間もなく2月1日のキャンプインで“正月”を迎えるプロ野球界。オミクロン株が猛威を振るう中、再びキャンプの在り方、シーズンの進め方などに焦点が当たっている。コロナ禍の中でのプロ野球開催は、今季で3年目。多くの球団が経営面で苦しい状況を強いられているが、ベイスターズは大手IT企業ディー・エヌ・エー(以下DeNA)の傘下にあるという強みを活かし、新たなビジネスの形をつくろうと、さまざまな取り組みを推進している。

 その一つが「神アプリ」として昨季話題を呼んだ『ベイスターズプライムカメラ powered by au 5G』(ベイプラ)。横浜スタジアムに設置された10台以上のカメラによる多視点観戦アプリで、好きなカメラ位置から試合を見られるという“非日常体験”がファンに刺さった。テレビなどでの自宅観戦時はもちろん、スタンドでも目の前の試合をさまざまな角度から細かく見られるため、現地観戦の補助ツールとしても好評を博しているのだという。

 もう一つが、「NFT」事業だ。NFTとは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称で、偽造できないデジタルデータを指す暗号資産の一種。ベイスターズは昨年11月に、NFT市場に参入。ブロックチェーン技術(取引履歴を暗号技術でつなげる仕組み)によるNFTを活用した新たなコンテンツとして、試合の名場面動画などを“トレーディングカード”のように収集できるデジタルムービーコレクションサービス『PLAYBACK9(プレイバックナイン)』の提供を開始した。

 発行上限数を定め、シリアルナンバーを付与して販売。コピー・複製ができないため、リアルのカード同様に希少性や高い付加価値が保たれる。将来的にはオンライン売買も可能となる予定で、レア度が高い“カード”の価値が高騰するなど、2次流通の盛り上がりも期待されている。「リアルのトレーディングカードの世界観をデジタルで実現するもの」と球団関係者。既に米プロバスケットリーグNBAでは「NBA Top Shot」というサービスでシュートシーンなどを動画NFTとして販売。2次流通を含む総売上が、リリースから1年弱で約760億円を突破するなど急成長している分野でもあり、これに野球界でいち早く目を付けた辺りは、ベイスターズらしい先進的な動きといえる。

野球界にスポーツビジネスの概念を持ち込んだ“パイオニア”として

 2019年に年間動員228万人、座席稼働率98.9%と過去最高を記録するなど、右肩上がりの成長を続けてきたベイスターズ。そのスタートとなったのが、初代球団社長として経営手腕を発揮した池田純氏のもとで13年に提唱された「コミュニティボールパーク化」構想だった。「野球をつまみに楽しめる大きな居酒屋」といったテーマを掲げ、エンターテインメント性を追求。チケット代、グッズ、さらに「BAYSTARS LAGER」などの球団オリジナルクラフトビールやオリジナルから揚げ「ベイカラ」といった飲食の充実を図る、いわば“集客ビジネス”で大きな飛躍を遂げ、本拠地・横浜スタジアムの運営会社取得という最大級の変革も実現した。

 池田社長の退任後も、基本的にはその路線が継承され、スタジアムグルメの拡充や、スタンドの増設・改修工事など、集客前提のビジネスを展開。チームに密着して戦いの舞台裏を公開する映画シリーズなども含めて、これまでの延長線上にあるアイデアを拡大・発展させ、球団は野球界にスポーツビジネスの概念を持ち込んだ“パイオニア”としての地位をより強固なものにしてきた。

 そこに突如現れたのが、新型コロナウイルスという未知の“敵”だった。コロナ禍による入場制限の影響で、20年の年間観客動員は46万7700人と約5分の1まで激減。21年3月期のDeNAの連結決算は、巣ごもり需要の拡大を背景にライブストリーミング事業やゲーム事業などで業績を伸ばし、全体では256億円の最終利益を確保した一方で、絶好調だったスポーツ事業は売上収益128億2100万円(前々期比36.5%減)、セグメント損益35億8900万円の赤字(前年同期12億300万円の黒字)と厳しい状況を強いられた。

 このオフのベイスターズ契約更改では、国内FA権を取得した宮崎と6年12億円プラス出来高、オースティンと3年総額8.5億円の大型契約を結ぶなど大盤振る舞いが目立ったが、その一つの要因には、ある“追い風”もあった。昨年11月の第2四半期決算では、東京五輪開催に伴い本拠地・横浜スタジアムを使えなかったことに対する営業補償として約21億円を計上したことが発表された。セグメント損益は約3億円の赤字となったものの、実質的には大幅な“黒字”に。こうした中で、現状を打ち破るべく進めるのが、冒頭でも触れた“IT戦略”というわけだ。

 当然、それも一朝一夕に収益化が実現するほど簡単なものではない。19年にビジネスパートナーシップを締結したKDDIと連携し、まず20年8月に『バーチャルハマスタ』を実施。仮想空間(VR)につくられた横浜スタジアムにアバターとして入場し、試合を観戦したり、ファン同士で交流したりできる国内初のサービスとしてプロジェクトが立ち上がった。昨年3月の第3弾以降は目立った動きがないが、この延長線上のサービスとして誕生したのが『ベイプラ』だった。

 その『ベイプラ』も昨季ベータ版が無料公開され、ユーザーの意見などをフィードバックして今季以降の有料版への移行を目指している段階。『PLAYBACK9』は、日本でエンターテインメントにおけるNFT事業自体が受け入れられるのか未知数な部分は多い。いずれも、収益化に向けて動き始めたばかりのビジネスであり、屋台骨を支えるまでの規模にまで拡大できるか、ここから手腕が問われることになる。

 昨年11月の第2四半期決算の説明会で、前球団社長でもあるDeNA・岡村信悟社長は「コロナ禍にあっても立ち直ってきた感触を持っている。非常に良い形で、体制の筋肉質化もできた。来シーズン以降、観客の制限がなくなっていけば、以前に実現していたような形でのビジネスも成り立っていくのかなと思います」と前向きに語った。もちろん、プロ野球球団にとって核となるコンテンツはチームそのもの。昨季セ・リーグ最下位に終わったチームの浮上が、経営面でも何よりのカンフル剤になるのは間違いない。一方で“集客”の一本足打法から脱却し、チームと経営の両輪をまわしていくビジネスの新しい形が、今こそ求められている。

画像:「PLAYBACK9」公式サイトより引用

VictorySportsNews編集部