J参入を掲げるクラブには元日本代表やJリーガーも在籍

 Jリーグを目指すクラブは年々増加傾向にあり、現在、同リーグ参入を目指しているクラブは全国で90を超え、その中でも東京や千葉はJリーグを目指すクラブの数が10を超えているという状況だ。そして、元Jリーガーや海外でプロとして活躍していた選手が所属しているクラブも少なくない。

 関東2部リーグ(6部相当)に所属し、葛飾区からJ参入を目指す南葛SCには、元日本代表で鹿島アントラーズやサガン鳥栖でプレーした青木剛や、川崎フロンターレやセレッソ大阪などでプレー経験のある楠神順平などが在籍。同クラブに所属する元Jリーガーは10人を超えている。その他、東海2部リーグに所属し、岐阜県関市からJ参入を目指すFC.Bomboneraには日本代表として2013年に開催されたFIFAコンフェデレーションズカップにも出場したハーフナー・マイクが在籍し、2021年から同クラブでプレーしている。

 このようにJリーグ参入を目指すクラブには実績のある選手達も多く在籍している。そして、プロ経験のない選手達もJリーグのアカデミー出身や全国レベルの強豪高校、あるいは関東や関西の大学リーグでプレーした選手が数多く在籍しており、社会人リーグのレベルは年々上昇している。

Jリーグ参入の壁は高い

 このようにJリーグ参入を目指すクラブは多くあるが、その道のりが非常に険しいものだということは言うまでもない。現在の日本サッカーのピラミッドは地区リーグ→都道府県リーグ→9地域リーグ→JFL→Jリーグとなっている。Jリーグに昇格するには、まずは地区や都道府県リーグといった最も低いカテゴリーのリーグからスタートし、勝ち続ける必要がある。

 Jを目指すクラブにとって最初の壁は、都道府県リーグから地域リーグへの昇格だろう。都道府県リーグから地域リーグに昇格するためには、まず都道府県リーグの1部リーグで優勝や2位、3位などの条件を満たし、各地域リーグ参入決定戦に出場して勝ち進む必要がある。そのため、都道府県リーグから地域リーグに上がれずに足踏みをするクラブも少なくない。

 そして、Jリーグ参入への最大の壁といっても過言ではないのが、地域リーグからJFLへの昇格だ。地域リーグからJFLに昇格するには、各地域リーグの1部リーグを勝ち抜き、JFL参入決定戦である全国地域サッカーチャンピオンズリーグに出場し、優勝または準優勝する必要があるということだ。

 通称「地域CL」と呼ばれるこの大会は、日本一過酷な大会と言っても過言ではない。レギュレーションは年度によって若干異なるが、各地域リーグを勝ち抜いた12チームが出場し、4チーム3グループに分かれて1次ラウンドを戦う。そして各グループ1位の3チームと、各グループ2位のうち成績最上位チームの計4チームが決勝ラウンドに進出し、総当たりでリーグ戦を行う。そして、勝ち残った上位2チームがJFLへの切符を手にすることができる。

 1次ラウンドから決勝ラウンドの間は日程が空くものの、2日連続や3日連続で45分ハーフの試合が行われるため、日程的にも厳しいレギュレーションとなっている。試合は平日にも行われるため、アマチュアとして日中は仕事をしている選手が多く在籍する社会人チームにとっては、参加するだけでも非常にハードな大会となっている。この過酷な大会を勝ち抜いたクラブこそが、ようやく晴れてJFLに昇格することができるのだ。

 しかし、JFLからJ3への昇格は勝ち進むだけでなく、Jリーグが定めるクラブライセンス制度の基準をクリアし、尚且つ順位の条件を満たす必要がある。

 まず、J3に昇格する条件として「Jリーグ百年構想クラブ」として、Jリーグから承認されていることが大前提となる。つまり、この「Jリーグ百年構想クラブ」としてJリーグから承認されるということは、Jリーグのお墨付きを得るということになる。現在、いわきFCやラインメール青森などのJFL所属の7クラブをはじめ、関東1部リーグのVONDS市原や同2部リーグの南葛SCなど、全11クラブが百年構想クラブとして認定されている。このJリーグ百年構想クラブとして認定を受けるには、所定の条件を満たすほか、年間で120万円をJリーグに支払う必要があるという。

 Jリーグに参入するためには、百年構想クラブとして認定された上で、Jリーグクラブライセンス制度と順位要件をクリアする必要がある。クラブライセンス制度には競技基準、施設基準、人事体制、法務基準、財務基準の5つの基準がある。中でもハードルが高いのが施設基準だ。Jリーグのクラブライセンス制度ではJ3では5000人以上、J2は10000人以上、J1は15000人以上が収容できるホームスタジアムを確保していることが条件となっている。そして、照度1500ルクス以上の照明があり、ナイターの試合を開催できることや、記者席やドーピング検査室を設けていることなど、非常に細かい基準が定められている。これら全ての要件を満たすスタジアムを用意することは簡単ではないだろう。運よく、基準を満たした既存のスタジアムをホームスタジアムとして使用できる場合もあるが、そうでない場合はスタジアムを建設する必要がある。

 なお、J3昇格に際してはJFLでのホームゲームでの平均入場者数が2000人を超えている必要があると定められているが、新型コロナウイルスによる入場制限により、一時的にこの制度の適用は停止されている。とはいえJ3への昇格のハードルは高く、決して簡単ではない。

あらゆるビジョンを掲げ、Jリーグ参入を目指す

 90を超えるクラブがJリーグ参入を目指す中で、そのやり方やビジョン、魅力はクラブによって様々だ。関東2部リーグの南葛SCの魅力は、何といっても超人気サッカー漫画「キャプテン翼」をモデルにしたクラブということだろう。同クラブの運営会社である「株式会社南葛SC」はキャプテン翼の作者・高橋陽一氏が代表を務めている。このような他クラブには真似できない唯一の魅力がありながら、同クラブでは選手個人にもスポンサーをつける取り組みでも注目されており、ホームゲーム時にはスポンサー企業などの関係者も含め、1000人前後の観客が詰めかけるという。

 東京都1部リーグに所属するSHIBUYA CITY FCは、渋谷区をホームタウンとしてJリーグ参入を目指している。同クラブは渋谷に関わる人々や企業・組織とコンテンツを共創する新たな都市型クラブとなることをビジョンにしている。エンブレムも渋谷のスクランブル交差点をモチーフにするなど、渋谷を全面的に押し出したマーケティングを行っている。また、同クラブは今年4月にコロナ禍でありながらもリーグ戦の観客は300人近くを記録したという。そして、クラブを運営する株式会社PLAYNEW代表取締役の山内一樹氏のTwitterでは、SHIBUYA CITY FCの売上はすでに5000万円を越えているといった投稿も確認できる。

 さらに、市民リーグ所属ながら、Jリーグのスポンサー企業である明治安田生命保険相互会社とパートナー契約を結んでいるクラブがある。埼玉県川越市からJリーグ参入を目指すCOEDO KAWAGOE F.Cだ。同クラブは2020年9月に設立し、2021年は川越市2部リーグに所属。「フットボールクラブを通じて、川越に夢と感動を創出し続け、100年続くクラブへ」をミッションに掲げて活動している。

 そんなCOEDO KAWAGOE F.Cは、今年8月に明治安田生命保険相互会社川越支社と包括連携協定を締結したことを発表している。同クラブは元リクルートの社員で個人参加フットサルサービスのソーサルを立ち上げた中島涼輔氏が取締役を務めている。クラブ設立時に公開された紹介資料では、「アマチュアリーグから積極的にプロ選手の比率を高め、最速でのJリーグ加盟に向けた事業拡大を推進していく」としている。クラブでは既にスポーツ業界志望者向けのビジネススクール「COEDO SPORTS COLLEGE」や個人参加型フットサルなど、多くの事業を行っている。

 このように下部リーグであっても、それぞれのビジョンを掲げながら活動を続けているクラブがたくさんある。Jリーグ参入へのハードルは高いが、このようなクラブがJリーグに参入することで、将来のJリーグがより盛り上がっていくのではないだろうか。

日本フットボールリーグオフィシャルWebサイト「リーグ構成」ページより引用

辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。