している。川崎フロンターレのメインスポンサーは親会社である富士通が務めている。1000社以上の企業がスポンサードしている同クラブのオフィシャルトップパートナーは、富士通に加え、富士通エフサス、富士通Japanの3社が富士通関連となっている。そしてオフィシャルパートナーにも関連会社が名を連ね、クラブの本拠地、等々力陸上競技場に設置されているスポンサー看板の多くが富士通の関連会社となっている。

クラブが企業からスポンサードを受ける最大のメリットは、まとまった金額の収入を得ることができることにある。プロサッカークラブはチケット、スポンサー、放映権、マーチャンダイジングの4つが主な収益となるが、チケットやグッズの売上は毎年売上が変動するため、安定した収益には繋がりにくい。更にチケット収入に関してはスタジアムのキャパシティという限界もある。

しかし、スポンサーに関しては多くが年間での契約となり、シーズン前に決まることも多いため、クラブはまとまった収入を得ることができる。また、経費も営業に関わる費用を少なく抑えることもできるため、利益率も高いのが特徴だ。

現在、J1クラブのユニフォームの胸や背中のスポンサーは1億円~3億円前後となっていることが多いようだ。川崎フロンターレが公開している資料によると、2020シーズンの同クラブの公式戦ユニフォームスポンサーとして、背中にロゴを掲出できる金額は2億5000万円とのこと。川崎の公式戦ユニフォームでは1番安いパンツへのロゴ掲出で8000万円となっている。同シーズンの川崎の公式戦のユニフォームスポンサーの金額を全て合計すると7億円を越えており、ユニフォームスポンサーだけでも非常に多くの収入を得ることができる。

スポンサーの数や金額はクラブが選手を獲得する上でとても重要となり、補強にも大きな影響を及ぼす。実際、某J2クラブのスタッフは1社のスポンサーが決まるかどうかで選手を1人獲得できるかどうか大きく変わってくると言うくらいだ。そして、クラブがスポンサードを受けるメリットは安定した収入が大きいが、その他にも、大企業や数多くの企業がスポンサーについているというイメージアップにもつながる。

さらに、スポンサーと共に様々なイベントを行って連携しながら、クラブを大きくしていき、よりその価値を向上させることができるのもメリットの1つだろう。

気になる費用対効果は?スポンサードする企業側のメリット

一言でスポンサーといっても、金額が億単位や数千万単位のものから数百万円や数十万、数万円のもの、物品などを無償提供するいわゆるサプライヤーの形など様々だ。そしてその目的も露出を増やして認知度を上げることや経営課題の解決に直接的につなげることなど、複数あるだろう。そして何より気になるのが払った金額や提供した物品以上の対価を得ることができるかどうかだ。当然、クラブへのスポンサードは企業にとってビジネスであり、ボランティアのような慈善ではないため、費用対効果は非常に重要になってくる。

クラブの所属カテゴリや知名度によって程度に差はあるが、Jクラブのスポンサーになることで得られるメリットは複数ある。その1つに企業名の露出機会の増加がある。露出の仕方については、ユニフォームや練習着でのロゴ掲出をはじめ、ガンバ大阪のダイヤモンドパートナーを務めるパナソニックのように、ホームスタジアムへの企業名の掲出といったシンプルで分かりやすいものもある。それだけでなく、1試合限定のマッチデースポンサーやイベントの共催など、企業にとってのメリットは様々だ。

金額や形態にもよるが、クラブとスポンサー契約を結ぶことで、多くの場合クラブが公式サイトやSNSでリリースし、契約の締結を発表する。それによってこれまで知られていなかった企業の存在をファン・サポーターや他のスポンサーから認知されるきっかけとなることは期待ができる。それに加え、クラブの公式サイトへのロゴや企業名の掲載もされるケースが大半のため、そこで認知度が上がる可能性もあるだろう。そして、クラブを応援する人が増えれば増えるほど、多くの人に企業の存在を知ってもらえることに繋がる。

そして、露出に加えて期待できるのはイメージアップだ。Jリーグクラブのスポンサーということで企業にも箔がつき、信頼度や好感度が増すことにもつながる可能性がある。更に、Jクラブはホームタウンを設定し、ホームタウンに貢献することが求められる。全てのJリーグクラブは、県名や市区町村の名前がクラブ名に入っており、ホームタウン地域との関係は切っても切り離せない。そして、そこには多くのステークホルダーが存在するため、Jクラブは公共財ともいえる。

そんなクラブの活動をサポートすることで、それが地域の貢献に繋がり、社会貢献にもつながっていく。そのため、会社のCSRとしてJクラブにスポンサードしている企業もあるだろう。その他に、Jクラブのスポンサーになるメリットとしては繋がりを作るきっかけになるということも挙げられる。

例えば、ホームタウン地域の行政などの関係者やスポンサー企業同士の交流だ。多くのクラブではスポンサー企業の関係者を試合に招待したり、交流会や懇親会での企業同士の交流を深めたりしている。そこで企業同士が繋がり、新たなビジネスの生まれるきっかけになる可能性もある。Jクラブ通じて企業が行政や他の企業と繋がりを持つことができる可能性があるのも、スポンサードする1つのメリットと言えるだろう。

コロナ禍ならではのスポンサーの取り組みも

ここまでJクラブをスポンサードするメリットとして露出機会の増加を挙げてきたが、新型コロナウイルスの影響で無観客試合や観客動員数の制限など、入場者数を制限していないときに比べて露出機会の減少は避けらない状況だ。

露出機会の減少は企業にとって、スポンサードする上でマイナス要素となるが、コロナ禍で少しでもスポンサーに還元できるようにクラブも様々な取り組みを行っている。J2のファジアーノ岡山は、2020年にSNSでクラブのマスコットであるファジ丸がスポンサー企業を訪問し、その様子をTwitterに投稿する企画を実施。そして、Instagramではコロナ対策の投稿として「#(ハッシュタグ)新しい生活様式」をつけ、スポンサー企業のロゴと共に投稿するなど、様々な工夫をして発信している。

そして、J1の浦和レッズはリーグが中断していた2020年の4月にテレワークやWEB会議で使用可能なオリジナルのWEB会議背景画像を、一般のファン・サポーターが使用可能な形で無償提供した。これは同クラブが記者会見に使用しているものと同様のデザインで、ファン・サポーターがまるで記者会見をしているかのような雰囲気を味わうことができるというものだ。このように各クラブはコロナ禍において少しでもスポンサーに価値を提供できるよう、様々な工夫を凝らしている。

少額や個人でスポンサーになることができるクラブも

近年増えてきているのが、少額でのミニスポンサーやファン・サポーター個人がクラブのスポンサーになることができる「個人スポンサー」だ。Jクラブのスポンサーになるには金額が高いというイメージを持っている人も少なくないはず。

しかし、最近では1万円~5万円などの少額からスポンサーになることができるクラブも増えてきている。J2の東京ヴェルディも、グリーンパートナーと呼ばれるパートナー制度で1万円から10万円のメニューを設け、金額に応じた特典を受けることができる。中小企業で売上規模の少ない企業やクラブに貢献したいという熱い想いを持ったサポーターにとっては、このような制度があることでクラブをサポートしやすくなることは間違いない。特にJ2やJ3のクラブにとっては、大口のスポンサー集めはハードルが高い場合も多く、スポンサーを集めやすくなることからクラブ側にとってのメリットもあるだろう。

このように、スポンサーに対する考え方も変わってきているようだ。そして、コロナ禍においては単純に企業名を露出させるだけなく、より一層企業の課題解決に直結する形に変わっていくだろう。そうした意味でも、今後は単純な広告のスポンサードではなく、共にクラブと歩み合いながら、お互いの課題を解決していくパートナーシップという形が増えていくだろう。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。