日本アマチュアボクシング界の至宝
23歳の堤は千葉・習志野高校2年生の時に世界ユース選手権で日本人選手初となる優勝を飾り、同年の日本ボクシング連盟が選出する最優秀選手賞をシニアを差し置いて受賞。一躍アマチュアを代表する選手となると、翌年も高校生ながら全日本選手権大会を制して同賞に選ばれた。
高校卒業後は東洋大学に進み、東京五輪を目指すも、コロナ禍のあおりで世界最終予選が中止となる不運などもあって叶わず。プロ転向会見を行ったのは今年の4月のことだ。
高校で6冠、シニアも合わせて計13冠を獲得。アマチュア通算88勝26KO・RSC6敗。これは高校入学以降の戦績で、UJ(アンダージュニア)では26勝11KO・RSC3敗の記録を残している。
「次代の井上尚弥」と騒がれるのも納得のプロフィル。アマチュアの頃からすでに井岡と同じマネジメント会社と契約を結んでいる。ちなみに堤の弟の麗斗(東洋大学)もアマチュアのトップ選手として活躍中である。
プロデビューから順調すぎる闘い
4月26日のプロテスト(B級)には、会場の後楽園ホールに通常よりかなり多くのメディアが駆け付けその注目度の高さを裏付けた。そしてデビュー戦は特例で史上10人目となるA級8回戦で臨み、元フィリピン・チャンピオンのジョン・ジェミノに大差判定勝ちを収めた。
結果は井上のようにKOデビューとはいかなかったものの、だからといって堤の評価が低くなる試合ではなかった。ジェミノ(23勝13KO13敗1分)は負けも多い選手ながらプロの経験が豊富で、ガードが堅くタフなファイター。戦前、「ジェミノに勝てば大したもの。よくデビュー戦の相手に選んだものだ」とあきれる関係者もいたのだ。
実際、歴戦のファイターらしい老かいさを発揮するジェミノは一筋縄ではいかない相手だった。独特のタイミングで左右を強振し、時にスリリングな場面もあった。これに対して堤は得意の左ジャブからシャープなヒットを奪いつつ、ボディーブローも効果的に放ってポイントを奪った。決定打こそ出なかったが、ジャッジ2人がフルマーク(80-72)をつけ、残る1人も79-73のスコアだった。
試合後、堤が「悔しい」と語ったのは、完封以上の結果を狙っていたからだろう。しかしフルラウンドをこなして大器が示したものは多い。アマチュアから長く培ったテクニックはもちろん、自分にとって未知のラウンド(8回)をペースを落とさず戦ったこと、さらに危険な相手をしっかり迎え撃つ度胸……どれも世界のリングでわたり合うには欠かせない資質である。
もうひとつ、途中で堤は両拳(2回に左拳、5回に右拳)を痛めていたという。アマチュアではおそらく遭遇しなかっただろうトラブルにも冷静で、焦りを表に出さず試合を進めていたのだ。このデビュー戦で堤の非凡さは十分証明されたといえるだろう。
プロ1戦目終了ですでにランカーに
8月9日付で発表されたOPBF(東洋太平洋)ランキングでは、フェザー級4位に入った。前月まで5位のジェミノに大勝したのを評価されたものだ。プロに転向して、堤は初となる“肩書”を手にした。
ちなみにプロデビュー戦に勝利したボクサーがランキング入りするのは、なにも初めてではないが、これもやはり異例。
過去の例をみてみると、デビュー戦でいきなりOPBF現役王者の柴田明雄と対戦し、2回TKOで圧勝した村田諒太(帝拳)はOPBFと日本のランキングでさっそく1位に名前が載った。
また井上もフィリピン王者を倒した初戦を受けてライトフライ級でランクインしている(OPBF10位、日本6位)。ここからスタートして、ついにはパウンド・フォー・パウンド(PFP)ナンバーワンに至った。
堤の場合も、プロ転向会見で掲げた「PFP上位に入る選手」という将来の目標に向けて、その第一歩となるわけだ。