W杯カタール大会の1次リーグで2-1の番狂わせを演じた初戦のドイツ戦。ゴールを挙げた堂安律(24)はフライブルク、浅野拓磨(28)はボーフムに所属し、いずれもブンデスリーガで腕を磨いた選手だった。日本の主将の吉田麻也(34)は今季シャルケに加入したし、主軸を担った鎌田大地(26)はアイントラハト・フランクフルトで昨季の欧州リーグ制覇を経験。遠藤航(29)もシュツットガルトで主将を任されるほどの信頼を得ている。日本選手の欧州進出が「日常」ともいえるような時代になったが、ドイツがその受け皿であり続けているのには大きな理由がある。

【2022~23年シーズンの主なブンデスリーガ所属日本選手】(1/30時点)
(1部)
吉田 麻也(シャルケ)
原口 元気(ウニオン・ベルリン)
遠藤 航(シュツットガルト)
伊藤 洋輝(シュツットガルト)
長谷部 誠(アイントラハト・フランクフルト)
鎌田 大地(アイントラハト・フランクフルト)
板倉 滉(ボルシアMG)
浅野 拓磨(ボーフム)
堂安 律(フライブルク)
上月 壮一郎(シャルケ)

(2部)
田中 碧(デュッセルドルフ)
アペルカンプ真大(デュッセルドルフ)
内野 貴史(デュッセルドルフ)
奥川 雅也(ビーレフェルト)
伊藤 達哉(マクデブルク)
室屋 成(ハノーファー)
遠藤 渓太(ブラウンシュバイク)


 なぜこんなにも多くの日本選手がドイツでプレーしているのか。理由に挙げられるのは「日本人とドイツ人の気質が似ていて、なじみやすい」ということがよく言われる。しかし、これには「比較的」という注釈がつく、と筆者は考えている。もちろん、まじめで堅い国民性というイメージは、その通りなのだが、「ほかの欧州の国に比べれば」という程度であって、ドイツに渡った当初にそれなりのカルチャーショックを受けて「どうしてこんなに予定通りに物事が進まないのか」「もう日本に絶対に帰ろう」といった声を取材中に聞いたことも少なくなかった。

 実は日本選手のドイツ進出の大きな後押しとなっているのは、ブンデスリーガの選手登録に関するルールにある。一般的に「外国人枠」と呼ばれる制度が、実はドイツにはない。簡単に言うと、チーム内に一定数の地元出身選手がいればOKで、外国籍選手の人数に関する制限はない仕組みである。

 ドイツ・リーグ公式サイトによると、もともとはブンデスリーガにも外国人枠はあった。それまで2人だった外国人枠は、1992年には3人へと増えた。しかし、2006/07年シーズンからこれを撤廃するという劇的な変革に踏み切った。

 加えて、「ローカル選手枠」という制度ができた。これは無責任な「青田買い」の乱発を抑止して10代の選手を保護しようとする欧州サッカー連盟(UEFA)の指針を、うまく組み込んだルールである。UEFAの指針に沿って、08/09年シーズンからは自クラブで育成した選手が4人、ドイツ国内のクラブで育成した選手4人の計8人がいなくてはならない、という形をとっている。「育成した選手」の定義は15~21歳の間に3年間、在籍すれば条件を満たすことになる。若年代で「移籍」をした選手対してもクラブがある程度は将来まで責任を持つ、という考え方が背景にあるといえるだろう。

 一般的に1クラブのトップチームは25人程度のことが多い。仮に25人編成のチームだとすると、ドイツのルールでは13人もの選手が純粋な外国人であっても問題がないのだ(外国人をさらに増やそうとする場合、編成の全体数を増やすことで可能となる)。さらに、たとえば18歳から3年以上ドイツ国内でプレーしていれば「ローカル選手枠」にカウントされる仕組みもあるため、突き詰めるとブンデスリーガでプレーするために国籍は障害となることは原則的にはないといえる。

 近年、よく久保建英(21)が「EU圏外枠が埋まっているからレアル・マドリード(スペイン)に戻れない」という言い方をされていたが、ドイツではそういうことが起こらないのだ。また、イングランド・プレミアリーグのように代表戦出場など一定の条件が求められることもない。

 EU加盟国では移動の自由が保障されているので、EU圏であればいわゆる「外国人」とはみなされないが、EU圏でない日本にとっては、「外国人枠」は一つのハードルになることが多い。スペインやイタリアは、一定期間以上の在籍などで外国出身選手が外国人枠の対象から外れることがあるが、いきなり飛び込むリーグとしては、ドイツは四大リーグの中では敷居が極めて低いのである。

 Jリーグは登録に関しては外国人の制限を設けてはいないが、「試合エントリー枠」というものがある。J1が5人、J2とJ3は4人を上限としている(タイ、ベトナムなどアジアの8か国はリーグ提携国のため国内選手と同じ扱いで、ここに含まない)。つまり、例えば10人もの外国人選手と契約しても試合では同時にプレーさせられず、契約の時点でこの人数は大きな歯止めとなる。その意味ではドイツとは大きな違いといえる。

 2010年の香川真司(33)のドルトムントでの大ブレークから、日本選手が奮闘を続けて高い評価を受け続けていることも追い風になっているのは間違いない。ただ、リーグの制度としても外国人を広く受け入れ、同時に育成にも力を入れるという「両輪」を推し進めているのがブンデスリーガなのである。


土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材