井岡一翔と大みそか

 井岡恒例の大みそか戦(実に11度目!)もまた統一戦である。WBO(世界ボクシング機構)スーパーフライ級王座を5度防衛中の井岡とWBA(世界ボクシング協会)のチャンピオン、ジョシュア・フランコ(アメリカ)が互いのベルトをかけて対戦する。統一戦にわいた今年のボクシング界の掉尾を飾る一戦と言えよう。

 井岡にとっては、待ちに待った試合だ。ミニマム、ライトフライ、フライの3階級制覇を達成し、一度は引退した。ほどなくしてスーパーフライ級で復帰した際に掲げたのが、海外で評価の高い強豪ボクサーと戦って勝つことだった。

 折しもスーパーフライ級はローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)を筆頭に軽量級ながらパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでも上位の世界的選手がしのぎを削っていた。彼らと拳を交えたいというのが、井岡が追い続ける目標である。

 2019年6月、スーパーフライ級のWBO王座を獲得した時も井岡は「世界に出ていくためのチケットを手にした」と表現したものだ。こつこつとWBOの指名挑戦者を退けながら井岡はチャンスをうかがってきた

一年越しの統一戦

 実は、井岡の統一戦は昨年末に行われるはずだった。当時IBF(国際ボクシング連盟)のベルトを持っていたジェルウィン・アンカハス(フィリピン)と対戦することが決まっていたのだ。しかしこの一戦が行われることはなかった。新型コロナウイルスの変異株が急拡大し、政府が外国人の入国を当面禁止する措置をとったため、アンカハス戦の開催を見送らざるを得なくなったのである。

 井岡は大みそかに別の相手(福永亮次)と戦い、さらに今年になって7月に再び指名挑戦者(ドニー・ニエテス)を撃退。防衛テープを伸ばして、ついに念願の統一戦にたどり着いた経緯がある。

 この間には、アンカハスがこけたことでIBF戦線が混乱し、井岡との統一戦のタイミングが微妙になった。そこでWBA王者フランコ側とも交渉を進め、首尾よくこちらで実現に漕ぎつけた。「一年越しの統一戦です」と語る井岡には期するものがあるだろう。ベルトを2本まとめてさらに存在感を示し、現在WBC(世界ボクシング評議会)のタイトルを持つエストラーダを引きずり出すつもりだ。

 フランコは18勝8KO1敗2分1無効試合の戦績を誇る、WBA王座1度防衛中のチャンピオン。実弟は前WBCスーパーフライ級王者で、王座を返上してフライ級に転じたジェシー・ロドリゲス。兄弟世界チャンピオンとしても知られている。

 弟はサウスポーのブリリアントなボクサーファイターだが、兄ジョシュアは積極的なファイター型。「出てくる相手」を得意とする井岡だけに、試合のかみ合わせはいいだろう。2年前の大みそか戦で田中恒成(畑中)の挑戦をはね返した時のような名勝負も期待できそうだ。

 なお、井岡−フランコ戦はこれも恒例のTBSが中継する。冒頭の通り、ボクシングの地上波中継が以前と比べて減ってはいる中、孤軍奮闘している。名チャンピオン井岡には今回も「これぞボクシング」という試合をお茶の間に届けてほしい。


VictorySportsNews編集部