マンチェスター・シティ(イングランド) VS アトレティコ・マドリード(スペイン)

 ビリオネアによるサッカー界進出の先駆けとなった人物といえば、チェルシーのロマン・アブラモビッチ氏。ただ、同氏はロシアによるウクライナ侵攻で立場を危うくしており、イングランドのサッカー界で今最も成功している資産家の一人といえば、マンチェスター・シティのオーナー、シェイク・マンスール・ビン・ザイード・アル・ナヒヤーン氏を挙げる人は多いだろう。

 「ナヒヤーン家」はアラブ首長国連邦(UAE)最大の首長国であるアブダビを統治する王族で、その資産は100兆円ともいわれる。投資会社アブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)として08年に2億1000万ポンド(約336億円)でクラブを買収すると、11年にはイングランド史上最大となる1億9700万ポンド(約320億円)の移籍赤字を記録するなど、オイルマネーを原資にした莫大な資金力を武器に大型補強を次々と実現し、一気にビッグクラブの仲間入りを果たした。同氏が代表を務める「シティ・フットボールグループ」は米MLSニューヨーク・シティ、オーストラリアのメルボルン・シティなど世界各地でクラブを運営。Jリーグ・横浜Fマリノスの株主にも名を連ねている。そのスケールは、破格だ。

 そんなシェイク・マンスール氏がトップを務めるマンチェスターCだが、資金力で実現したタレント集団を常勝軍団に変えたのが、16-17年から指揮を執るジョゼップ・グアルディオラ監督の存在といえる。同シーズン以降、プレミアリーグでは全て3位以上、5年間で3度の優勝を果たす。昨季は欧州CLでも初のファイナルに進出し準優勝。いよいよ欧州王者にあと一歩のところまで迫ってきている。

 昨季はベンフィカからDFルベン・ディアスを移籍金6800万ユーロ(約88億円)で獲得。ディアスは、クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)以来となるポルトガル選手のリーグMVPを受賞した。ユベントスから19年に移籍金6500万ユーロ(約84億5000万円)で獲得したDFジョアン・カンセロ、17年にモナコから移籍金5000万ユーロ(約65億円)で獲得したMFベルナルド・シウバと、強烈なポルトガル・トリオを実現できたのも、その資金力あればこそ。ディアスがハムストリングのけがで欠場濃厚となっている点が懸念材料ではあるが、チームはプレミアリーグでも首位を走っており、悲願の欧州CL初制覇へ、視界に曇りはない。

 一方、アトレティコ・マドリードは経営面で見ると、やや厳しい局面を迎えている。12-13年シーズン以降、国内リーグでは常に3位以上をキープし、昨季は7シーズンぶりに優勝。欧州カップ戦でも17-18年にUEFAヨーロッパリーグ(欧州EL)を制するなど、レアル・マドリード、バルセロナに割って入る3強を形成するまでに存在感を増してきたが、その拡大路線には暗雲が垂れ込めている。昨季はコロナ禍の影響もあり、1億1160万ユーロ(約143億円)もの巨額の赤字を計上。昨年6月には1億8180万ユーロ(約236億円)の増資を実施し、何とか影響を緩和しようと躍起だ。

 Aマドリードの会長を務めるのは映画プロデューサーで実業家のエンリケ・セレソ氏。株式の19%を保有し、51%を前会長ヘスス・ヒルの子息であるミゲル・アンヘル・ヒル・マリンCEOが握っている。ただ、この2人の保有株を移譲した持株会社アトレティコ・ホールディングス(HD)は、前述の増資の際に米投資会社アレス・マネジメントが、アトレティコHDが保有する33.96%を取得。ヒル・マリンCEOが最大株主であることに変わりはないが、アレスから取締役を受け入れるなど、海外資本の注入で状況の打開を図っている。

 そもそもAマドリードは「経営下手」と欧州メディアに形容される面がある。2部降格も経験したヘスス・ヒル前会長時代の巨額の負債はいまだ暗い影を落とす。また、21-22年の選手年俸総額はRマドリード(約380億円)、バルサ(約245億円)に次ぐスペイン3位(約210億円)。チェルシー(約242億円)、リバプール(約213億円)などプレミアのトップランクに比肩するところまで膨れ上がっている点も不安材料だ。デロイトの「フットボール・マネー・リーグ」では2位のRマドリードが約833億円、4位のバルサが約757億円の事業収入があるのに対して、Aマドリードは13位の約433億円と、ほぼ半分。これは明らかに過大投資であり、巨額の赤字を抱えているとなればなおさらといえる。

参考:21-22年の選手年俸総額

 また、15年には中国不動産大手ワンダ・グループの王建林会長が17%の株式を取得して経営参画したこともあったが経営不振で撤退。同株を17年にイスラエルの原油関連企業クァンタム・パシフィック・グループを率いるイダン・オフェル氏が買い取るなど、こちらも紆余曲折ある。

 海外資本による買収で盤石の体制を敷くマンチェスターCと、海外資本注入による拡大路線が行き詰まりの気配を見せるAマドリード。ちなみに、マンチェスターCの選手年俸総額は約232億円で、実はAマドリードと大きな差はない。



『“経営目線”で見る欧州チャンピオンズリーグ 「マンチェスター・シティVSアトレティコ・マドリード」編』・<了>
第3弾へ続く

“経営目線”で見る欧州チャンピオンズリーグ 「ベンフィカ VS リバプール」編

UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)の準々決勝以降の戦いが幕を開ける。8強に進出したクラブは、資産家オーナーやソシオ(クラブ会員)など、いずれも経営面に特色を持つチームとあって、今回は“オーナー目線”“経営目線”でそれぞれのクラブを分析する。第1弾は4月5日(日本時間6日午前4時キックオフ)にファーストレグ、同13日(同14日午前4時キックオフ)にセカンドレグが行われる「ベンフィカ - リバプール」の2クラブを取り上げる。

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VictorySportsNews編集部