そのなかで世界トップクラスのランナーも参戦する。エリート部門の男子にはハーフマラソンで世界歴代4位の57分59秒を持つアレクサンダー・ムティソ(NDソフト)、59分台のベナード・キメリ(富士通)とジョセフ・カランジャ(愛知製鋼)らが出場予定。日本勢では7月のオレゴン世界選手権の男子マラソンで13位と健闘した西山雄介(トヨタ自動車)、昨年2月の全日本実業団ハーフで日本人トップに輝いた市田孝(旭化成)、ハーフ1時間1分37秒の上門大祐(大塚製薬)らが〝世界〟にチャレンジする。外国勢とうまく競り合えば、日本記録(1時間00分00秒/小椋裕介)の更新も期待できるだろう。

残念ながら招待選手だった東京五輪マラソン代表の中村匠吾(富士通)と服部勇馬(トヨタ自動車)は「故障のため」に欠場。招待選手以外でも、設楽悠太(Honda)、吉田祐也(GMOインターネットグループ)などが出場をとりやめたものの、多彩なランナーが揃った。ボストンマラソンを制したこともある川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)、駒大時代に1時間00分50秒の学生記録(当時)を樹立した村山謙太(旭化成)。それから順大、創価大、帝京大といった箱根駅伝を目指す大学の選手も出場する。秋の東京がランナーたちで染まることになる。

エリート部門の女子にはハーフマラソンで1時間7分台の自己ベストを持つベッツィ・サイナ(米国)とドルフィンニャボケ・オマレ(ユーエスイー)がハイレベルの争いを繰り広げそうだ。日本勢は1時間10分00秒前後のタイムを持つ山口遥(AC・KITA)、福良郁美(大塚製薬)、太田琴菜(日本郵政グループ)が出場する。

大会2日前のプレスカンファレンスにエリート部門からは4人のランナーが登壇。レースの意気込みを語った。

男子V候補筆頭のアレクサンダー・ムティソ(NDソフト)は、「東京でハーフを走るのは初めてなので、コースはあまり分かりません。ただ、できるだけ速いタイムを狙って走りたいと思っております」とコメント。12月のバレンシアで初マラソンに挑むプランがあるだけに、東京をステップの舞台にするつもりだ。

オレゴン世界選手権以来のレースとなる西山雄介(トヨタ自動車)は、「自分の状態確認をメインにおいて、レースを進めていけたらなと思っています」と冷静だったが、こんな思いも抱いている。

「東京レガシーハーフのコースは来年のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の一部コースになる可能性があります。その試走を含めて、レースペースを体験するのが大事になってくると思うので参加を決めました」と未来を見つめている。現在のフルマラソンにおける自己ベストは今年2月の別府大分毎日マラソンでマークした2時間7分47秒だが、「目指すべきは2時間5分や4分台。記録をどんどん更新していきたい」と話していた。

女子のベッツィ・サイナ(米国)は2016年リオ五輪10000mで5位に入っているスピードランナー。今回が出産を経て初のレースになるだけに、「まずは自分のカラダがどのような状況なのかを確かめるためのテストレース」と位置づけている。ただし2017年の東京マラソンが途中棄権に終わったこともあり、「できるだけコンペティティブなレースをして、なるべく速いタイムで走りたい」という熱い気持ちもあるという。「東京レガシーハーフは私にとっては大きな意味がある」と今後はメジャーマラソンに再アタックするようだ。

〝市民ランナーの星〟である山口遥(AC・KITA)は去夏の東京パラリンピックで女子マラソン視覚障害クラスの西島美保子選手の伴走を務めている。「東京は西島選手と走ったり、歩いたり、止まったりした思い出のコース。今度は自分ひとりで駆け抜けたいと思ってエントリーさせていただきました。あまりハーフを走る機会はないので、自己ベストを目指して走りたい」と目を輝かせていた。

スポーツの秋に誕生する〝もうひとつの東京マラソン〟は市民ランナーだけでなく、トップ選手の意識を変える可能性を秘めている。

「国立競技場という東京オリンピック・パラリンピックのシンボリックな施設をスタート&フィニッシュ地点に、形として残るレースを続けていきたいという気持ちで創設しました。レガシーとして末永く継承し、人々の感動の記憶とともに残していけるようにという思いがありますし、この大会を機に走り始めました、という人が増えていくこともレガシーになると考えています。国立競技場周辺はアップダウンがあるんですけど、それ以外はフラットなコースです。非常に面白い展開になるのではないでしょうか。日本勢は海外選手の力を借りて、上のフェーズのレースをしてほしい。東京レガシーハーフマラソンも、東京マラソンがそうだったように、数年間をかけて世界屈指のレベルの大会に成長させたいと思っています」(早野忠昭レースディレクター)

10月16日の朝8時05分。東京が世界に誇るロードレースが〝デビュー〟する。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。