メジャー最高額へ~米メディアが報じる

 非公式の話し合いは既に複数回に及び、米メディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者は「エンゼルスは、大谷との再契約に年平均でメジャー史上最高額を上回る提示をする必要があると理解していることをネズ・バレロ氏(大谷の代理人)に伝えた」としている。今季メジャーの年俸最高額はマックス・シャーザー投手(メッツ)で4330万ドル。まだ契約年数など具体的な提示には至っていないもようだが、大谷とエンゼルスは昨年2月に2年総額850万ドル(約 11億5600万円)で条件合意し、今オフが年俸調停の最終年。順調なら2023年シーズン後のオフにフリーエージェント(FA)となって全球団と交渉ができる現状を踏まえると、エンゼルスは遅くとも来季開幕前に新たな契約をまとめる必要がある。

 23歳だった2018年にメジャー移籍を果たした大谷。当時は2億ドル(約272億円)の価値があるとされながら、16年12月に改定された労使協定で25歳未満の海外選手に対する年俸制限が適用され、1年目は最低保障の年俸54万5000ドル(7400万円)、2年目は同65万ドル(8840万円)、3年目は同70万ドル(9500万円)という凡庸な契約にとどまった。7球団との面談の末、6年契約でエンゼルス入りを決めた当時から米メディアでは「大バーゲン」と表現されていたが、まさにエンゼルスはこれ以上ない“お宝”を掘り当てたといっていい。昨季、打者として打率・257、46本塁打、100打点をマークし、投手で9勝を挙げるなど投打にわたってメジャー屈指の能力を証明し、ア・リーグ最優秀選手(MVP)にも輝いた二刀流に、今や注目しない球団はない。

《大谷の年俸推移》
2013年 日本ハム 1500万円
2014年 日本ハム 3000万円
2015年 日本ハム 1億円
2016年 日本ハム 2億円
2017年 日本ハム 2億7000万円
2018年 エンゼルス 54万5000ドル(約7400万円)
2019年 エンゼルス 65万ドル(約8840万円)
2020年 エンゼルス 70万ドル(約9500万円)
2021年 エンゼルス 300万ドル(約4億800万円)
2022年 エンゼルス 550万ドル(約7億4800万円)

 さらに大谷の入団に伴い、エンゼルスは日本企業6社とスポンサー契約を結び、大谷の投げる試合は平均で3800人ほど観客動員が増加したという。1試合につき2000万円超の増収がある計算。グッズの売り上げも、スター選手のマイク・トラウトを上回ると人気ぶりで、選手として勝利に貢献するだけでなく、経済効果も大きいとなれば、全力で大谷の引き留めを図ることが想定される。

大谷が望むのは“勝てるチーム”

 ただ、実際はそう単純ではない。米紙ニューヨーク・ポスト(電子版)は「エンゼルスは大谷翔平について難しい問題を抱えている」との見出しで報道。財政的に、大谷の年俸を賄いきれなくなる可能性を指摘する。エンゼルスは、トラウトと年俸換算でメジャー2位の3710万ドル(約50億1000万円)という大型契約を12年間にわたって結んでおり、アンソニー・レンドンともメジャー3位となる年俸3660万ドル(約49億8000万円)の7年契約を結んでいる。平均年俸がメジャー上位3位に入る選手を2人も抱えている中、大谷にそれを超える額を提示できるのか疑問視する声が上がるのは当然だ。

 エンゼルスの昨季総年俸は1億9810万ドル(約270億円)で全体の7位(1位はドジャースの2億6210万ドル=約356億円)。年間収入は3億5000万ドル(約476億円)ほどと推計されており、決して出せない金額ではない。ただ、トラウト、レンドンだけで総年俸の40%近くを占め、多くを低年俸の若手選手でチームを構成する“いびつさ”が、大谷と大型契約を結べば、さらに拡大することは避けられない。

 大谷は昨年9月26日の記者会見で、「ファンの人も好きですし、球団の雰囲気も好き。ただ、それ以上に勝ちたい気持ちが強い。もっとヒリヒリするような9月を過ごしたい」と待遇面のみならず、プレーオフ(PO)に進出できるだけのチーム力を自身の去就を考える上で重要な要素としていることを示唆した。今季、チームは貯金を最大11まで増やしながら球団ワーストの14連敗を喫するなどして失速し、大谷と信頼関係を築いていたジョー・マドン前監督を解任。その後、フィル・ネビン監督代行のもとでも成績は低迷しており、POに進出できるかは微妙な状況だ。チーム全体の底上げを図るには、大谷ら一部のスター選手に大枚をはたく現在の体制の見直しが必要と指摘する声は多い。

大谷に相応しい金額は80億円!?

 ベーブ・ルース以来の投打二刀流での活躍とあって、どうその価値を算出するかで議論もある。ニューヨーク・ポスト紙は、大谷に相応しい年俸の試算として、リーグを代表する指名打者、J.D.マルティネス(レッドソックス)の2200万ドル(約29億9000万円)と昨季サイ・ヤング賞(最優秀投手賞)のロビー・レイ(マリナーズ)の2200万ドル(同)を合算し、さらにマーケティングでの収益1500万ドル(約20億4000万円)を追加した6000万ドル(約81億6000万円)が、大谷との契約では必要と伝えている。

 ここで、メジャーリーグの年俸5傑とスポーツ界全体の年俸10傑(いずれも広告契約など副収入を除く競技による収入、チームからの給与のみで計算)を見てみよう。

《メジャーリーグ・今季の平均年俸TOP5》
1 マックス・シャーザー投手(メッツ) 4330万ドル(約58億9000万円)
2 マイク・トラウト外野手(エンゼルス) 3710万ドル(約50億1000万円)
3 アンソニー・レンドン内野手(同上) 3660万ドル(約49億8000万円)
4 ゲリット・コール投手(ヤンキース) 3600万ドル(約49億円)
5 カルロス・コレア内野手(ツインズ) 3510万ドル(約47億7000万円)
【注】大谷は550万ドル(約7億5000万円)

《世界のアスリート・平均年俸TOP10》
1 サウル・アルバレス(ボクシング、メキシコ) 8500万ドル(約115億6000万円)
2 リオネル・メッシ(サッカー、アルゼンチン) 7500(約102億円)
3 ネイマール(サッカー、ブラジル) 7000万ドル(約95億2000万円)
4 マシュー・スタッフォード(アメリカンフットボール、米国) 6980万ドル(約95億円)
5 ジョシュ・アレン(同上、同上) 6300万ドル(約85億7000万円)
6 クリスティアーノ・ロナウド(サッカー、ポルトガル) 6000万ドル(約81億6000万円)
6 タイソン・フューリー(ボクシング、英国) 6000万ドル(同上)
8 ルイス・ハミルトン(F1、英国) 5700万ドル(約77億5000万円)
8 アーロン・ロジャース(アメリカンフットボール、米国) 5700万ドル(同上)
10 デショーン・ワトソン(アメリカンフットボール、米国) 5550万ドル(約74億8000万円)
【注】米経済誌フォーブス調べ


 意外かもしれないが、実は世界規模の比較では、メジャーリーガーはトップ10に1人も入らず、メッシやネイマールらサッカー勢に、ボクシング、アメフトの選手らが並ぶ。ただ、大谷が今回、ニューヨーク・ポスト紙が試算する6000万ドルの契約を結べば、C・ロナウドに肩を並べ、一気に全体の6位に浮上する。また、北米の4大プロスポーツ(MLB、NHL、NFL、NBA)の最高総額であるNFLチーフスのQBパトリック・マホームズの10年総額5億3000万ドル(約720億8000万円)を超える可能性もある。もちろん、年俸額だけがアスリートの価値を図る基準とはいえないが、大谷がMLBを世界のスポーツ界にその名を刻むだけの契約を結ぶ可能性があるのは、確かだ。

大谷争奪戦に名乗りを上げるのは?

 では、実際問題として、大谷は今後どの球団でプレーするのか。FAとなる23年オフには29歳。右肘の靱帯再建術(通称トミー・ジョン手術)、左ひざの手術を受けるなど、大谷には米移籍後もけがに悩まされてきた経緯がある。体への負荷が大きい投打二刀流をいつまで続けられるのかは不透明。米球界関係者によると、大谷は平均年俸以上に契約年数を重視している一方、エンゼルス側は長期契約に慎重な姿勢を示しているとの情報もある。MLB公式サイトも「どれだけ持ちこたえることができるか疑問に持つのも当然のこと」としている。

 そんな中、大谷の獲得に最も近い球団として名が挙がるのがメッツだ。メッツのゼネラルマネジャー(GM)はエンゼルスで2015-20年にGMを務めたビリー・エプラー氏。大谷がポスティングシステムで日本ハムからエンゼルスに移籍した際、獲得に尽力した人物で、メジャーでの投打二刀流挑戦を後押しした一人だ。二刀流の継続には、6人で回す先発ローテーションなど、起用法でかなりの柔軟性をチームとして持つことが求められる。融通を利かせてもらえるかは、チームの方向性を決めるGM次第。エンゼルスはその点で大谷にとって理想的な環境ではあるが、より資金力に富んだメッツが名乗りを上げるなら話は別だ。

 メッツを20年に米プロスポーツ史上最高額の24億ドル(約3264億円)で買収したオーナーのスティーブ・コーエン氏は、メジャー球団のオーナー随一の資産家で、米経済誌フォーブスによる推定資産は約146億ドル(1兆9860億円)に達する。資金力の不安は皆無で、米スポーツ専門ラジオ「WFAN」は「メッツが理想的な相手」とし、スポーツ専門サイト「ファンサイド」もエンゼルスが交渉を打ち切ってトレードに出す可能性を指摘した上で、その場合の移籍先候補に挙げている。

 いずれにしても、その契約が世界的に注目を集める規模になることは確実。日本出身のアスリートが、未知の世界に足を踏み入れようとしている。


VictorySportsNews編集部