2月の北京五輪で銅メダルを獲得した堀島行真(24=トヨタ自動車)は「今季は総合優勝を目標にやりたい。昨季は2位。1位との差を埋められるように初戦からしっかりやってきたい。楽しみなシーズンになる」と総合優勝を目標に掲げた。昨季はモーグルと、デュアルモーグルを合わせた12戦すべてで表彰台に立ち、総合2位。悲願の初優勝を目指すシーズンとなる。

 最大のライバルはミカエル・キングズベリー(30=カナダ)。五輪3大会連続メダリストで過去10度のW杯総合優勝誇る実力者だ。さらに北京五輪で金メダルを獲得した成長著しいウォルター・ウォルバーグ(22=スウェーデン)も上位に食い込む可能性が高い。初出場した2018年平昌五輪は21位。昨季W杯も2位が最高成績だったが、北京五輪で勝負強さを見せて頂点に立った。この3人を軸に優勝争いが展開される見通しだ。

オンライン対談オフィシャル画像(スクリーンショット)

 W杯開幕が迫った11月中旬、堀島はユニクロが主催するイベントでウォルバーグとオンラインで対談した。堀島が合宿先の長野、ウォルバーグが母国スウェーデンから参加。かねてから親交があり、大会中もコースの特徴などを情報交換する間柄でもある。4月にウォルバーグが来日した際はイベントで一緒に北海道、新潟などを回り、関係を深めた。

 ウォルバーグは10月の練習中に左手首を骨折してW杯第1戦を欠場する見通しだが、既にギプスは外れ、順調に回復。「トレーニングもジャンプもうまくできているので、心配していない。まずはしっかりとケガを治して、総合優勝を目指したい」と力強く宣言した。

 堀島は「(ウォルバーグは)北京五輪では失敗を恐れないスピードある滑りで優勝した。気持ちの強さが表れていた滑りだった。体にも恵まれていて、どんなに難しいコブでもフィジカルの強さで対応できる。どんどん強くなり、安定感のある選手になってきている。追い上げられている感じはしているし、ライバルとしてもこれからの成長が楽しみな選手。早く手首を治して一緒に戦いたい」とエールを送った。

 ウォルバーグの成長を支えるのが、ユニクロだ。2019年にスウェーデン・オリンピック委員会とパートナーシップ契約を締結。東京五輪および北京五輪で、開閉会式などの式典をはじめ、練習や試合、大会に関連するイベントなどで着用されるウェア全般を提供した。

 2021年にはスウェーデン・スキー連盟とオフィシャルサプライヤー契約を締結。モーグルのスウェーデン代表選手団が着用する競技ウェアをはじめ、トレーニングや移動時などあらゆるシーンに対応するウェアを提供している。スウェーデン・スキー連盟は1908年に設立。国内の1300のスポーツクラブに約14万6000人の会員が加盟するスウェーデンで最大規模のスポーツ連盟だ。

 昨季モーグルのスウェーデン代表は北京五輪のウォルバーグの金メダルを筆頭に、国際舞台で好成績を収めた。W杯では銀4、銅5のメダルを獲得。ヨーロッパ杯では金8、銀8、銅8と量産した。

 選手のパフォーマンスを最大限に引き出したウェアは選手に好評で、今季も契約を延長。ユニクロは新シーズンに向けてウォルバーグをはじめとする選手たちからのフィードバックをウェアに取り入れ、シルエットやパーツ、素材などを改良した。よりアクティブな動きを可能にするため、膝の切り替え部分(ニーマーク)のパターンと縫製仕様を改善。モーグル特有の摩擦を防ぐため、パンツの裾は素材と縫製仕様を強化した。

スウェーデン選手団 オフィシャル写真

 スウェーデン・スキー連盟でスポーツディレクターを務めるロバート・ハンソン氏は「ユニクロとのパートナーシップを継続することができて非常にうれしく思います。2021年の契約締結以降、ユニクロのLifeWearは選手たちの最高のパフォーマンスを引き出してくれています。選手たちの声を生かしてウェアの改良にも取り組み、選手のますますの活躍が期待できます。ユニクロと共に、世界中の方々にウィンタースポーツの楽しさを伝え、その魅力を発信し続けていきたいと思います」とコメントした。

 ウォルバーグは「ユニクロとの契約が1年間延長となり大変うれしく思う。細かい改良がなされ、パンツは少しワイドなシルエットになり、ジャケットはいいフィット感になっている。去年のウェアも良かったが、そこからさらに改善されている」と強調。北京五輪で金星を挙げた縁起の良いユニクロの〝新戦闘服〟に満足げで「今季もラッキーアイテムになってくれると思う」と信頼を口にした。

 堀島にとって、公私で親交のあるウォルバーグの台頭は何よりの発憤材料。モチベーション維持が難しいとされる五輪翌シーズンでも、歩みを止めることはない。毎年オフにはトレーニングの一環で他競技に取り組むことが恒例で、今年は「棒高跳び」「アーチェリー」に挑戦した。道具のしなりを利用する感覚を養う狙いがあり「棒高跳びは棒のしなりを利用することや、高さへの慣れなど、昔からスキーにつながると思っていた。陸上競技にチャレンジしたいと思っていたのでできて良かった」と収穫を口にする。

 過去には「体操」「トランポリン」「フィギュアスケート」「飛び込み」「スノーボード」「パルクール」なども経験。スケートでは数ミリの刃のエッジに体重を乗せて滑る繊細な足裏感覚を磨き、体操や飛び込みでは空中感覚を研ぎ澄ませた。

 さらに五輪メダリストになった北京五輪後からは「歩くこと、座ることも見られる」とウォーキングレッスンに通い「本当の歩き方とは何か」を追求。「モデルのようなイメージ。足が長く見える、凜とした歩き方になれるように」と歩く姿勢を改善した。雪上、日常生活を問わない、どん欲な姿勢が成長を後押ししている。

 岐阜県出身の堀島は両親の影響で1歳からスキーを始めた。幼少時代から誰もが認める練習の虫。小学4年生から通い始めたウォータージャンプ場では、2時間半で100本跳んだ伝説を残す。肋骨にヒビが入っても痛みを隠して練習を続け、後日医師から「もう治りかけている」と言われたこともある。

 岐阜第一高から中京大に進学。2013年2月の猪苗代大会でW杯デビューし、17年の世界選手権ではモーグルとデュアルモーグルの2冠を達成した。2018年平昌五輪では優勝を期待されたが、11位に低迷。エアで高難度の技を選択して、決勝の2回目の第1エア後に転倒したことが響いた。この悔しさをバネにエアだけでなく、滑りも重視するスタイルに変更。世界屈指のカービングターンをつくりあげ、総合力で戦う真の強さを身につけた。

 11月にはフリースタイルスキー・モーグル女子の北京五輪代表で7月に引退を表明した住吉輝紗良(きさら)さん(22)との結婚を発表した。長年、日本代表のチームメートだった2人は約5年前から交際を開始。今後は夫婦二人三脚で、26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪での金メダル獲得を目指す。

 銅メダルを獲得した北京五輪の競技直後のセレモニーで、堀島は滑ったばかりのコースを見つめて言った。「次に滑るならもうちょっとこうしたい…。本当の夢は金メダル。これからまた頑張りたい」と。

 それから約10カ月。五輪で頂点に立つ決意を新たにし「4年間で金メダルに向けてどのような準備ができるかを楽しみにしたい。他の選手も金メダルを目指す中で最大の準備をしていきたい」と力を込めた。モーグルはノルウェー語で「コブ」を意味する。ミラノ・コルティナダンペッツォでの夢の実現へ、凸凹斜面と向き合う日々は続く。


VictorySportsNews編集部