“事件”が起きたのは、2回裏2アウト1塁、マウンドにいたマリーンズの先発、佐々木朗希投手が、この日の34球目を投じた直後。ノーボール2ストライクから、右打者の外角低めいっぱいに決まったかと思われた158㎞/hのストレートがボールと判定された、その後だった。

 スタートを切っていた1塁ランナーの2塁盗塁がセーフとなったのを見届けた佐々木は、踵を返したその足で、苦笑いを浮かべながらホーム方向へ向かって数歩前進。この行為に対し、白井一行球審がブチギレた。

 マスクを外して憤怒の形相で佐々木を見据えると、何か言葉を発しながらマウンドに向かって詰め寄った白井球審。口の動きから判断すると、「何だ? どうした? どうした?」と言いながら佐々木を威嚇したのだ。

 ただならぬ気配を察したマリーンズの松川虎生捕手が、佐々木を制したうえで白井球審との間に入るが、怒りが収まらない球審は、松川に対しても「お前何だ?」(口の動きから推測)と攻撃。あくまで冷静だった18歳捕手の神対応もあり、これ以上問題が大きくなることはなかったが、アンパイヤが試合を中断させて、選手に詰め寄るという“前代未聞の事件”に、ネット上は球界OBを巻き込んで議論が展開された。

 この一件、いちプロ野球ファンの立場からすると、とにかく残念で仕方ない。長く続くコロナ禍の影響もあってか、入場制限が解除された今シーズンも空席が目立っているプロ野球。人気回復への起爆剤となりえる待望のスーパースター・佐々木朗希という100年に一人の才能が、こんな話題で取り上げられるのが悲しくなる。

 この試合の前まで、28年ぶりの完全試合達成、前人未到の2試合連続完全試合未遂の8回降板と、まさにアンビリーバブルな投球で、世間を震撼させた20歳。この試合でも、どこまで完全投球を続けるのかと、野球ファンのみならず普段は野球を観ない層にも注目を集めていたはずだ。

 実際、ジャイアンツ戦以外は日本シリーズを除いて日本のプロ野球をほとんど観ない筆者も、遅ればせながら、Yahoo!プレミアムの会員登録を済ませ、リアルタイムで「ベースボールLIVE」でこの一戦を視聴。当日は佐々木が先頭打者への初球をあっさり打たれて、どっちらけとなったけれど……。

現役選手や監督、球界OBらも次々コメント

 あの日、佐々木の取ったアクションに対しては、公認野球規則8.02 審判員の裁定の原注(「ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり、監督またはコーチがベンチまたはコーチスボックスを離れることは許されない。もし、宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる」)にある通り、あの行為が異議を唱えるためではなかったとしても、白井球審がそう判断したのだとすれば、警告の対象になり、何らかの注意が与えられるのは当然。ただ、北海道日本ハムファイターズのBIGBOSS監督がコメントしたように、「あとでイニングの間に言ってあげるのがベスト」だったんじゃないかとは思う。

 現役メジャーリーガーのダルビッシュ有投手が自身のSNSで発信したのをはじめ、野球解説者の槙原寛己氏、落合博満氏らも次々にコメントを出したこの騒動。一般の野球ファンらが投稿するSNSでは白井球審弾圧派が大多数なのに対し、球審擁護派のダルビッシュ投手らメジャーリーグ経験者、球審も悪いが佐々木投手にとってはいい教訓という論調が多い球界OBという構図だった。

「球審が取るべき態度ではない」
「アンパイヤはもっと冷静になってほしい」
「ストライク、ボールの判定に文句を言ってはダメ」
「審判を味方に付けないと損をする」
「球審も人間だから大目に見てあげてほしい」
「AI球審を早く導入するべき」…。

 極論、冒頭にも挙げたネット上を騒がせるこれらのコメントは、ほぼどれもが正解なんだと思う。白井球審はあの場では態度に出さず、冷静になってイニング間などに注意すればよかったし、佐々木も文句は言わずともホームベース方向へ歩かず、今後も考えて笑顔でやりすごせばよかった。でも実際起ってしまったことに対しあまり言い過ぎず、本人が反省して次に生かせればそれでいいというのも正論では? 

 ただ、最後の「AI球審を早く導入するべき」だけは、個人的に大反対。プロ野球ファンは誰もが、「え~? いまのがボール?」「いやいや、ストライクでしょ!」と、アンパイヤのコールに一喜一憂し、応援するチームにひいき目で突っ込みを入れているはず。これがAI球審になると、ストライク、ボールの判定にグゥの音も出なくなる。もちろん、正しいジャッジだから問題はないけれど、長年自宅で、球場で、居酒屋のテレビの前で、一人ビールを飲みながら、友人らとあーだこーだ言いながらプロ野球を観戦してきたオールドファンとしては、ひと言言わせてほしい。

 100%間違えることがないパーフェクトなAI球審になると、際どいけれどストライク、半個分外れてボールなど、ひいきのチームに不利な結果になった際の悔しさのやり場がなくなってしまうし、友人と文句をまき散らすこともなくなってしまう。それはプロ野球から楽しみの一部をなくすことに繋がる。酔っ払いに悪態をつかれる球審には申し訳ないが、球審のストライク、ボールのコールもプロ野球観戦のだいご味として、今後も楽しませてほしい。

 実際にアメリカでは、ストライク判定を機械が行って球審に伝達する“ロボット審判”が今シーズンから3Aで採用になっていて、メジャーリーグでも導入を検討しているというが、この件がきっかけで、日本のプロ野球でもAI球審採用への動きが加速するのだけは、ほんとに勘弁してほしい。と切に思う。

越智龍二

著者プロフィール 越智龍二

1970年、愛媛県生まれ。なぜか編集プロダクションへ就職したことで文字を書き始める。情報誌を中心にあらゆるジャンルの文字を書いて25年を超えたが、好きなジャンルは、巨人、ヴェルディ、パチスロ、漫画、映画。会ったら緊張で喋れない自分が目に浮かぶが、原監督にインタビューするのが夢。