20億円興行とも言われるから日本開催の世界タイトルマッチでは桁違いのスケール。バブルの時期に2度実現したマイク・タイソン戦が引き合いに出されるのは、もちろんそういった経費面も理由だが、来日するチャンピオン(ゴロフキン)が掛け値なしの世界的スターであることが大きい。
素晴らしいアンダーカードが実現
さて、この「日本最大規模の興行」には当然サポーティングカードも用意されている。セミファイナルのWBO世界フライ級タイトルマッチ(王者・中谷潤人-挑戦者・山内涼太)、そして“セミセミ”で行われるOPBF東洋太平洋&WBOアジアパシフィック・ライト級タイトルマッチ(王者・吉野修一郎-挑戦者・伊藤雅雪)は、どちらもメインを十分張れるカードである。
イベントの発表会見(3月3日)には主役の村田のほか、タイトルマッチに出場の4選手も登壇したが、「歴史的な舞台」で試合を行うモチベーションをそろって口にしたものだ。優等生的発言ではなく本心からだろう。
今回の中継形態は異例で、日本国内にはアマゾン・プライム・ビデオが、そして日本とカザフスタンなど一部以外の各国にはDAZNがそれぞれ配信することになっている。国内はもとより、ボクシング市場の大きなアメリカやイギリスでも多くのファン、関係者が視聴可能である。ほとんどの目当てはゴロフキン-村田戦であるかもしれないが、メイン以外の好試合に目が留まることは十分あり得る。
考えてみれば、手っ取り早く海外に名前を売るチャンスでもある。しかもこの日サポーティングカードに出る選手たちはいずれも海外志向の強いタイプだから、発奮するのは当然なのである。
強烈なインパクトで世界を魅了する中谷選手
WBOフライ級戦は、無敗のチャンピオン中谷の2度目の防衛戦。早くしてプロの世界王者を志した中谷は三重県の中学を卒業すると単身渡米してボクシングを学ぶなど、高校へは進学せずこの道を突き進んできた。神奈川・相模原のM.Tジムに入門し、2015年4月、17歳でプロデビュー。順調に成長して、21戦全勝で世界チャンピオン獲得の夢をかなえた。
試合前のロサンゼルス合宿を恒例にしてきた中谷は本場リングへの意識も強く、実際、アリゾナ州ツーソンで実現した初防衛戦(昨年9月)も「向こうのファンにインパクトを与えられるような試合をしたい」と宣言して臨んだ。結果は、KO率90%近いプエルトリコ人挑戦者を一蹴して有言実行。現地で「井上尚弥に続く日本のスター候補」という賛辞も贈られたのだ。
現在、1階級上のスーパーフライ級が世界的に盛り上がっており、階級アップが時間の問題とみられる中谷もウズウズしている。勝つのみならず「内容にこだわりたい」と語るのは、ここでしっかりアピールすることが次の大きな試合につながるものと期待しているからだろう。
これは挑戦者の山内にとっても言えることで、評価の高い中谷に挑む一戦はハイリスク・ハイリターンの典型。プロではまだ9戦のキャリア(8勝7KO1敗)ながら、その強打に望みを託す。下馬評不利を自覚して「燃える。勝てば世界がビビるんじゃないですか」と不敵だ。
名だたる強豪がひしめくライト級にチャレンジできる日本人選手は
もうひとつのライト級はアジアの2王座のタイトルマッチだが、“世界への切符”をかけた一戦という意味合いが強い。
世界最高のスキルを持つワシル・ロマチェンコ、WBC王者デビン・ヘイニー、WBA・IBF・WBO王者ジョージ・カンボソスJr、類まれな能力の持ち主ガーボンタ・デービスなどなど、著名選手がひしめくライト級はトップシーンのリングに立つことさえ容易ではない。
王者・吉野は国内の頂上に立ってすでに久しい。14戦(全勝11KO)のプロキャリアは決して多くはないが、6戦目で日本奪取と出世が早く、防衛戦でも数々の挑戦者を寄せ付けずここまできた。アジアの王座も確保して残るは世界進出。海外の世界ランカーを招いて王座への道筋をつけるのがこれまでだったが、コロナ禍の折それも難しかった。海外関係者も観るに違いないビッグイベントの前座で、相手が名前のある伊藤とくれば願ってもないシチュエーションである。
伊藤は今回挑戦者の立場だが、1階級下のスーパーフェザー級の元WBO世界チャンピオン。2018年にタイトルを奪ったのも、翌年手放したのもアメリカのリングだった。現地のプロモーターと契約も結び、その意味では吉野よりも世界に近いのである。こちらも、ライト級に上げて、再度本場で輝きたい願望が強い。
日本で行われる試合でありながら海外へも自らの拳で直接的なアピールができる。4月9日のさいたまスーパーアリーナは世界へとつながっている―その気になった選手たちの好ファイトに期待しよう。