関東第一は、「苦渋の決断」を下さざるを得なかった

 準決勝に進出した4校を対象に行った検査で、選手2人の陽性が発覚。大会のガイドラインでは、「大会中に陽性者が出た場合、そのチームは辞退、または代替出場へ移行することを原則とする」と定められている。正規登録チーム(30人)に代わり予備登録チーム(14人)での出場も可能だったが、同校では検討の末に辞退を選択した。小野貴裕監督は「この2年間、できる限りの対策を講じてきたが、それでも陽性者が出てしまった以上、大会や相手校に迷惑をかけられないと判断した」と苦しい胸の内を語った。

 選手権の醍醐味の一つとも言えるのが、「ジャイアントキリング(大番狂わせ)」。今大会で起こしてきたのが関東第一だった。「新国立」で初めて行われた開幕戦で中津東(大分)を6―0で下すと、その後は超高校級のU―22日本代表DFチェイス・アンリ擁する尚志(福島)、堅守の「赤い壁」を誇る矢板中央(栃木)、Jリーグ内定者4人が君臨する静岡学園(静岡)と次々に強豪を破った。準決勝で再び聖地に戻ることが決まった直後、ピッチに足を踏み入れる直前に、道が断たれることとなった。

「何とかならないんですか?」

 サッカー界を代表するレジェンドで、元日本代表FWの三浦知良までもが声を上げた。日本サッカー協会(以下、日本協会)の田嶋幸三会長に電話して直接尋ねたという。直訴で状況が変わることはなかったが、選手や関係者の心情を思った行動だった。田嶋会長は「カズ選手は一番、サッカーを愛していることは皆さんもご存じの通り。関東第一のことも一番心配し、情報をくれました」と感謝を込めて話した。

 辞退が決まった翌8日の準決勝は、不戦勝で大津(熊本)が勝ち上がった。そして、その2日後に行われた、10日の決勝。青森山田と対戦するキックオフ前の写真撮影で、大津の選手たちは関東第一のタオルを掲げた。「その分も戦う」(大津・MF森田大智主将)と、思いを引き継ぐ意志を込めた。

 関東第一は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令された東京都の高校ということもあり、保護者を含めて感染予防対策を万全にしてきたという。大会側もマスクの着用や消毒、導線の管理など対策を実施。それでも今回のケースを防ぐことはできず、徹底する難しさが露呈した。決勝で4―0の大勝を収めた青森山田の圧巻の王座奪還劇とともに、第100回の大会の歴史に悲しく刻まれる出来事となった。

想定外のプランで挑むアジア最終予選

 そしてその同日に発表されたのが、今年の日本代表の初戦となるはずだったウズベキスタン戦の中止だった。こちらは政府が徹底する水際対策の一環でウズベキスタン代表の入国が認められなかったため、「断念」せざるを得なかった。

 21日に予定されていたウズベキスタン戦は、国内組の新戦力発掘の場にして、大事な調整の場となる予定だった。日本は27日に中国、2月1日にサウジアラビアと、W杯アジア最終予選に挑む。6試合を終えた現在、3位のオーストラリアとわずか勝ち点1差のグループ2位。プレーオフを経ずに冬の本大会に出場するためには、残り4試合で2位を死守することが必須となり、ホームでの2試合の結果が7大会連続のW杯出場を左右すると言っても過言ではない。

 日本協会の反町康治技術委員長は事前の親善試合の重要性を訴え、「ぜひともウズベキスタン戦をやりたい」と熱望していた。ただ、最終予選は公益性と緊急性が考慮され、政府から特例的に各国代表の入国が認められた一方、ウズベキスタン戦は親善試合のため特段の事情とは認められなかった。21日には代替試合として大学生との練習試合が組まれたが、より最終予選に近い実戦形式で仕上げる予定だった準備のプランは崩れた。

 コロナ禍が日本代表にもたらした問題は、ウズベキスタン戦の中止だけではなかった。中国、サウジアラビアとの最終予選は特例的に海外からの入国が認められて開催できることになった一方で、防疫措置はより厳格なものとなった。結果、国内開催にも関わらず、国内組の選手は代表活動後に14日間の隔離措置が義務付けられることとなった。

 この間、選手は所属クラブには戻れない。川崎Fと浦和に所属する選手に至っては、2月12日の「FUJIFILM SUPER CUP 2022」への欠場が余儀なくされる。また、その他のクラブに所属する選手もチーム合流が遅れることで、J1開幕に向けて支障が出る事態となった。

 神戸の三木谷浩史会長は、「日本で行われる代表戦に出た選手は2週間隔離しろと『政府』と『協会』から来た。移動の自由、人権、営業権の侵害だ。海外から来た選手は即練習で、戻って海外で即プレー。頭おかしんじゃないの??」と強く反論。日本協会とJリーグも動いた。日本協会の反町技術委員長は13日、技術委員会後の会見で「Jリーグのクラブにとって死活問題。できることは全てやりたい」と説明。14日間の隔離期間の短縮を政府に求め、日本協会の田嶋会長とJリーグの村井満チェアマンの連名で嘆願する方針を定めた。さらに、16日にはヴィッセル神戸が日本協会に対して上申書を提出したことを発表し、この上申書には神戸の他、日本代表に招集されている選手が所属する浦和、FC東京、川崎F、湘南、清水、広島も連名で提出された。

 結果的に、田嶋会長と村井満チェアマンの連名での嘆願書が提出される前に、政府が隔離期間の短縮を決定。17日に反町技術委員長が、14日間から6日間への変更を発表した。国内組の選手は1日のサウジアラビア戦後、2日から6日間のバブル方式に突入。7日の検査で陰性が確認されば、最短で同日からクラブへの合流が可能となった。心配されていた12日の「FUJIFILM SUPER CUP 2022」の欠場も、J1開幕への影響もなし。反町技術委員長は「政府に最大限の配慮していただいたと理解して感謝している」と話し、クラブ側にも了承を得られたことを明かした。

不安と隣り合わせで迎える新シーズン

 1月7日には他にも、沖縄で感染が拡大していることを受けてC大阪が1月16~21日に予定していたキャンプを中止することが発表されている。12日には、J2・岡山も15日から予定していた沖縄キャンプの中止を発表。引き続き沖縄キャンプを予定している各クラブは、公開から非公開への切り換えなど、刻一刻と変わる状況を見極めた判断が迫られている。

 昨年12月19日、国立競技場では浦和と大分による天皇杯決勝が行われ、5万7785人もの観客が集まった。声出し応援の禁止などコロナ以前の観戦スタイルとは様変わりしながらも、ようやく「日常」の復活が見えた一幕だった。ところが、今年は年開けとともに再びサッカー界にコロナ禍の影が差し始めている。Jリーグの各クラブでも選手やスタッフの感染が相次いで発表されており、シーズン始動時期から予断を許さない状況だ。

 サッカー界で「1・7」に走った激震は、今年の先行きを暗示しているものなのか。それとも、今年こそはこれから明るい日常を取り戻せるのか。W杯、そして101回目の選手権が待つ今年の冬には、サッカーに関わる全ての人々が笑っていられることを願う。


VictorySportsNews編集部